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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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第四話 忘れ物

一時間目の授業が終わった。


 先生が教室を出ていくと、クラスの中に少しずつ話し声が戻ってくる。


 私は一度伸びをしてから、次の授業の準備を始めた。


 次は数学。


 机の中から教科書とノートを取り出す。


「…………」


 隣では、木下くんも次の授業の準備をしていた。


 しばらくすると。


「あれ?」


 木下くんが机の中を覗き込んだ。


「…………」


 何かを探している。


「どうしたの?」


 私は思わず聞いた。


「あー……」


 木下くんが困ったような顔をする。


「数学の教科書ないや」


「…………」


「たぶん家に忘れてきた」


「…………」


 私は自分の机の上にある教科書を見る。


 それから木下くんを見る。


「……一緒に見る?」


「いいの?」


「……うん」


 木下くんが席を私のほうへ寄せた。


「ありがとう!」


 木下くんが笑う。


 そして。


 私たちは一つの教科書を一緒に見ることになった。


「…………」


 近い。


 普段から隣の席だから、木下くんが近くにいることには慣れている。


 でも。


 こうして同じ教科書を見るとなると、少しだけ違う。


 肩が触れるわけではない。


 それでも。


 顔を少し横に向ければ、木下くんの顔が見える。


「…………」


 私はなんとなく前を向いた。


 少しだけ、心臓が速くなった気がした。


 そのとき。


「白上さんって、字綺麗だね」


「…………え?」


 突然言われて、私は手を止めた。


 木下くんが私のノートを見ている。


「すごい読みやすい」


「…………そうかな」


「うん。俺の字なんて、先生に何書いてるか分からないって言われるし」


「…………ふふ」


 思わず笑ってしまった。


「あ、今笑った」


「…………」


「最近、白上さんちょっと笑うようになったよね」


「…………そう?」


「うん」


「…………」


 私は少し恥ずかしくなって、教科書へ視線を戻した。


 すると。


「それとさ」


「……なに?」


「ここ、よく分かんないんだけど」


 木下くんが教科書の一部分を指差した。


「教えてくれない?」


「…………私が?」


「うん」


 私は少し驚いた。


 木下くんが、私に教えてほしいと言っている。


「…………」


 なんだか。


 少しだけ嬉しかった。


 頼られている。


 そんな気がしたから。


「……ここはね」


 私は問題を指差す。


「この前やったところと同じで……」


 できるだけ分かりやすいように説明する。


 木下くんは真剣に聞いている。


「……ああ、なるほど」


「……分かった?」


「うん」


 木下くんが頷く。


「白上さん、教えるの上手いね!」


「…………」


 また褒められた。


 頬が少し熱くなる。


「……そうでもない」


「いや、分かりやすかったよ」


「…………」


 私は小さく頷いた。


「……それはよかった」


「じゃあ、また分からないところあったら聞いていい?」


「……別にいいけど」


「ありがとう」


 そう言って、木下くんが笑った。


 それから。


 二時間目の授業が始まった。


 私たちは一つの教科書を見ながら、先生の話を聞いた。


 * * *


 その後も授業は続いていき。


 気づけば、もう昼休みになっていた。


 私はお弁当を持って教室を出る。


 向かったのは、屋上へ続く階段だった。


 屋上は普段使われていない。


 そのため、私はいつも屋上へ続く階段でお昼を食べている。


 私はそこに座った。


「…………」


 お弁当の蓋を開ける。


 卵焼き。


 ウインナー。


 それから、小さなおにぎり。


 誰もいない。


 静かで。


 落ち着く。


 私はゆっくりとお弁当を食べ始めた。


 教室でみんなと食べるより。


 ここで一人で食べるほうが、誰の目も気にせず、気が楽だった。


 * * *


 お弁当を食べ終わる。


 私はお弁当箱を鞄にしまって、立ち上がった。


 そろそろ教室に戻ろう。


 階段を下りていく。


 すると。


「……あれ?」


 階段の下から、人が上がってきた。


「…………」


 木下くんだった。


「白上さん?」


「……木下くん」


 どうしてここに。


 そう思っていると。


「ちょうどよかった」


 木下くんが笑った。


「探してたんだ」


「……私を?」


「うん」


「…………」


 私は少し驚いた。


「朝、教科書貸してくれたでしょ?」


「……うん」


「そのお礼したいなって思って」


「…………」


 お礼。


「だからさ」


 木下くんが少し考えるようにしてから。


「今日、放課後一緒に帰らない?」


「…………え?」


 私は目を瞬いた。


「教科書のお礼にジュースおごるよ」


「…………」


 放課後。


 一緒に帰る。


 その言葉を頭の中で繰り返す。


「……いいの?」


「もちろん」


 木下くんは笑った。


「じゃあ、決まり」


「…………」


 私は少しだけ俯く。


 胸の奥が、ほんの少しだけ落ち着かない。


 でも。


「……うん」


 小さく頷いた。


「じゃあ、放課後ね!」


「……うん。放課後」


 木下くんはそう言って、先に階段を下りていった。


 私はその背中を見送る。


「…………」


 放課後。


 木下くんと、一緒に帰る。


 それだけのことなのに。


 なぜか。


 いつも何気なく帰ってる放課後が少しだけ楽しみになった。

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