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クマ公光臨!

あー今回は精神的にきつかったですわ。子供の頃のトラウマを思い出した。

クマ公光臨


やっと日曜日がやってきた。この精霊とかいう連中は恐らく家から来たにちがいない。俺の家は旧家だから、その家のどこかに住んでいた地主神かなんか、

そんなものだろうと思った。だから実家につれて帰ることにした。

「なつかしー!」慶ちゃんがぴょんぴょん跳ねた。

やっぱり。この三柱は家から来たようだった。

剣ちゃんは落ち着きなくあちこちをキョロキョロ見回している。

「あ、なにこれ?」

何か見つけたようだ。剣ちゃんは何も無い空間を凝視している。

まるで、猫が何も無い虚空に視線をおよがせるように。

「お!クマたんだ!」

剣ちゃんが叫んだ。何言ってんだこいつ。

剣ちゃんは腰にさした剣を引き抜いた。

その時、俺にも見えた。時空の隙間に縫い目があることが。

「お、おい、やめろ!」悪い予感がした俺は叫んだが遅かった。

「えい!」

剣ちゃんが叫んで、その空間にある傷を縫合している糸を切った。

ボタボタッと音がして何か落ちてきた。

それは、クマのぬいぐるみだった。

「おい!」

俺は叫んでその場にへたりこんだ。

とんでもないものを引きずり出しやがった。

俺の胸がズキズキと痛む。

タオル地でできたクマのぬいぐるみ。

それは、まさしくクマ公だった。俺が幼い頃とても可愛がっていたクマの

ぬいぐるみ。

物心ついたときからずっと一緒だった。

でも、あまりにも俺がクマ公を可愛がっていたので、両親は、オレの

自立の妨げになると思って、そのクマ公を捨ててしまった。

オレは泣きながら、「クマ公どこ!クマ公どこ!」と言って

探し回ったが、両親は「え?そんなもの最初からいないよ」と言った。

オレは、大人はみんな嘘つきだと思った。

「ちょ、ちょっと、ヤバイわ、慶ちゃんその傷を早くふさぎなさい!」

忍ちゃんが叫ぶ。

「くまこー、どこいっちゃったのーくまこー」

時空の傷口から子供の金切り声が聞こえる。そして、ドロドロに溶けた

赤黒い塊が傷口から這い出してくる。

「どこー、どこー」

「やばいわ、やっちゃいなさい!」

忍ちゃんがさけぶ。

「あいよっ!」

慶ちゃんが叫んで赤黒い化け物にパンチを食らわせると、その化け物は

粉々にくだけちった。

「ふー、なんとか事なきをえたわね」

忍ちゃんが額の冷や汗をぬぐった。

「お、まだ何かあるよ、あ!犬のぬいぐるみだー、かわいいー!」

慶ちゃんが傷口から犬のぬいぐるみを見つけて引きずり出す。

「いぬこー!いぬこーどこいったのー」

また傷口から何か出てくる。

「何やってんのよーこのスカポンタン!」

忍ちゃんが叫ぶ。

そうだ、思い出した、クマ公を捨てられて悲しみにくれた俺は、

その悲しみを癒すため、家にあった犬のぬいぐるみに、イヌ公と

名づけて可愛がりはじめたのだ。そしたら、速攻でそのイヌ公も

すてられたんだった。だってうちの家はエリートだから、

英才教育ですからっ!

うわー、俺は悲しみのあまり、その記憶をなかったことにしていた。

ずっと、ずっと忘れていたのに、思い出しちまったじゃねーかー!

「いぬこー!どこー!いぬこー!」

けただましく叫ぶ化け物が傷からでてくる。

「パンチ!」

慶ちゃんがまたその化け物を退治した。

「いたいよー!くそー!おぼえてろよー!ゆるさないぞー!おまえらを

ゆるさないぞー!」

今度は何もしてないのに、傷口から何か出てきた。

忍ちゃんが真顔になってこっちをみる。

ちょっとあんた、いくらアクセスが稼ぎたいからって、これ実話じゃない。

あんた、そこまでしてビューがかせぎたいの?

このお話、フィクションじゃなくて純文学なの?私小説なの?

こ、こら!作者にむけて話しかけてんじゃねえ!忍ちゃんったら!

は?馬鹿なの?死ぬの?ゾウリムシなの?

書いてるのはあんたでしょ?

