第一部 第一章 Ka
本編は、ソイソーとテリーの進行であります。
前回の前書きのような、フォーダースの世界に住む方が記したものを載せるという行為は、前書きに何を書いていいか分からなくなった時と、載せるようなものがあった時が重なった時に実施したいと思います。
空振りが始まってすぐ、それは、部長が地獄耳を発揮する十五分ほど前、ソイソーの扱きもまた、相手をしている副部長とのお喋りを交えて行われていた。副部長・
テリー=フランコ=ガーネットは四年生。二人は一学年違い。立場は、ただの部員と副部長。普通、そのような二人であるならば、対等な会話ができる関係ではないのであった。しかし、
「へっへっへっ。」 「何だよ、気持ち悪いな。」
「ついに、だよ。ついに。」
「だから、何がだよ?」
「見つけたんだ、仙人の住む山を。」
「それは残念だったな。俺は山だけじゃなく、どの洞窟に居るかも見当を付けてるんだぜ。」二人の会話はいつもこのような感じであった。二人がここまで親しいというのは、互いの家が非常に近いということの他に、親同士が上司と直近の部下という関係である、ということがあるからだった。二人の仲は剣術部に入るよりもずっと前のことで、このキィーバ国立小学院に入るよりも前であって、ソイソーの記憶で遡れる範囲だと、父親が何か凄く偉い人になった時には、すでにテリーと近所を走り廻っていたはずなのであった。実際には、更に五年と幾らか前の頃に、二人の間柄というのは決まっていたのだった。
「そもそも、お前の見つけた仙人の住んでる山って何処なのかなあ?」自分の方が仙人により近いところに居ると感じて、テリーは得意気になって言った。
「森の先にある…スンボーの山だよ。」一歩先を越されていると感じて、ソイソーも悔しそうに答えた。自分は昨日、あの大雨の中をたくさん走って山まで行ったんだ。ただ、そのせいで宿題があることを忘れて今日居残りをすることになって、でも、ショー=サナエに会うことができて、…。とにかく、テリーに負けない為に、テリーよりも強くなる為に、なんだ。今までも、これからもね。
一つ下のソイソーであったが、テリーのことは会った最初の頃から、ソイソーはそれを自分の記憶がある頃よりも前からであると体のどこかで感じ取っているのだが、そんな小さい時からすでに自分の生涯のライバルとなる存在であると意識をしていたのだった。そして、その事を感じ取っていたのか、いないのか、とにかく、テリーはテリーでソイソーのことをソイソーが抱いているのと同じような感じで見ていた。ソイソーは自分より一つ下ではあるが、あいつは何か自分に無い大きなものを持っているのではないだろうか、テリーもソイソーに初めて会った頃からそういう風に思う所があったのだった。
年上の自分が創めることを、その内の幾つかを選んでだが、追ってくるようにソイソーは創める。仙人探しもそうであった。
「…なるほど。スンボーまで行ったんだ…。」 「おお、その感じは同じ場し…、」
ゴンッ、という小さな音と同時に、ソイソーは柔軟運動を再開した。
「(それにしても、流石に鋭いな、あの山が怪しいと気付くところは。それに、あの森を抜けてきたということも。俺がその両方を知ることができたのは、親父が持っていた秘密の資料をこっそり見たからだっていうのに。)」テリーもソイソーの柔軟運動を手伝っている。遠く、校庭の真ん中では部員達が静かに空振りをしているところだった。今、部長の背中がテリーの方に向いたところであった。向こうに戻りたい、という気持ちも少しはあったが、ソイソーの特別練習に付き合った方が、練習量が多くいい鍛錬になる、とも思っていた。当然、ソイソーにとってもだが。「まだ、痛いんだけど。」
「ほら、早く立て。次は引っ張るぞ。」テリーは座っているソイソーの手を持つと、それを引き上げるようにしてソイソーをその場に立たせた。そのままテリーはソイソーの右手を左手で持ち、反対の手でソイソーの左手を取った。「いくぞぉ。」二人は足を開いて体を横一直線にした。テリーは右方向に、ソイソーは左方向に力を入れて相手の手を持っていた。それぞれ、少しずつ力を入れていきながら相手の手を持っていた。僅かだが、表情にも力の入っている様子が双方確認できた。少し左に動いたかと思ったら、すぐ戻り、今度は右に動いて、また戻る。普段は数十秒しかならないこの柔軟運動が、何故か、一分近くも続いていた。
