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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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3/22

第三話 学校で

次の日の朝。


 私は、いつも通りの時間に家を出た。


 昨日と同じ道。


 昨日と同じ時間。


 何も変わらない、いつもの朝。


「…………」


 歩きながら、ぼんやりと前を見る。


 すると。


 昨日のことが、ふと思い浮かんだ。


 猫。


 木下くん。


 そして。


 猫と話しているところを見られた私。


「…………っ」


 思い出した瞬間、顔が熱くなった。


「…………」


 恥ずかしい。


 やっぱり、思い出すだけでも恥ずかしい。


 昨日は猫がいたから、何も考えずに話していた。


 猫の真似までして。


 笑って。


 あんなに楽しそうにしていたところを。


 よりによって、木下くんに見られた。


「…………」


 私は少しだけ俯いて歩く。


 木下くんは、変だと思わなかっただろうか。


 ……いや。


 本人は「面白い」と言っていた。


 もっと話してみたい、とも。


「…………」


 そこまで思い出して。


 また顔が熱くなる。


 私は慌てて、別のことを考えるようにした。


 そうしているうちに、学校が見えてきた。


 * * *


 教室に入る。


「…………」


 まだ、来ている人は少なかった。


 私はいつものように、自分の席へ向かう。


 鞄を机の横に掛けて。


 席に座る。


 そして。


 隣の席を見る。


「…………」


 まだ、誰もいない。


 木下くんは来ていなかった。


「…………」


 なぜか、少しほっとした。


 昨日のことを思い出すと、やっぱり顔を合わせるのは恥ずかしい。


 少しだけ落ち着いて。


 私は窓の外を見る。


 朝の校庭。


 風に揺れる桜。


 いつもと同じ景色。


「…………」


 静かだった。


 このまま、もう少しだけ時間があればいいのに。


 そんなことを考えていると。


 ガラッ。


 教室の扉が開いた。


「おはよー」


「…………!」


 聞き覚えのある声。


 私は反射的に扉を見る。


「お、白上さん。おはよう」


 木下くんだった。


「…………おはよう」


 私は少しだけ顔を向けて、そっけなく返す。


 昨日のことを思い出してしまって。


 なんとなく、まともに顔を見られない。


「…………」


 木下くんが自分の席に座る。


 鞄を机の横に掛ける。


 そして。


「そういえばさ」


「…………?」


 木下くんは、こちらを見た。


「昨日、可愛かったよね」


「…………」


 私は固まった。


 思考が止まる。


 今。


 なんて言った?


 可愛かった。


 ……誰が?


「…………」


 心臓が、どくん、と鳴った。


 もしかして。


 昨日の私。


 猫と話していたときの私のことを。


「…………」


 顔が一気に熱くなる。


 耳まで熱くなっていく。


 何か言わなきゃと思うのに、声が出ない。


 私はただ、俯いた。


 木下くんは、そんな私を見ている。


 しばらくしてから。


「……猫が」


「…………」


「昨日の猫が、可愛かったよね」


「…………」


 私はゆっくり顔を上げた。


 木下くんは、楽しそうに笑っていた。


「…………」


 完全に。


 勘違いした。


「…………」


 恥ずかしい。


 ものすごく恥ずかしい。


 私は俯いたまま、スカートの裾をぎゅっと握る。


 すると。


「……もしかして」


「白上さん、自分のことだと思った?」


「…………っ!」


 図星だった。


 私は勢いよく木下くんを見る。


 けれど、何も言えない。


 顔が熱い。


 耳も熱い。


 恥ずかしすぎて、頭の中が真っ白になる。


 木下くんは、そんな私を見て笑っていた。


 私は視線を逸らす。


 何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。


 ただ、顔を赤くしたまま俯くことしかできなかった。


 木下くんは、しばらく私を見ていた。


 それから、少しだけ声を落とす。


「……でも」


「…………」


「白上さんも、可愛かったけどね」


「…………なッ‼︎」


 顔がさらに熱くなった。


 私は反射的に俯き、机の下でスカートの裾を強く握る。


 木下くんは、そんな私を見て楽しそうに笑った。


「……ごめん、からかいすぎたや」


「…………」


「…………ばか」


 恥ずかしい。


 恥ずかしすぎる。


 でも。


 昨日までだったら。


 こんなふうに木下くんと話すことなんて、きっとできなかった。


 そう思うと。


 少しだけ。


 不思議な気持ちになった。


 そんなことを考えていると。


 教室の前の時計が目に入った。


 もうすぐ、朝のホームルームが始まる時間だった。


 教室にも、少しずつ人が増えてきている。


「おはよー」


「おはよう」


「昨日さー」


 あちこちから声が聞こえる。


 さっきまで私と木下くんだけだった場所にも、少しずついつもの教室の空気が戻ってきた。


 私は机の上を整える。


 教科書。


 筆箱。


 ノート。


 いつも通りに並べる。


「…………」


 隣を見る。


 木下くんも、自分の机の上を準備していた。


 ガラッ。


 教室の前の扉が開いた。


「おーし、みんな席つけー」


 先生が入ってきた。


 教室にいたクラスメイトたちが、それぞれ自分の席へ戻っていく。


「ホームルーム始めるぞー」


 先生が教卓の前に立つ。


 私は前を向いた。


 さっきまで木下くんと話していたことが、まだ少しだけ頭に残っている。


 でも。


 もう考えないようにした。


 今は、授業に集中しよう。


 そう思っていると、先生が今日の予定を確認し始めた。


「今日は一時間目から授業だからな。時間割間違えるなよー」


「はーい」


 クラスのあちこちから返事が返ってくる。


 ホームルームが終わる。


 先生が一度教室を出ていくと、すぐに次の授業の準備をする声が聞こえてきた。


「一時間目、国語だっけ?」


「そうだよ」


「教科書どこだっけ……」


 私は鞄から国語の教科書を取り出す。


 隣では木下くんも教科書を机の上に置いていた。


「…………」


 一瞬だけ目が合う。


「…………」


 私はすぐに目を逸らした。


 すると。


「ふっ」


「…………」


 また笑った。


 私は少しだけ頬を膨らませる。


 ……やっぱり。


 ちょっと意地悪だ。


 そう思っていると。


 ガラッ。


 再び教室の扉が開いた。


「はい、始めるぞー」


 一時間目の先生が入ってきた。


 みんなが席につく。


「教科書の6ページ開いて」


 先生の声が教室に響く。


 私は言われたページを開いて、黒板を見る。


「…………」


 昨日までは。


 隣に誰が座っているかなんて、あまり気にしていなかった。


 でも。


 今日は少しだけ違う。


 隣にいる木下くんのことが。


 昨日より、ほんの少しだけ気になっていた。


 そんなことを考えながら。


 私は一時間目の授業を受け始めた。

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