第一部 第二章 To
キィーバに住んでいる者達も山登りを好みます。彼らのよく行く所が東側にある山です。そこは海抜で言うと、三千八百八十一メートル。しかし、キィーバの地からだと、九百メートル程度の小さな山で、子供達の遠足などにも使われる山です。
その山の名前は、まあちょっと変わった名前なのですが、ソイソー、テリーをはじめ、キィーバの者の多くがある一つのことを信じています。
それらのことは、三章の最後辺りで明かされる予定となっているので、どうぞお楽しみに。
では、本文をどうぞ。
この洞窟だな。…うん、間違いない。」足元には、濃い緑の葉が何枚か落ちていた。時折吹く山への風に乗って森の葉がここまで運ばれていた。今はまだ、山に来た時から聞こえる轟音と供にあった山からの風が、辺りを支配していた。ここは入口付近と比べてかなり強い風だった。大分登ってきたし、割合開けた場所だからだか、と彼は思った。テリーは振り返って周りを眺めた。そこには、その葉の兄弟達、巨木に連なる仰々しいまでに深い色を湛えた緑の覆いの、その下の端が見えていた。
「しかし、何て高さだ。」テリーは、少し前に、自分が父親に連れられて城にある「シュゴの塔」と呼ばれる所に行ったことを思い出した。その塔もかなりの高さがあった。今居る辺りはその塔の十五階くらいの高さだろうと感じていた。顔を上げると葉の覆いの頂点と思しき所が見えた。「(あの頂辺が塔の頂上ぐらいか?)」そんなことを思った時に、陽の光が急に眩しくなってきて、テリーはすぐに顔を伏せた。すると、偶然、その目線の先は、蟻よりも小さくなっているソイソーの靴に向けられた。
「あいつ、まだあの洞窟に居るのか? 絶対見つからないぜ、あそこじゃ。」テリーの遥か下には、小さな岩が二つと、それよりも更に小さな、ここからでは小石に見える大きさの岩があった。自分もだが、今は競争相手が探索しているあの洞窟はここからだとただの岩としか映らなかった。「(不思議な形だ…)」とテリーは今更ながらに思った。
そして、ソイソーが靴を置いた所、ここからでは、お城の中庭にある池の周りに敷き詰められている小石にも見える、「『サナエ』と鳴いた者」が隠れていたあの縦長岩は、テリーが山を歩いていくにつれて、じわじわと気になりだしたものなのであった。この時点では、ドラゴン岩と同じくらいに印象に残るものとなっていた。岩は山の外部から来た者が見ると、いわゆる、ただの石碑であった。そこには文字が、テリーやソイソーでも読むことのできる現代文字、すなわち、フォーダース・ユマン語が記されていた。縦長岩の真ん中に遠慮がちな大きさで以って、こう書かれていた。
「スンボー」ソイソーとテリーはそれで、この山の名前が「スンボー」であると知ったのだった。ソイソーはそれでよかった。少年の勘は、大抵がその時に必要なものを求めているから、後は、その石碑に少年の目が行くことはなかった。もちろん、イタズラは必要なものであった。だが、テリーは裏を見た。ざっとだが、全てを見た。
「人の名前でもあったのか? まるで墓石みたいだ。」その時はそれだけだった。裏側にあったのは、ソイソーはもちろんだとしても、テリーの見たことがない、もしかしたら学院の先生達に聞いても、正確な答えが返ってこないんじゃないかと思われるような、見たこともない文字の群れであった。一文字が二センチメートル四方くらいで、それが一部を除いてびっしりと、テリーの推測では、縦書きで記されていた。印象的であったことの一つとして、これも彼の中での話しだが、その文字は右上から書かれているのであった。「異国では縦書きの文学があるらしいが、左からなのでは…。」そして、最後の部分、左下の僅かな所は、何故か、フォーダース・ユマン語なのであった。その単語が今、彼の中に木霊していて、同時に、石碑の映像をどんどんと鮮明に且つ大きくしていくのであった。お前を呼んだのはこの私だ、というようなことを何度も言われているみたいであった。しかし、
「(果たしてただの偶然なのだろうか)」とテリーは何度も振り返ってみるのだった。だが、思い返す度に、高ぶりと威圧が入り混じる、何とも変な気分を感じていくのであった。
「やめよ、やめよ。早く先進んで、仙人様を見つけないと。」テリーは素早く反転した。彼の正面には、一つの入口があった。ここに来るまでに九個の洞窟があり、彼はその中から選び分けて探索していき、ここまでは出くわしていなかった。風が彼の背後から流れてきた。テリーは早足で洞窟へと向かっていった。途中、落ちていた森からの葉を踏んで体勢を崩したが、ソイソーに劣らない抜群の反射神経で転ぶことはなかった。
「でも、あれが本当にあいつの名前だったら……。」
これからも、どうぞよろしくお願い致します。




