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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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20/22

第二十話 多忙な秋

体育祭が終わってから、何日か経った。


学校では、またいつもの毎日が続いていた。


朝、教室に入って、友達と話して、授業を受ける。休み時間になれば、くだらない話で笑う。


そんな普通の毎日。


だけど、前とは少し違う。


「おはよう、白上さん」


「……おはよう」


朝、木下くんに声をかけられる。


「今日、寒くない?」


「……ちょっと寒い」


「だよな」


そんな短いやり取りも、今では特別なことではなくなっていた。


文化祭。


体育祭。


夏休みの海。


夏祭り。


野外活動。


みんなで過ごした時間が増えるたびに、木下くんや佐々木さん、田中くんと話すことが、少しずつ当たり前になっていった。


そんなある日の朝。


先生が教室に入ってきた。


「はい、席つけー」


みんなが席に戻る。


先生は教卓にプリントを置いてから、黒板に文字を書いた。


『中間テスト』


「…………」


教室が静かになる。


「えー……」


誰かが小さく声を漏らした。


「再来週、中間テストだからな」


「再来週!?」


田中くんが声を上げる。


「体育祭終わったばっかじゃん!」


「終わったからだよ」


「なんで!?」


「なんでって……学校だからな」


先生が呆れたように答えると、教室のあちこちから笑い声が起きた。


「また勉強しないとなぁ……」


田中くんが机に突っ伏す。


「前よりはやったほうがいいんじゃない?」


佐々木さんが言う。


「前もやったって」


「どれくらい?」


「……ちょっと」


「ほら」


「ちょっとでもやったんだから、やっただろ!」


「そういう問題じゃないでしょ」


二人のやり取りを聞いて、私は思わず笑ってしまった。


すると、隣から声がする。


「白上さん」


「……ん?」


木下くんが、少し困ったような顔でこっちを見ていた。


「今回も……数学、教えてもらっていい?」


「……うん」


「よかった」


木下くんが、ほっとしたように笑う。


「前のテスト、白上さんに教えてもらったところ、結構できたんだよ」


「……本当?」


「うん。だから今回も頼りにしてます」


「……分からないところがあったら、言って」


「ありがとう」


木下くんが笑う。


その笑顔を見ると、なんとなく私も頑張ろうと思えた。


それから、テストまでの一週間。


休み時間や放課後になると、自然と勉強する時間が増えていった。


木下くんは数学の問題集を開いて、私は隣から問題を見ながら説明する。


「ここなんだけど」


「うん」


「どうして、この数字になるの?」


「ここで先にこれを計算して……」


「……ああ、そういうことか」


木下くんが問題集に書き込んでいく。


「できた」


「うん。合ってるよ」


「やった」


嬉しそうな顔をする。


「白上さんに教えてもらうと、分かりやすいんだよな」


「……そう?」


「うん」


そう言って笑って、また問題を解き始める。


その様子を見ていると、前よりも木下くんが勉強を嫌がらなくなった気がした。


「白上さん」


「……なに?」


「これも分からない」


「……もう」


「ごめん」


「……いいよ」


私は問題集を覗き込む。


すると、後ろから佐々木さんがやってきた。


「二人とも、まだ勉強してるの?」


「うん」


木下くんが答える。


「白上さんに教えてもらってる」


「また?」


「うん」


「木下、白上さんに頼りすぎじゃない?」


「だって分かりやすいんだもん」


「まあ、確かに白上さん教えるの上手だもんね」


「……そんなことないよ」


「あるって」


佐々木さんが笑う。


「じゃあ私も分からないところ聞いていい?」


「……うん」


気づけば、三人で問題集を覗き込んでいた。


少し離れたところでは、田中くんも一人で問題を解いている。


「田中くんは?」


佐々木さんが聞く。


「俺は自分でやってる!」


「珍しい」


「俺だってやるときはやるんだよ!」


「じゃあ頑張って」


「おう!」


そんなやり取りをして、みんなで笑った。


前なら、放課後の教室に残ることなんてなかった。


早く帰って、一人で過ごして、それで一日が終わる。


そんな毎日だった。


今は、こうして誰かと一緒に残っている。


