第七話 テスト勉強
土曜日。
今日は。
木下くんと約束した日。
テスト勉強をするために、近くの図書館で待ち合わせをしている。
待ち合わせの時間は、朝の九時。
「…………」
私は少し早めに家を出た。
何度も時間を確認しながら歩く。
遅れたらどうしよう。
そんなことを考えているうちに。
図書館が見えてきた。
「…………」
入り口の近くを見る。
すると。
「…………あ」
木下くんがいた。
腕時計を見ながら、図書館の前で立っている。
私は少しだけ足を速めた。
「……木下くん」
木下くんが振り向く。
「おはよう」
「……おはよう」
私は木下くんのところまで歩いていく。
「……その」
「待った?」
「ああ、それなら大丈夫」
木下くんは笑った。
「俺もさっき来たばっかりだよ」
「……ほんと?」
「うん」
「…………」
私は少しだけ安心する。
すると木下くんが。
「白上さんに教えてもらう側なんだから、遅刻できないでしょ」
「…………」
「ちゃんと勉強する気はあるからね」
そう言って笑う。
「……そう」
「うん」
なんだか。
少しだけ嬉しかった。
私との約束を。
ちゃんと大切にしてくれているみたいで。
「じゃあ、入ろうか」
「……うん」
二人で図書館の中へ入った。
* * *
図書館の中は静かだった。
二人で空いている席を探して。
並んで座る。
「じゃあ、始めよう」
「……うん」
木下くんが数学の問題集を開く。
私は自分の教科書とノートを取り出した。
数学の問題集でわからないとこがあるといい、聞いてきた。
「ここは、この公式を使えばいいよ」
「……あー」
「なるほど」
「この問題も似てる」
「ほんとだ」
木下くんは問題を解いていく。
「…………」
私は隣で、自分の勉強を進める。
しばらくすると。
「白上さん」
「……?」
「これも分かんない」
「……どれ?」
また質問される。
私は問題を見て。
「これは……」
一つずつ説明する。
木下くんは真剣に聞いている。
「分かった?」
「うん」
木下くんが問題を解く。
「……できた」
「……よかった」
「白上さん、教えるの上手いね」
「……普通だよ」
「それ、昨日も言ってた」
「…………」
私は少しだけ目を逸らした。
「でも本当に助かってる」
「……そう」
「うん」
それからも。
二人で勉強を続けた。
* * *
気がつけば。
時計の針は十二時を少し過ぎていた。
「…………」
お腹が空いた。
お昼のこと考えてなかったな。
すると。
「白上さん」
「……?」
「お腹空かない?」
「…………」
「……少し」
木下くんが時計を見る。
「もう十二時過ぎてるもんね」
「……うん」
「じゃあ、昼ご飯食べに行こうよ」
「…………」
「近くにバーガーショップあるんだけど」
「…………」
バーガーショップ。
名前は知っている。
学校から帰るときに、前を通ったこともある。
でも。
一度も入ったことがない。
「……行ったことない」
「え?」
「……そのお店」
「そうなの?」
「……うん」
私は少しだけ俯く。
「お店があるのは知ってるけど……」
「けど?」
「……人が多いから」
「…………」
「入りづらいなと」
木下くんは少し驚いたような顔をした。
「そっか」
「……うん」
「じゃあ、一緒なら大丈夫じゃない?」
「…………」
私は木下くんを見る。
「……一緒なら?」
「うん」
木下くんは当たり前みたいに言った。
「俺もいるし」
「…………」
その言葉に。
少しだけ安心する。
「……じゃあ」
「行こう」
「……うん」
* * *
バーガーショップに入る。
「…………」
人がいる。
店内には何人かのお客さんがいて。
注文をしている人もいる。
私は少し緊張していた。
「白上さん、何食べる?」
「……分からない」
メニューを見る。
ハンバーガー。
ポテト。
飲み物。
いろいろある。
「俺はこれにしようかな」
木下くんがセットを指差す。
「白上さんは?」
「……同じのでいい」
「ほんと?」
「……うん」
二人で注文する。
席を探して。
向かい合って座る。
「…………」
少しして。
注文したものが運ばれてくる。
「いただきます」
「……いただきます」
私はハンバーガーを持つ。
「…………」
一口食べる。
「…………!」
美味しい。
「どう?」
「……美味しい」
「でしょ?」
木下くんが笑う。
「白上さん、こんなおいしいのに来たことないの?」
