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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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19/22

第十九話 体育祭

文化祭が終わり、学校は少しずついつもの日常に戻っていた。


朝晩は、前より少し冷えるようになってきた。


教室の窓から入ってくる風も、夏とは違う。


そんなある日の朝。


先生が教室に入ってきた。


「はい、席つけー」


みんなが席に戻る。


先生は黒板に大きく文字を書いた。


『体育祭』


「今日は体育祭について話すぞ」


「体育祭!」


教室が一気に騒がしくなる。


「そういえば、もうそんな時期か」


「何の競技出るんだろう?」


「リレー出たい!」


みんなが楽しそうに話している。


先生が説明を続ける。


「体育祭は来週。今日から種目を決めて、練習も始めるからな」


「来週!?」


田中くんが驚いた。


「早くない?」


「だから今日からやるんだよ」


「なるほど……」


田中くんが少しだけ納得したような顔をする。


まずは、出場する種目を決めることになった。


「短距離走に出たい人!」


何人かが手を挙げる。


「次、リレー」


「俺、出たい!」


田中くんがすぐに手を挙げた。


「田中、足速かったっけ?」


佐々木さんが聞く。


「そこそこ早い!」


「それ、速いって言えるの?」


「言えるだろ!」


「まあ、いいけど」


二人のやり取りに、教室から笑い声が起こる。


そのあとも、次々と種目が決まっていく。


私は黒板を見ながら、自分が出られそうなものを考えていた。


できれば、あまり目立たないものがいい。


人前に出るのは、やっぱり苦手だから。


「白上さんは、何にする?」


木下くんが聞いてきた。


「……私は」


黒板を見る。


「……何でもいいよ」


「じゃあ、これ一緒にやらない?」


木下くんが指さした。


二人三脚。


「…………」


「嫌だった?」


「……ううん」


少し驚いただけ。


「……やる」


「よかった」


木下くんが笑った。


その笑顔を見ていると。


私も少しだけ嬉しくなった。


「じゃあ、二人三脚は木下と白上さんな」


先生が名簿に名前を書く。


「他に出たい人いるか?」


そのあとも種目を決めていき。


しばらくして、出場する種目が一通り決まった。


「よし、今日はここまで」


先生が黒板を見ながら言う。


「明日から練習も始めるから、忘れるなよ」


「はーい」


教室のあちこちから返事が返ってきた。


放課後。


さっそく体育祭の練習が始まった。


校庭に出ると、いつもの授業とは少し違う雰囲気だった。


クラスごとに集まって、リレーの順番を決めたり、応援の練習をしたり。


私は木下くんと二人三脚の練習をすることになった。


「じゃあ、まず足を結ぼうか」


「……うん」


木下くんが紐を持つ。


私の左足と、木下くんの右足を結ぶ。


それだけなのに。


なんだか落ち着かない。


「ゆっくり歩いてみよう」


「……うん」


「いち、に」


「いち、に……」


一歩目から、うまく合わなかった。


「わっ……」


足がもつれる。


木下くんが、とっさに私の腕を支えてくれた。


「大丈夫?」


「……うん」


「ごめん。俺が早かったかも」


「……私も、合わせられなかった」


「じゃあ、もう一回やってみよう」


「……うん」


今度は、もっとゆっくり。


「いち、に」


「いち、に」


さっきより、少しだけ歩ける。


「お、いい感じ」


木下くんが笑う。


「……ほんと?」


「うん。このままいけそう」


もう少し歩いてみる。


今度は、足がほとんど引っかからなかった。


「……できた」


「できたな!」


二人で顔を見合わせる。


思わず笑ってしまった。


「二人とも、結構いいじゃん」


後ろから佐々木さんの声がした。


「見てたの?」


木下くんが振り返る。


「うん。さっきより全然いいよ」


「そう?」


「うん」


佐々木さんは私を見る。


「白上さん、体育祭楽しみ?」


「……うん。ちょっと」


「よかった!」


佐々木さんが笑った。


「じゃあ、また練習しようね」


「……うん」


それから、毎日のように体育祭の練習が続いた。


リレーのバトン練習をしたり。


綱引きの並び方を決めたり。


クラス全員で参加する競技の練習をしたり。


放課後の校庭は、いつも賑やかだった。


「田中、もっと早く!」


「これでも頑張ってる!」


「バトン落とすなよ!」


「分かってるって!」


そんな声があちこちから飛び交っている。


私も応援の練習に参加した。


「白上さん、もうちょっと声出してみて!」


佐々木さんが言う。


「……うん」


少しだけ声を大きくする。


「頑張れー!」


「うん、そのくらい!」


佐々木さんが嬉しそうに笑った。


すると、木下くんもこっちを見ていた。


「ちゃんと聞こえたよ」


「……ほんと?」


「うん。結構大きかった」


「……よかった」


それだけなのに。


少し自信がついた気がした。


二人三脚の練習も続いた。


「いち、に」


「いち、に」


最初はなかなか合わなかった歩幅も。


何度も練習するうちに、自然と揃うようになっていった。


「もう普通に歩けるな」


木下くんが言う。


「……うん」


「最初、めっちゃ転びそうだったけど」


「……それは言わないで」


「ごめん、ごめん」


木下くんが笑う。


私も、少しだけ笑った。


そんな日が続いて。


気づけば、体育祭の前日になっていた。


放課後の教室では、明日の準備をしていた。


「ゼッケン、これで全部?」


「たぶん大丈夫」


「飲み物も忘れないようにしないとね」


