第一部 第一章 Wo
今回、ある二つのスポーツが登場するんですが、いずれ、物語の核に近い所で活躍してもらおうと思っています。しかし、スポーツ創るって大変なことだ。サッカー、野球、バスケにしても、考えた人を尊敬しますよ、ほんと。
屋外には遊んでいる生徒達が少しと、あとは三~五年生の体育系の部員達が占めていて所々で汗を流していた。少し前まで遊んでいた生徒達は帰る準備をしながらふざけ合っていた。嫌だけど宿題が…、お腹が減ったから、お母さんに怒られるから、電車が混むから、等の理由で遊ぶのを止める子達が多い時間であった。もうすぐ高学院の生徒達も校門から出てくる時間であった。そのような中、体術部は木の多いところで、弓術部は体育棟 -校庭からやや離れた所- の近くで練習をして、槍術部はつい先ほどまで行っていた剣術部の替わりに槍壁沿いを走っていた。先頭はアーマスだった。そして、今、剣術部は校庭の真ん中で筋肉トレーニングをしていた。
「…十九、二十、よし。これで二セット目終わり! 二十秒休んで次だ。おい、そこ! 早く終わらせろ。もたもたするな!」 「ハイ!」
剣術部の練習は一番厳しかった。それは伝統的なことなのだが、今の部長が大変な情熱家であることがそれに拍車を掛けていた。自分の代が剣術部歴代最強であった、といった様な事を言われた思いを体中で示していて、それ故、一年生はもちろんのこと、二年生の遊んでいる子供達までもが、先輩達のやってることを目にして動きを止め沈黙するのである。
さて、キィーバ国立小学院は、体育系の部が他にも二つある。体術・弓術・槍術・剣術はいずれも将来、子供ながらに、城の兵士になりたいと思う者が多く集まるところであるが、所謂「体育」を連想させる部活というのは体育系の中で二つしかなかった。つまり、その二つが残りの二つであって、フォーダースの世界では非常に有名な二大スポーツを行ってる部活なのである。
一つは、その名を「ガーディアンボール」部と言い、もう一つは、『タクティクススピア』部と言う。二つは大変に古くから存在しているのだが、一般的には、「これらは人族の考えたものである」と言われている。しかし、これらのスポーツに関する古い -千年以上前の- 資料、取り分け起源を記した物というのが、一切見つかっていないことから、一部の信心深い者達や競技者の一部が『これは神が創られたスポーツである』と言っているのである。
彼らはいつも学外に出て独自の場所で練習をしているのであった。このスポーツを学院の代表として行うことのできる者達は、その事を大変に名誉なことであると感じていて、また、この上なく幸せなことであると思っているのである。生涯に、人の男子がこれらのスポーツのどちらかを行う割合というのは、実に九十九パーセント以上に上るのである。ソイソーはガーディアンボールの方だけやったことがあった。アーマスはどちらもやっていて、特に、タクティクススピア部からは異例の、どうか入ってください、という声まで貰っているのであった。
「よし、二分間休憩だ。水飲んどけよ! 次は『空振り』だぞ!」
「部長、ソイソーが走ってきました。」その声に部長以下、水飲み場に行こうとしていた者達や、座ってヒィヒィ、フゥフゥ、言っていた部員達皆が、一斉に、北棟の方に顔を向けた。そこには確かに、小さな者が居た。ちょうどその方から強めの風も吹いてきた。ソイソーは、周りの皆の背が大きいが為に、どうしても小さく見られるのであった。そのことを少年は気にしていなかった。家の中では、兄弟の下という立場から、一番小さい自分を当たり前のように受け入れていたし、家から一歩外に出た空間でも、不思議と、近くに同い年の友達が居なかったので、「兄ちゃん」の友達と遊ぶことも多かった。そして、その周りの者達はソイソーのことを、良い意味で変わり者とも思っていたが、何らの違和感無く受け入れていた。そんな少年が風と砂埃に巻かれながら姿を現した。黒の肩掛け鞄を大きく揺らしながら、時々、肩からその鞄が落ちないようにと手で支えて、もの凄い勢いで走って来ていた。その様子を見ていた、周りで遊んでいる少年より小さな子供達は、その表情に今日一番の驚きを示していた。それは、僕より十センチメートルくらいしかでかくないのに -この日、そうじゃない子は二人居た- 、僕じゃできないような走りをしてるよ、と思っていたからであった。少年と子供達の間はそこそこの距離が空いていたが、その距離が一番近くになってから再び遠くなり始める時に、砂埃が子供達の足に少しだけ掛かっていた。
「相変わらず、」 「速っ。」
「今日で何回目だ?」 「半年で十回目だ…。」
少年は一直線に、水飲み場に集まっている部員達のその後ろに居た部長と副部長の所へと、走っていった。「ソイソー。また…、」