「……うん」
「人生二割くらい損してるよ」
「…………」
思わず。
少しだけ笑ってしまう。
「……何それ」
「だって本当だもん」
「……大げさ」
「大げさじゃないって」
木下くんは楽しそうに笑った。
私はもう一口食べる。
さっきまで少し緊張していたのに。
気がつけば。
普通に食べられていた。
「…………」
木下くんと一緒だからかもしれない。
* * *
昼ご飯を食べ終わったあと。
「このあとどうする?」
木下くんが聞いてくる。
「……どうする?」
「ちょっとだけ寄り道しない?」
「……どこ?」
「ゲームセンター」
「…………」
ゲームセンター。
少しだけ不安だった。
そこも人が多いから、行ったことがない。
でも。
「……うん」
私は頷いた。
* * *
ゲームセンターの中は。
思っていたよりも賑やかだった。
音楽。
ゲームの音。
たくさんの人。
「…………」
私は少しだけ木下くんの後ろを歩く。
すると。
「白上さん?」
「……うん」
「大丈夫?」
「……大丈夫」
本当は少し苦手。
でも。
せっかくの休日。
木下くんと一緒にいる。
だから。
大丈夫。
そう思った。
「……あ」
ふと。
目に入ったものがあった。
クレーンゲーム。
その中に。
猫のぬいぐるみが入っている。
しかも。
抱き枕みたいな形をした、大きな猫。
「…………」
可愛い。
思わず足が止まる。
「白上さん?」
「…………」
私はぬいぐるみを見つめる。
「欲しい?」
「…………」
私は慌てて首を横に振る。
「……別に」
「でも、ずっと見てるよ?」
「…………」
見ていた。
ずっと。
「……可愛いなって思っただけ」
「そっか」
木下くんはクレーンゲームを見る。
「じゃあ、やってみようかな」
「……え?」
「取れたらあげる」
「…………!」
「ちょっと待ってて」
木下くんが財布を取り出す。
「……いいよ」
「大丈夫」
「……でも悪いし」
「今日勉強教えてもらったお礼」
「…………」
木下くんが百円玉を入れる。
クレーンを動かす。
「…………」
一回目。
失敗。
「惜しい」
二回目。
少し動いた。
「おっ」
三回目。
猫のぬいぐるみが少しずつ出口に近づく。
「…………」
私は思わず身を乗り出す。
「もうちょっと……」
四回目。
「…………!」
ぬいぐるみが持ち上がる。
そのまま。
落ちる。
「取れた!」
木下くんが嬉しそうに声を上げる。
「…………!」
私も思わず目を輝かせる。
木下くんがぬいぐるみを取り出す。
そして。
「はい」
「…………?」
私に差し出した。
「今日のお礼」
「…………」
「もらって」
「…………いいの?」
「うん」
私は両手でぬいぐるみを受け取った。
「…………」
ふわふわしている。
大きくて。
猫の形をしていて。
「…………」
嬉しい。
すごく嬉しい。
「……ありがとう」
小さな声で言う。
「どういたしまして」
木下くんが笑う。
私はぬいぐるみを抱きしめた。
「…………」
胸の奥が。
ぽかぽかする。
* * *
夕方。
ゲームセンターを出て。
駅の近くで、木下くんと別れることになった。
「今日は楽しかったね」
「……うん」
「勉強もできたし」
「……ちゃんと勉強してた?」
「してたって」
木下くんが笑う。
「じゃあ、また学校で」
「……うん」
「またね、白上さん」
「……またね」
木下くんが手を振る。
私も小さく手を振った。
そのまま。
木下くんとは別々の道へ歩いていく。
「…………」
腕の中には。
猫のぬいぐるみ。
今日一日。
木下くんと一緒にいた。
勉強して。
お昼を食べて。
ゲームセンターにも行って。
「…………」
なんだか。
夢みたいだった。
* * *
家に帰る。
夕食を食べて。
お風呂に入る。
髪を乾かして。
部屋に戻る。
「…………」
ベッドの上には。
今日もらった猫のぬいぐるみ。
私はそれを抱き上げる。
「…………」
ふわふわ。
「…………ふふ」
思わず笑ってしまう。
今日。
楽しかった。
すごく。
楽しかった。
「…………」
私はぬいぐるみを抱きしめる。
ぎゅっと。
「…………」
胸の奥が。
まだ温かい。
木下くんと友達になれて。
よかった。
そんなことを考えながら。
私は猫のぬいぐるみに顔を埋めた。
「…………おやすみ」
そのまま。
私はぬいぐるみを抱きしめながら。
静かに眠りについた。