それが少し不思議だった。


でも。


嫌じゃない。


むしろ、楽しかった。


そして、中間テストの日がやってきた。


朝から教室の空気が少し違っていた。


みんな、いつもより静かだった。


「やばい……」


田中くんが問題集を見ながら呟く。


「昨日もっとやればよかった……」


「昨日ゲームしてたじゃん」


佐々木さんが言う。


「……なんで知ってるの?」


「田中が自分で言ってたから」


「…………」


「ほら」


「今からでも勉強する!」


「もうすぐテスト始まるよ」


「…………」


田中くんが黙った。


「頑張って」


木下くんが笑う。


「木下は余裕そうだな」


「俺も緊張してるよ」


「白上は?」


「……いつも通り」


私が答えると、田中くんが言った。


「やっぱり余裕じゃん」


「……そういう意味じゃないよ」


そんな会話をしているうちに、先生が入ってきた。


「じゃあ、始めるぞー」


教室が静かになる。


問題用紙が配られる。


私は一度深呼吸してから、問題に向かった。


一問ずつ、落ち着いて解いていく。


分からない問題は飛ばして、分かる問題から進めていく。


隣を見ると、木下くんも真剣な顔で問題を解いていた。


それから数日。


五教科のテストが終わった。


最後のテストが終わった瞬間、田中くんが机に突っ伏した。


「終わったー!」


「疲れた……」


佐々木さんも大きく息を吐く。


「お疲れ様」


木下くんが笑う。


「白上さんも、お疲れ」


「……うん。お疲れ様」


終わった。


そのことだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。


数日後。


答案が返ってきた。


「どうだった?」


木下くんが聞いてくる。


「……まあまあかな」


「俺も」


木下くんが自分の答案を見る。


「……お」


「どうしたの?」


「数学、前より上がってる」


「……ほんと?」


「うん」


木下くんが嬉しそうに笑った。


「白上さんに教えてもらったところ、ちゃんとできた」


「……よかった」


「ありがとう」


「……うん」


その一言が、なんだか嬉しかった。


中間テストが終わると、少しだけゆっくりできる時期があった。


秋休み。


何日かだけの短い休みだったけれど、久しぶりにのんびり過ごせた気がする。


私は家で本を読んだり、猫の動画を見たりしながら、ゆっくり過ごした。


スマホを見ると、四人のグループのメッセージには、たまにくだらない会話が流れてくる。


『田中がまたゲームで負けた』


佐々木さんから送られてきたメッセージ。


『余計なこと言うな!』


すぐに田中くんが返している。


『何のゲーム?』


木下くんが聞く。


『今度やろうぜ』


『いいよ』


そんなやり取りを眺めて、私は小さく笑った。


自分から会話に入らなくても、こうしてみんなのやり取りを見るだけで、なんとなく一緒にいるような気がした。


短い休みは、あっという間に終わった。


学校が始まる。


そして、季節は少しずつ冬へ向かっていった。


朝、家を出ると空気が冷たい。


制服の袖から入ってくる風に、思わず肩をすくめる。


学校に着いて教室に入ると、木下くんが声をかけてきた。


「おはよう」


「……おはよう」


「今日、寒いな」


「……うん」


「冬って感じする」


木下くんが窓の外を見る。


木々の葉は、いつの間にかかなり少なくなっていた。


「もうすぐ冬休みだな」


木下くんが言った。


「……そうだね」


そう答えたけれど、その前にもう一つ、やらないといけないことがあった。


「そういえば」


昼休み。


佐々木さんが言った。


「期末テスト、来月だよね」


「…………」


田中くんの動きが止まる。


「忘れてた」


「忘れないでよ」


「中間終わったばっかじゃん!」


「そうでもないよ」


「時間経つの早すぎる……」


木下くんも苦笑する。


「また勉強しないとな」


「……うん」


私は頷いた。


またテスト。


二学期最後のテスト。


これが終われば、冬休みが来る。


そう思うと、少しだけ頑張れそうな気がした。


それから、また勉強する日が続いた。


今度は四人で一緒に勉強することも増えた。


放課後の教室で、四人で机を寄せて、それぞれ問題集を開く。


「白上さん、これ分かる?」


「……うん。ここはね」


「なるほど」


「佐々木、そこ違う」


「えっ?」


「そこ、計算間違ってる」


「ほんとだ……」


「田中くんは?」


「俺は今、頑張って考えてる!」