みんなで確認しながら準備を進める。


私は黒板に明日の予定を書いていた。


「白上さん、終わったらこっち手伝って!」


佐々木さんに呼ばれる。


「……うん」


「ありがとう!」


少し前なら。


こんなふうに自然に声をかけられることも、あまりなかった。


でも今は。


みんなと話すことにも、少しずつ慣れてきた。


「これ、どこに置けばいい?」


「そこお願い!」


「……分かった」


みんなで準備をしていると。


「よし、これで終わり!」


田中くんが言った。


「明日、絶対勝とうな!」


「何に勝つの?」


佐々木さんが笑う。


「全部!」


「欲張りだなぁ」


木下くんも笑った。


「でも、せっかくだし頑張ろう」


「……うん」


私も頷いた。


そして。


体育祭当日。


朝から学校は、いつもと少し違っていた。


校庭にはテントが並び、クラスごとに生徒が集まっている。


「おはよう!」


「今日頑張ろうな!」


あちこちから元気な声が聞こえる。


私は少し緊張しながら、クラスの集合場所へ向かった。


「白上さん、おはよう!」


木下くんが声をかけてくれる。


「……おはよう」


「緊張してる?」


「……少し」


「俺も」


「……木下くんも?」


「うん。こういうのって、始まるまで緊張するよな」


「……うん」


「でも、練習したし大丈夫だよ」


「……そうだね」


そう言われると。


少しだけ安心した。


体育祭が始まった。


最初の競技から、校庭には大きな声援が響いていた。


「頑張れー!」


「いけー!」


クラスメイトたちが声を上げる。


短距離走では、田中くんが走った。


「田中、頑張れー!」


佐々木さんが大きな声で応援する。


田中くんは必死に走って。


ゴールしたあと、息を切らしながら戻ってきた。


「疲れた……」


「お疲れ様」


「何位だった?」


「三位!」


「おお!」


「やるじゃん!」


みんなが声をかける。


田中くんも嬉しそうだった。


その後も、競技はどんどん進んでいく。


綱引き。


玉入れ。


リレー。


クラス全員で参加する競技。


勝ったときは、みんなで喜んで。


負けたときは、みんなで悔しがった。


そんなことを繰り返しているうちに。


気づけば、私も大きな声で応援していた。


「頑張れー!」


自分でも驚くくらい、大きな声が出た。


「白上さん、声出てるじゃん!」


佐々木さんが笑う。


「……うん」


なんだか。


楽しかった。


そして。


二人三脚の時間が近づいてきた。


「次、二年生の二人三脚です」


先生の声が響く。


「白上さん、行こう」


木下くんが声をかける。


「……うん」


スタート位置へ向かう。


足を紐で結ぶ。


「大丈夫?」


「……たぶん」


「じゃあ、いつも通りでいこう」


「……うん」


前を見る。


スタートラインの向こうに、ゴールが見える。


「よーい……」


周りの声が少し遠くなる。


「スタート!」


合図と同時に走り出す。


「いち、に!」


「いち、に!」


練習したときと同じように、足を動かす。


最初は順調だった。


けれど。


途中で少しだけ足がもつれた。


「わっ……!」


「大丈夫!」


木下くんが声をかける。


「そのまま、いける!」


「……うん!」


もう一度、足を合わせる。


「いち、に!」


「いち、に!」


今度は大丈夫。


そのまま二人で走る。


そして。


ゴールした。


「やった!」


木下くんが笑う。


「……よかった」


息を切らしながら、私も笑った。


順位は真ん中くらいだった。


でも。


悔しくはなかった。


木下くんと一緒に、最後まで走れた。


それだけで、十分嬉しかった。


「白上さん、頑張ったな」


「……木下くんも」


「楽しかったな」


「……うん」


木下くんが笑う。


私も自然に笑っていた。


そのあとも競技は続いた。


最後の競技が終わる頃には、少しずつ空が赤くなっていた。


「終わったー!」


田中くんが大きく伸びをする。


「疲れたね」


佐々木さんも笑う。


「でも、楽しかった!」


「うん」


木下くんが頷く。


「みんなでやると、やっぱり楽しいな」


「……うん」


私も頷いた。


みんなで片付けをして。


教室へ戻る。


窓の外は、夕方の色になっていた。


「今日、楽しかったな」


木下くんが言う。


「……うん。楽しかった」


「二人三脚も、ちゃんとゴールできたし」


「……うん」


「最初はどうなるかと思ったけど」


「……私も」


二人で笑う。


少しだけ沈黙が続いた。


でも。


嫌な沈黙じゃなかった。


「また、こういうのやりたいな」


木下くんが言う。


「……うん」


「みんなでさ」


「……楽しそう」


「だろ?」


木下くんが笑う。


その笑顔を見ながら。


私は小さく頷いた。


体育祭。


こうしてみんなと一緒に過ごしていることが。


少し前までは、当たり前じゃなかった。


人前で声を出すことも。


みんなと一緒に何かをすることも。


私はずっと苦手だった。


でも今日は。


みんなと一緒に笑って。


声を出して。


一緒に頑張った。


楽しかった。


そう思えたことが。


少しだけ嬉しかった。


教室を出る。


外には、秋の冷たい風が吹いていた。


「じゃあ、また明日」


「……うん。また明日」


木下くんと別れて。


私は一人で歩き出す。


今日のことを思い出しながら。


私は、少しだけ笑った。


体育祭。


楽しかったな。


また一つ。


木下くんや、みんなと過ごした思い出が増えた。


そう思うと。


明日も、学校に行くのが少し楽しみだった。


私はそんなことを思いながら、家へと帰った。

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