「…。」テリーの方が両手を先に離した。ソイソーは勢い余って少し体勢が左側に崩れる形になった。ソイソーは、急になんで手を離すんだよ、と思い、相手の顔を見たが、見えたのは短く切り揃えられてる髪の毛と一番首に近いその生え際にある黒子だった。それは彼の後頭部にある特徴的なものなのであった。テリーは背を向けていて両腕を後ろに差し出していた。ソイソーはこの、前触れなく違う行動を取り始めるテリーの習慣について行けないことが、時々あった。次に移る前に、ソイソーは上体を軽く反って深呼吸をした。「…ふぅ…。」ソイソーはテリーの方に歩いて行った。
「よっと。」テリーは背中合わせでソイソーを持ち上げた。「ところで…。」
「な…に…。」二人共体が小刻みに動いていた。
「次の…休みの…日、勝負だ。ふぅー…。」ゆっくりとソイソーを地面に降ろした。ソイソーはほんの一瞬だけ振り返った。「勝負って、仙人探し?」そして、また前を向くとすぐに手を後ろに差し出して、テリーもソイソーの手が出た瞬間にそこに寄り掛かった。
「そうだ。…仙人を探す…ことができた方だけが、…修業してもらえ…るってことだ。」
「いいね…それ…。乗られてる…けど、乗った。」そう言って、ソイソーはテリーを降ろした。そして、お互いは向き合った。校庭に居る他の部員達は、まだ黙々と見えない剣や刀を振り続けていた。そして、今、その中の二人が部長からげんこつを貰っていた。二人の内ソイソーだけがその光景を見ていて思わず吹き出してしまった。
「随分と余裕だな、ソイソー。」 「あ、いや。ちょっと違うんだけど…。」
ソイソーは表情を戻してから、改めて言った。
「でも、負けないよ。知ってるでしょ? 僕の勘はもの凄くよく働くんだから。」
「そうだったな。だけど、俺が有利なのは間違いないぞ。」
「いーや、僕の勘が勝つ。」
「俺だ!」 「僕だ!」
二人共譲らずに、両者はその場で睨み合った。ソイソーの方が相手を少し見上げる形だった。口は横に伸びながらもしっかりと結ばれている。相手の目の茶色い部分に強い視線を送っていた。テリーは固く口を結んでいた。目を細くして且つ鋭さを作った状態で、ソイソーの青色の目を睨んでいた。この時間帯は夕陽の創る紅い光が一番強い頃だった。二人はそれぞれ顔面の半分ずつにその竜の炎にも見えるようなものを浴びているのだった。だが、彼らにとっては、その目に射し込む黄昏時の光等は何の障害にもならなかった。二人の近くを槍術部員達が「ラスト一周!」と言って走り抜いていっても、ソイソーはもちろんのことテリーも彼の視線に気付くことはなかった。二人はその者のことをそれぞれの角度から見て尊敬していたが、その者が放つ魔法のような力も今だけは、燃え盛る炎の近くを眺める一人の名士のような存在になっていた。だから、その走者達が過ぎ去ったのとほぼ同時に、僅か二人の者達がソイソー達の近くで足を止めたという行為だけでは、その炎が小さくなるということはなかった。
「副部長ー! なーにやってるんですか?」彼らの声にテリーが反応したのは、実に同じことを五回も言われた時なのであった。ソイソーでさえ気付くのに一回聞き逃す必要があった。その二度目の時に、ソイソーは、そこでテリーが睨み合いを止めると思ったので表情を戻そうとしていたのだが、テリーがその状態を維持していたから、おかしくてまた吹き出しそうになっていた。相手の方は向こうの顔が微妙に動いたことにおかしいとは感じていたものの、それが二人の存在を気付かせるところまでには至らなかった。
一分後、
「ん…ああ、どうした? 部長から何か伝言か?」
「部長のお仕置きを食らったから僕の特練に付き合うことになった、だって。」テリーは驚きの表情をソイソーに少しだけ見せてから、二人の後輩達に顔を向けた。
「あっ、はい。ソイソーの言う通りです。」彼らも少し驚いた感じの表情を見せながら答えた。
「そうか、…よし。こっちもちょうど準備運動が終わったところだ。」そう言うと、テリーは自らの顔を両手でパンパンと二回叩いて、同じ回数だけ小さく跳ねた。ソイソーは右靴の踵を少し直してから、左手を胸に置いて気持ちを集中させた。それを見ている二人の部員達は、部長に叱られた時のような顔をしていた。ここに来た時点で覚悟はできていたのだが、目の前の二人はそれらを平気でこなしていくだけの運動能力を持った者達だった。四人共走る前から顔に汗が見えていた。
「よし、槍壁二周行くぞ! ダッシュでだ!」 「ええ!? そりゃないですよー…。」
「今日も頑張るぞー!」
まだ沢山の紅い炎と明るさを残して、夕陽は山の中に消えていった。
仙人は、本当にいるのでしょうか? どうぞ、ご期待ください。