「さっきから同じ問題見てない?」


「…………」


「やっぱり?」


「分かんない!」


「もう!」


みんなで笑う。


勉強しているのに、楽しかった。


たまにくだらない話をして。


また問題を解いて。


分からないところを教え合って。


気づけば時間が過ぎている。


「そろそろ帰ろうか」


木下くんが時計を見る。


「……うん」


「今日、結構やったな」


「うん」


「明日も頑張ろう」


「……頑張ろう」


そんな日々を繰り返して。


気づけば、期末テストの日になっていた。


「ついに来たな……」


朝。


田中くんが遠い目をしている。


「ちゃんと勉強した?」


佐々木さんが聞く。


「した」


「本当に?」


「……したと思う」


「またそれ?」


「今回は本当にした!」


「なら大丈夫じゃない?」


木下くんが笑う。


「みんな頑張ろう」


「……うん」


私も頷いた。


テストが始まる。


一教科。


また一教科。


問題を解いていく。


疲れて、眠くなって。


それでも、一問ずつ最後まで解いた。


そして。


最後のテストが終わった。


「終わったぁぁぁ!」


田中くんが机に突っ伏す。


「長かった……」


佐々木さんも机に腕を乗せる。


「これで終わりだね」


木下くんが笑った。


「うん」


「しばらくテストないぞ!」


「それが一番嬉しい」


田中くんが顔を上げる。


「冬休みも近いしな!」


その言葉を聞いて、私は少しだけ嬉しくなった。


放課後。


テストが終わった安心感もあって、四人で教室に残っていた。


窓の外は、もう夕方になっている。


「そういえばさ」


佐々木さんが言った。


「もうすぐクリスマスだよね」


「クリスマス?」


田中くんが聞き返す。


「うん」


「そういえば、そうだな」


木下くんが窓の外を見る。


「もうそんな時期か」


「早いよね」


佐々木さんが笑う。


「今年、どうする?」


「俺は家で過ごすかな」


田中くんが言う。


「俺も、まだ何も決まってない」


木下くんも答える。


佐々木さんが少し考えてから、口を開いた。


「あのさ」


「うん?」


「みんなでクリスマスやらない?」


「…………」


私は顔を上げた。


「四人で?」


木下くんが聞く。


「そう!」


佐々木さんが頷く。


「せっかくここまで仲良くなったんだしさ」


「いいじゃん!」


田中くんがすぐに賛成する。


「何する?」


「それはこれから考える!」


佐々木さんが笑う。


「ケーキは食べたい」


「それは絶対だな」


田中くんが言う。


「あと、プレゼント交換したい!」


「いいね」


木下くんも頷く。


話がどんどん進んでいく。


ケーキ。


プレゼント。


食べるもの。


どこで過ごすか。


まだ決まっていないことばかりなのに。


みんな楽しそうだった。


「でも、どこでやる?」


佐々木さんが聞いた。


「家だと、誰かの家に集まることになるし……」


田中くんが考える。


「俺の家は、弟いるからちょっと騒がしいかも」


「うちは狭いかな」


佐々木さんも続ける。


木下くんも少し考えてから、


「俺の家も、みんなで集まるにはちょっと難しいかも」


と言った。


四人とも、それぞれ家はある。


でも、四人で集まって、ケーキを食べたり、プレゼントを交換したり、ゆっくり話したりするとなると、ちょうどいい場所がなかなか思いつかなかった。


「外で食べる?」


田中くんが言う。


「寒いよ」


「それはそうだな……」


「お店だと、ずっと話してるのも気になるしね」


佐々木さんが言う。


「それに、せっかく四人で集まるなら、もっとゆっくりしたいよね」


「うん」


木下くんが頷く。


「せっかくのクリスマスだし」


その言葉を聞いて、少しだけ静かになる。


すると、田中くんがふと思いついたように言った。


「じゃあ、カラオケとかどう?」


「カラオケ?」


佐々木さんが聞き返す。


「うん。部屋借りられるじゃん」


田中くんが指を折りながら話す。


「四人ならそんなに広い部屋じゃなくてもいいし、寒くないし。座って話せるし、食べたり飲んだりもできるだろ?」


「たしかに」


佐々木さんが頷く。


「歌わなくてもいいしね」


「え?」


田中くんが驚く。


「歌うために行くんじゃないの?」


「もちろん歌ってもいいけど」


佐々木さんが笑う。


「クリスマスなら、みんなで話したり、ケーキ食べたり、プレゼント交換したりする時間もほしいじゃん。カラオケなら、部屋を借りられるから、周りを気にせず好きなだけ話せそう」


