第八話 定期テスト
あれから何日か経った。
土曜日に木下くんと一緒に勉強してから。
学校でも少しだけ。
木下くんと話すことが増えた。
「白上さん」
「……?」
「これ、どうやるんだっけ?」
「……それは」
授業の休み時間。
木下くんがノートを持って、私のところへ来る。
「ここは、この公式を使えばいいよ」
「ああ」
木下くんがノートを見る。
「土曜日にやったやつだ」
「……うん」
「なるほど」
木下くんは頷く。
「ありがとう!」
「……どういたしまして」
前よりも。
こういう会話に慣れてきた気がする。
最初の頃は。
木下くんに話しかけられるだけで。
何を言えばいいのか分からなくなっていた。
でも、今は。
少しだけ、普通に話せる。
「…………」
それが、少し嬉しかった。
* * *
そして、テスト当日。
「…………」
朝から。
教室の空気がいつもと違う。
みんな、少し静かだった。
「今日テストだよなぁ、萎える……」
「やばい、全然覚えてない」
そんな声が聞こえてくる。
私は自分の机で。
最後の確認をしていた。
国語、数学、英語、理科、社会の5教科。
もう一度だけ見ておく。
「…………」
大丈夫。
いつも通りやればいい。
そう思っていると。
「白上さん」
「……?」
木下くんが話しかけてきた。
「今日の数学のテストさ」
「……うん」
「この前教えてもらったところ、出るかな」
「……出ると思うよ」
「ほんと?」
「……たぶん」
「じゃあ、そこは絶対取らないとな」
木下くんが笑う。
「……うん」
「俺、赤点だけは避けたいから」
「たしか、ゲーム没収されるんだよね」
「そうなんだよ」
木下くんが苦笑する。
「だから頑張らないと」
「……頑張ったから大丈夫だよ」
「うん」
木下くんが自分の席に戻っていく。
「…………」
私はその背中を見る。
ちゃんと勉強してくれていた。
土曜日に。
一緒に勉強したこと。
無駄じゃなかったんだ。
そう思うと。
少しだけ、嬉しくなった。
* * *
チャイムが鳴る。
そしてテストが始まる。
* * *
チャイムが鳴り、テストが終わった。
「…………疲れた」
教室のあちこちから声が聞こえる。
私は鉛筆を置いて。
小さく息を吐いた。
「白上さん」
「……?」
木下くんがこっちを見る。
「終わったね」
「……うん」
「数学さ」
「……うん」
「白上さんに教えてもらったところ、出たよ」
「おかげさまで自信ありあり!」
「……ほんと?」
「うん!」
木下くんが笑う。
「本当にありがとね」
「…………」
なんだか。
胸の奥が。
少しだけ温かくなった。
「……そう、よかったじゃん」
「うん」
それだけ。
それだけなのに。
嬉しかった。
* * *
放課後。
テストが終わったから。
教室にはいつもより少しだけ明るい空気が流れていた。
「定期テスト終わったぁ……」
木下くんが机に突っ伏す。
「…………」
私は少しだけ木下くんを見る。
「疲れた……」
「……木下くん、お疲れ様」
「ありがとう、白上さん」
木下くんが顔を上げる。
そして。
「白上さん」
「……?」
「今日さ、一緒に帰らない?」
「…………」
私は少し驚く。
「……別にいいよ」
「ほんと?」
「……うん」
「じゃあ、帰ろう」
「……うん」
二人で教室を出る。
* * *
学校を出て。
いつもの道を歩く。
「…………」
テストが終わったからか。
木下くんは少しだけ機嫌がよさそうだった。
「白上さん」
「……?」
「五教科の中で、どれが一番自信ある?」
「……自信?」
「うん」
「俺は……数学かな」
「……数学?」
「うん」
「……どうして?」
「この前教えてもらったし」
「…………」
「それに、今日白上さんのおかげでちゃんと解けたから」
「……そっか」
「だから数学は、けっこう自信ある!」
木下くんが笑う。
「白上さんは?」
「……私?」
「うん」
私は少し考える。
「…………」
どれだろう。
「……全部」
「え?」
「……全部、自信あるかな、苦手とかないし」
「…………」
木下くんが少し驚いた顔をする。
「やっぱり白上さんってすごいな」
「……普通だよ」
「それは普通じゃないって」
そう褒められて、少し照れる。
「……別に、勉強くらいしかすることないし」
そうして話しながらしばらく歩く。
いつもの帰り道。
「じゃあ、俺こっちだから」
木下くんが足を止める。
「……うん」
「また明日ね、白上さん」
「……また明日」
木下くんが手を振る。
私も小さく手を振る。
そして。
いつも通り。
別々の道へ歩いていく。
「…………」
テストが終わった。
少しだけ疲れたけど。
「…………」
今日はなんだか、悪くない一日だった。




