第十話 出発
野外活動当日。
朝。
いつもより少し早く家を出た。
「…………」
学校に着くと。
いつもの教室とは違う空気だった。
みんな大きな荷物を持っている。
「楽しみだな!」
「昨日あんまり眠れなかった!」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
「…………」
私も、自分の荷物を持って、みんなのところへ向かう。
「白上さん!」
「……?」
木下くんが、こっちに気づいて手を振っていた。
「おはよう!」
「……おはよう」
「今日はめっちゃ楽しみだな!」
「………そうだね」
そんなたわいもない話をしていると。
「おーい、木下!」
田中くんの声がする。
「そろそろバス乗るぞ!」
「分かった!」
木下くんが返事をする。
「じゃあ、行こうか」
「……うん」
私たちは。
みんなと一緒に。
バスへ向かった。
* * *
バスの中。
「…………」
席に座ると。
周りから楽しそうな声が聞こえてくる。
「隣誰?」
「こっち空いてるぞ!」
みんなが。
それぞれ席を決めていく。
私たちも、四人で近くの席に座った。
「いやー、楽しみだな」
田中くんが、窓の外を見ながら言う。
「田中は何が一番楽しみ?」
佐々木さんが聞く。
「俺は夜かな」
「夜?」
「みんなで枕投げとかするのめっちゃ楽しみ!」
「子供じゃん!」
佐々木さんが笑う。
「木下は?」
「俺?」
木下くんが少し考える。
「全部かな」
「全部かよ」
田中くんが笑う。
「みんなで行くんだから、全部楽しいに決まってるだろ」
木下くんが笑い返す。
「白上さんは?」
「…………」
急にこっちを見る。
「……私?」
「うん」
「…………」
何が楽しみだろう。
少し考えて。
「……みんなと一緒ならどこでも」
「…………」
言ってから。
少し恥ずかしくなる。
「そっか」
木下くんが笑う。
「じゃあ、今日はいっぱい楽しもう」
「……うん」
佐々木さんが、にやにやしながら私を見る。
「白上さん、楽しみにしてたもんね」
「…………」
「……うん」
私は恥ずかしそうに小さく頷く。
* * *
バスが走り出す。
窓の外の景色が少しずつ変わっていく。
「…………」
私は、窓の外を眺める。
いつも通っている道とは違う。
見慣れない景色。
「…………」
本当に。
野外活動が始まるんだ。
そう思うと、少しだけ緊張する。
すると。
「白上さん」
「……?」
木下くんが。
少しだけ身を乗り出してくる。
「緊張してる?」
「…………」
「……少し」
「そっか、俺も実は少し緊張してる」
「……木下くんも?」
「うん」
木下くんが笑う。
「こういう機会はなかなかないからね」
「…………」
自分だけじゃない。
そう思うと少し安心した。
「……そっか」
「うん」
それから木下くんは前を向く。
「楽しみだな」
「…………」
私も、窓の外を見る。
「……うん」
バスは、そのまま目的地へ向かって進んでいった。
* * *
「…………」
しばらくすると、バスの中も少しずつ静かになってきた。
朝が早かったからか、寝ている人もいる。
田中くんも、いつの間にか眠っていた。
「ふふっ」
佐々木さんが小さく笑う。
「田中、寝るの早すぎ」
佐々木さんが私を見る。
「白上さん」
「……?」
「今日、楽しもうね」
「…………」
「うん」
「あと……」
佐々木さんが、少しだけ意味ありげに笑う。
「木下ともいっぱい話してきなよ」
「…………!」
「さ、佐々木さん……」
「ふふっ」
私は、また顔が熱くなる。
「…………」
でも、嫌じゃなかった。
むしろ、少し嬉しかった。
窓の外を見る。
「…………」
今日。
どんな一日になるんだろう。
まだ何も分からない。
だけど。
「…………」
楽しみだった。
野外活動が、今日から始まる。