ごめんなさい、思い出が暴走してとまんないんです、忍ちゃん様なんとか

してください。

チッ、しかたないわね。

忍ちゃんはむきなおった。

「とにかく、このままじゃきりがないから、氏神様に行って神様のお使いの

藤子さん呼んで来るわ、それまで持ちこたえなさい」

忍ちゃんはそう言ってその場をたちさった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

俺は叫ぶも忍ちゃんは行ってしまう。

なんか、化け物が次々傷口から出てくる。

しかも、今度はその化け物の額から赤黒い血がダラダラと流れている。

それを慶ちゃんがパンチでやっつけ、剣ちゃんが剣で切り裂くが、それでも、

どんどん出てくる。

思い出した。

俺が3歳の頃、一人で家を抜け出して冒険旅行に行ったんだ。

そしたら、海岸の防波堤で同じくらいの子供と出会って、

一緒に堤防のテトラポットの下まで行って遊んだんだ。

そうしたら、その子のお兄さんらしき大人の人がきて、

「こんなところで遊んでたら危ないだろ」と言って、その子をおんぶして

堤防の上までつれていったんだった。

一人で上に上がれない俺はその大人の人に助けを求めた。

「ぼくもたすけてよー」そのとき、その大人は俺を小ばかにした笑いを

うかべて言った。

「ははっ、何で赤の他人のお前を助けなきゃいけねーんだよ」

「たすけてよー、あがれないよーこのままじゃ死んじゃうよー」

その大人は薄ら笑いを浮かべた。

「死ねや」

上にあげてもらった子はものすごくすまなさそうな顔をしていた」

その大人はその子をつれていってしまった。

「たすけてよー、たすけてよー」

泣きながら俺はテトラポットを必死で這い上がった。でも、途中で足をふみはずして、コンクリートに頭をぶつけて額が割れた。死ぬと思った。

しかし、死ぬわけにはいかない。

「殺してやる!ぜったい、生き残って殺してやる!俺より上の世代の連中を

皆殺しにしてやる!」

そうだ、その時、初めて殺意を覚えたのだ。

大きくなって、若いお兄さん、お姉さんが「世界平和って大事ですね」

などと言って微笑むたび、ナイフでめった刺しにして殺したくなる衝動を

おぼえていた。何故だかわからなかった。そうだ!口先できれいごとを

いいながら、平気で裏で汚いことをする大人を一人でも多くころしたかったからだ。そうだ!そうだ!そうだ!思い出した!世界は汚かったんだ!

「ぎゃー!もうきりがないよー!どれだけ出てくるんだよー!」

敵と戦いながら慶ちゃんが叫んだ。

「ケン!ケン!ケーン!」剣をふるまわす剣ちゃんのほうはけっこう楽しそうだった。

「あらあら、こまったわねえ」

穏やかな女の人の声が聞こえた。

振り返ると、紫色の着物を着た紫色の長髪の綺麗な女性がそこにたっていた。

あまりの美しさに俺は見ほれた。

でも、ものすごく清楚で、いやらしい感情は一切うかんでこなかった。

「こんにちわ、はじめまして、花藤子といいます」

にこやかに笑顔を浮かべた女性は俺に対してふかぶかと頭をさげた。

「い、いえ、こちらこそ、このたびはご迷惑をおかけしてすみませんでした」

俺も頭をさげる。

「ちょっと、あんたたち!それどころじゃないでしょ!早くなんとかしなさいよ!」

忍ちゃんがさけぶ、

「はいはい」

藤子さんは笑顔で懐から唐草模様のがま口を取り出す。

「じゃじゃじゃっ、じゃじゃーん!加齢臭のするハゲ頭のおっさんー!」

藤子さんはがま口財布の中から小型バイクに乗った加齢衆のするおっっさんを

取り出した。

「何だしてんのよー!!!!」

すかさず忍ちゃんが突っ込みをいれる。

「おう、ぼうず、どうしたい」

おっさんは平気な顔をして、血だらけの赤黒い化け物に声をかけた。

「だめだ!逃げろ!殺されるぞ!」

俺はおっさんを止めようと手をのばす。その俺の肩を藤子さんがガシリと

つかむ。すごく強い力だった。

驚いて俺は藤子さんを見る。藤子さんは微笑をうかべながら、すこし

はかなげな表情でくびを横にふった。

俺は藤子さんの顔を一度みたあと、化け物のほうを見た。

化け物は……泣いていた。泣いていた?

「うえーん、あのな、おっちゃん、あがられへんねん、たすけて、たすけてえな」

「よっしゃ、待ってなよ」

おっさんはその化け物を躊躇なくひろいあげた。

すると、その化け物の体からどす黒い色が抜け子供の頃の俺になった。

「いたかったよー、こわかったよー」

泣き叫ぶ子供の俺。

「よっしゃ、すぐ医者につれていってやるからな」

おっさんは俺をバイクの後ろにつんで、どこかに行ってしまった。

そのあと、藤子さんは時空にぱっくり開いた傷口を縫い合わせた。

「ううううっ……」

俺はその場に崩れ落ちて泣いた。

そうだ、何で俺は生きているんだ、そうだ、おっさんが助けてくれたんだ。

おれは、自力ではいあがったんじゃない、復讐を誓って、その呪いで

生き延びたんじゃない。そうだ、みずしらずのおっさんが助けてくれたんだ。

俺の目からポロポロと涙がこぼれた。

「いいのよ、人を恨んでも」

藤子さんが思いもよらぬことを言ったので、俺は驚いて藤子さんを見た。

「そんな自分の弱いところを憎んではだめ、そんな自分も含めて自分を

好きになってあげなさい」

そういうと藤子さんは微笑みながら俺のあたまをなでた。

「はい……」

俺は消え入りそうな声を喉の奥からしぼりだしたあと、下をむいで、ずっと

泣いていた。

「クマたんゲーット!」

剣ちゃんはクマ公を背中に背負い、上機嫌だった。

このおっサン、たぶん50代か60代だったんだよね、この時点で。

オレが3歳くらいだから、たぶん、戦前生まれだ。

俺が狂信的に戦前生まれのおっサンを擁護してしまう性分は

この幼児体験が根底にあるから、どうしようもないよね。

本当に本能の根幹に焼きついている出来事だから。

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