「それならいいな」


木下くんも頷いた。


「誰かの家じゃないから、家の人にも気を使わせなくていいし」


「それに、四人なら何しても楽しそうじゃん」


田中くんが言う。


「歌いたくなったら歌えばいいし、疲れたら座って話せばいいし」


「なんか、ちょうどいいね」


佐々木さんが笑った。


「四人で過ごす場所としては、結構いいかも」


三人の話を聞きながら。


私は少しだけ考えた。


カラオケ。


今まで、友達と行ったことはない。


人がたくさんいる場所は少し苦手だし、歌うのも少し緊張する。


ちゃんと歌えるかも分からない。


でも。


ここにいる三人となら。


きっと、無理に歌わなくてもいい。


話したり、笑ったり。


ケーキを食べたり。


みんなが歌っているのを聞いているだけでも、きっと楽しい。


それに、誰かの家に行くよりも、みんなで気軽に集まれる場所なのかもしれない。


「……私も、いいと思う」


そう言うと。


「じゃあ、決まり!」


佐々木さんが嬉しそうに笑った。


「クリスマスはカラオケ!」


「おー!」


田中くんが手を上げる。


「プレゼント交換もするぞ!」


「歌も歌おうね」


「俺、結構うまいからな」


「自分で言う?」


「絶対負けないから!」


「誰と勝負するのよ」


三人が楽しそうに話している。


その様子を見ていると。


私も自然と笑っていた。


「白上さんは?」


佐々木さんがこっちを見る。


「……え?」


「歌う?」


「…………」


少し迷ってから。


「……うん」


小さく頷く。


「みんなとなら」


「やった!」


佐々木さんが嬉しそうに笑う。


「じゃあ、何歌うかも考えないとね!」


「俺、もう決めた!」


「早すぎない?」


みんなで笑う。


それから。


カラオケの部屋を予約すること。


時間を決めること。


ケーキや飲み物をどうするか。


プレゼントをいくらくらいにするか。


少しずつ決めていこうという話になった。


まだ先のことなのに。


話しているだけで楽しかった。


そのとき。


佐々木さんが私を見る。


「白上さんは、クリスマス一緒に過ごせる?」


「……うん」


少しだけ迷ってから、頷く。


「私も、一緒にやりたい」


「よし!」


佐々木さんが嬉しそうに笑う。


「決まりね!」


「じゃあ、四人でクリスマスだな!」


田中くんも嬉しそうだ。


「楽しみだな」


木下くんが言った。


「……うん」


私も笑った。


そのあとも、四人でクリスマスの話を続けた。


「プレゼント、いくらくらいにする?」


「高すぎるのはなしにしよう」


「じゃあ、みんなで同じくらいにしよう」


「ケーキはどうする?」


「買ってからカラオケに持っていこうよ」


「それいいな」


「じゃあ、そのときまた集まろう」


そんな話をしているうちに、気づけば外は暗くなっていた。


「そろそろ帰ろうか」


木下くんが言う。


「うん」


四人で教室を出る。


昇降口まで歩いて、そこでそれぞれ帰る方向が分かれる。


「じゃあ、また明日!」


「またね」


「また明日」


「……また明日」


木下くんと顔を見合わせる。


「クリスマス、楽しみだな」


「……うん」


それだけ言って、私たちは別れた。


帰り道。


冷たい風が頬に当たる。


私はマフラーを少し上まで上げた。


冬休み。


クリスマス。


みんなで借りたカラオケの部屋で過ごす一日。


考えるだけで、なんだか少し嬉しくなる。


カラオケなんて。


今まで行ったこともなかった。


でも。


木下くんや、佐々木さん、田中くんと一緒なら。


きっと楽しい。


家に着いてからも、今日話したことを何度も思い出していた。


「…………」


クリスマス。


楽しみだな。


そう思いながら、私は少しだけ笑った。

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