第九話 野外活動の準備
テストが終わって何日か経った。
「…………」
今日は、テストの答案が返ってくる日だった。
先生が一枚ずつ生徒を呼び、手渡す。
「…………」
私は、自分の答案を見る。
「…………」
いつも通り。
悪くない点数だった。
「白上さん」
「……?」
隣から声がする。
木下くんだった。
「どうだった?」
「……普通」
「普通って?」
「……いつも通り」
「そっかぁ」
木下くんが自分の答案を見る。
「俺は……」
少しだけ間を置いて。
「……?」
「数学、思った以上に取れてる!」
「……ほんと?」
「うん!」
木下くんが嬉しそうに笑う。
「白上さんに教えてもらったところ、ちゃんとできていたからか、今までで一番いいかもしれない!」
「…………ふふ」
私は少し笑ってしまった。
「白上さんありがとね!」
「……おめでとう」
自分のことみたいに。
少し嬉しかった。
* * *
その日の授業の終わり。
先生が教壇の前に立った。
「それじゃあ、みんなに話があります」
教室が少し静かになる。
「来月、二年生は野外活動があります」
「…………!」
教室のあちこちから。
小さな声が上がる。
「野外活動?」
「泊まり?」
「楽しそう!」
みんなが少しずつ騒ぎ始める。
先生が説明を続ける。
日程、持ち物、活動内容、そして。
「これからみんなで少しずつ準備をしていきます」
「…………」
私は話を聞きながら。
野外活動。
という言葉を頭の中で繰り返していた。
今まで、学校の行事を楽しみだと思ったことはあまりなかった。
「…………」
私には。
一緒に行動する友達もほとんどいない。
だからきっと。
今回も。
一人になるんだろうな。
そう思っていた。
* * *
数日後。
野外活動のグループ決めが始まった。
「男女四人グループで決めてください」
先生がそう言うと。
教室のあちこちで。
「一緒になろう!」
「じゃあ俺たちと組もうぜ」
そんな声が聞こえてくる。
私は。
自分の席で。
じっとしていた。
「…………」
誰かと組む。
そう言われても。
自分から声をかけることなんてできない。
気づけば。
周りのグループが、どんどん決まっていく。
「…………」
どうしよう。
そう思っていると。
「白上さん」
「……?」
木下くんだった。
「まだ決まってない?」
「……うん」
「じゃあさ」
木下くんが少しだけ笑う。
「俺たちと一緒にならない?」
「…………え?」
「田中と、佐々木さんと俺」
「…………」
「四人でちょうどいいし」
「……でも」
「大丈夫だよ」
木下くんが言う。
「白上さんが来てくれたら助かる」
「…………」
私は。
少しだけ木下くんを見る。
「……私なんかが、いいの?」
「もちろん」
「……じゃあ」
小さく頷く。
「……よろしくお願いします」
「うん、よろしく!」
こうして。
私たちは。
四人のグループになった。
木下くん。
田中くん。
佐々木さん。
そして。
私。
* * *
「いやー、よかったわ」
田中くんが笑う。
「これで四人そろったな」
「そうだな」
木下くんが頷く。
それから。
私にこっそり耳打ちしてきた。
「正直さ」
「……?」
「俺、カップル二人の中に一人でいるの気まずかったんだよね」
「おい」
田中くんがすぐに反応する。
「余計なこと言うなよ」
「だってそうだろ」
「まあ……そうだけど」
佐々木さんが笑う。
「ふふっ」
「だから」
木下くんが私を見る。
「白上さんが来てくれて助かった」
「…………」
「これで俺も話し相手ができたし、気まずくないや」
「……うん」
私は小さく頷いた。
「…………」
木下くんが誘ってくれなかったら。
私はきっと。
一人で困っていた。
もしかしたら。
野外活動の日も、ずっと一人だったかもしれない。
「…………」
でも。
今は違う。
一緒に行く人がいる。
木下くんがいる。
「…………」
そう思ったら。
少しだけ。
楽しみになってきた。
今まで行事が楽しみだなんて思わなかったのに。
「…………」
木下くんが誘ってくれたから。
初めて。
楽しみだと思えた。
* * *
放課後。
野外活動の準備について。
四人で少し話していた。
「持ち物、結構あるな」
「そうだね」
田中くんと佐々木さんが話している。
私は。
その隣で話を聞いていた。
すると。
「ねえ、白上さん」
「……?」
佐々木さんが。
私に話しかけてきた。
「ちょっと聞いていい?」
「……うん」
「木下とさ」
「…………?」
「付き合ってるの?」
「…………え?」
頭が。
一瞬止まった。
「ち、違うよ……!」
思わず赤面し、いつもより早口になる。
「そういうのじゃ……ない」
「ほんと?」
「……うん」
「じゃあ、好きとか?」
「…………」
私は。
少しだけ黙った。
「…………」
好き。
なのか。
まだ、自分でもよく分からない。
でも。
木下くんと話すと。
少し嬉しい。
木下くんに頼られると。
嬉しい。
一緒にいると。
楽しい。
「……少しだけ」
「え?」
「……気になってる……かも」
「…………!」
佐々木さんの顔が。
ぱっと明るくなる。
「やっぱり!」
「……?」
「なんかそんな気がしたんだよね」
「…………」
「じゃあ、応援したげる!」
「……え?」
「白上さんの恋!」
「…………!」
顔が。
さらに熱くなる。
「ち、違……」
「大丈夫、大丈夫!」
佐々木さんが笑う。
「誰にも言わないし、まかせて!」
「…………」
「それに」
佐々木さんが。
少しだけ嬉しそうに言う。
「正直、最初は白上さん怖そうだなって思ってたけど、話してみたら結構可愛いとこあるし、もっと仲良くなれそう!」
「……そうかな?」
「うん!」
「…………」
「恋バナできる友達、欲しかったんだ」
「……恋バナ……」
その言葉だけで。
また恥ずかしくなる。
でも。
「…………」
嫌じゃなかった。
むしろ。
少しだけ。
嬉しかった。
* * *
その日の帰り。
私は一人で廊下を歩いていた。
今まで。
みんなから。
怖い、話しかけにくい、怒っているみたい。
そんなふうに思われていた。
でも。
今日、佐々木さんと話して。
少しだけ。
分かってもらえた気がした。
私は。
怖いわけじゃない。
ただ。
人見知りなだけだって。
上手く話せないだけだって。
「…………」
それでも。
少しずつ。
話せる人が増えてきた。
木下くんが話しかけてくれて。
佐々木さんも話しかけてくれて。
田中くんも。
みんな普通に話してくれる。
「…………」
なんだか。
少しだけ。
世界が変わったみたいだった。
そして。
野外活動。
「…………」
楽しみだな。
そう思える自分が。
少しだけ、嬉しかった。