「遅ーーーいー!」部活の時間中で練習以外のところで一番の大声を出さなきゃいけないということは、部長という立場の彼にとって最大の屈辱なのであった。それは、ちょっとした失敗で顧問の先生に怒られることよりも、ということなのである。周りの部員達は早くも水飲み場から散り始めていた。副部長は部長の左に居たのだが、先輩に聞こえない程度に溜息をしてから、一歩だけ下がって少しだけ鋭い眼つきになってソイソーを見た。ソイソーはその眼を少しだけ見てから、頭を軽く掻きながらしっかり部長の方に体を向き合わせた。九月に入って早くもこれが二回目であった。
「今日は十分間だ。覚悟しろよ?」
「…わーかりまーした。」それから、あっという間にその時間は過ぎた。説教は十五分間になり、部員の半分は練習の振りを、残り半分は自分も怒られたくないという思いから、真剣に練習を再開していた。部長の近くで怒鳴り声を聞かなければならなかった副部長は、ソイソーよりもまじめにその説教を聞いてしまっていて、周りの様子を見る余裕もなかった。そのソイソーは先ほどから副部長の方をチラチラと見ながらほとんどの説教を、砂埃の嵐が過ぎ去るのを待つが如くに、下を向いて眼を閉じたり開けたりして受け流していた。遊んでいた子供達の姿はいつの間にかその場所から居なくなっていた。そのような子達の一部と思しき集団が巨大校門の所で跳んだり登る振りをしたりしながら歩いているのも、ソイソーは眼の端で見た。今、砂場には体術部の者達が居て、それぞれが小さな山を作っていた。
「お前…、聞いてたのか?」長い時間大声を出し続けた後、部長はソイソーに一声掛けた。
「もちろんです。」それ以上を少年は口にしなかった。ソイソーは早く練習に入りたかった。部長のうるさい声がもう嫌だからではなく、純粋に剣を早く握りたかったからであった。ただ、今日の練習では木刀を手に持つことはないだろう、と少年は思っていた。それは、自分が練習に遅れたからということではなく、今日がそういう日ではないということを、知っていたからであった。ソイソーは顔を上げて部長の目線を捉えるように見詰めた。すぐに、部長の方が表情を緩めて視線を外し、首をダランと下に落とした。そして、一つ大きく呼吸をした。
「次にまた遅れるような事があったら、…分かってるな?」それを聞いて、ソイソーも一瞬だけ気を緩めてしまった。後になって、それをほんの少しだけ反省した。
「それはさっきから…いえ…、その…、」
「何だって? さっきとは何だ、いったい?」ソイソーはただ下を向くしかなかった。その時に、目線を合わされたと感じた副部長は「馬鹿、知らん」と心の中で叫んだ。二人共ほとんど同時に、「これは説教時間延長だな…。」と思い、覚悟を決めた。
「……。」 「……。」
が、しばらくしても何も聞こえてこなかった。ソイソーはそーっと顔を上げた。確かに戻っていた筈だった部長の表情はまた普段のものに変わっていた。その隣の方も見てみると、やはり、表情は戻っていて、更に、腕まで伸ばして背筋がピシッと伸びた姿勢を取っていた。二人共同じところを見ている、と少年は感じた。少年は、自分は部長に呼び出されただけです、という言い訳のできそうな気持ちと姿勢になった。ただ、そんなときのソイソーは指先をピンッと伸ばしていないのだった。口もしっかりと結んでおいたが、その二人を含めて誰もその姿を見ていなかった。二人のうち少年の視界で見て左に居る者が数回頷いてから、ソイソーへと視線を戻した。ソイソーは一瞬ドキッとしたが、相手はもう表情を変えるつもりはないようだった。
「これ以上は時間を掛けてられないからな、今日はこれでよしとする。練習再開だ。いいな!」
「ハイ!」部長の本来の口調に合わせてソイソーも練習の時に出すような力の籠もった声を出した。この調子で返事をする時は、木刀が手か背中にある状態、ないしは、あることを念頭に置いている状態の時なので、肩掛け鞄を持ってる今の少年はどこか落ち着かない状態であった。少年は、何か他にも原因がありそうだな、と思って少し足元を前、後ろと眺めた。すると、案外とすぐに、その理由を知ることができたのだった。
「部長。」
「何だ、ソイソー。」相手の声は心なしか小さかった。
「着替えてきます。」とソイソーは言ったが、やはり、相手の返事はあっさりとしていた。
「別に、そのままでもいいんだぞ…?」
「嫌ですよ。怒られちゃうんですから。」と言った瞬間、自分が感じた違和感の本当の正体を少年は知った。
「そうか、それは残念だ。」そう言うと、部長は手で「早く行ってこい」という仕草をした。そして、『空振り』等の練習を自主的にやっていた部員達からほんの少し前に休憩を終わりにした部員達までを見廻して、「練習を再開するから整列しろ」の意味で、手を上げて中指を勢いよくパチンッと響かせた。
「ハイ!」部員達の声は普段より大きかった。その声が響き終わるくらいの時に、ソイソーは北棟から出てきた者から背中を押されていた。ソイソーは走りながら体育棟に向かう途中で、足を止めずにその者へ頭を下げていた。その去り際に、男は笑った表情になって軽く少年の肩を叩き、その後に振り返って勢いよく、であった。滅多に練習に顔出すことはない者なのだが、その分、色々と隠れた噂が存在していて、そのことが様々な状況に於いて子供達の刺激剤となっていたのだった。
スポーツの名前、センス無いですかね?




