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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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第十六話 夏祭り

海へ行った日から、何日か経った。


夏休みも、残り少なくなってきた。


田中くんは家族と旅行へ行ったらしく、佐々木さんも家族で出かける予定があるらしい。


木下くんも、家族で出かける予定があると言っていた。


私も、お母さんと一緒に出かける予定があった。


それぞれ予定があって。


みんなで集まる予定は、しばらくなかった。


楽しかった海の日のことを思い出す。


みんなで遊んで。


笑って。


帰りの電車では、木下くんが私の肩で眠ってしまって。


あの日のことを思い出すと、自然と頬が緩んだ。


でも。


もう一度、みんなでどこかに行けたらいいな。


そんなことを、少しだけ思っていた。


そんなある日のこと。


家でスマートフォンを見ていると、通知が鳴った。


木下くんからだった。


『白上さん、今大丈夫?』


『うん。大丈夫だよ』


少しすると、またメッセージが届く。


『よかった』


『もうすぐ夏休み終わるじゃん?』


『そうだね』


『その前に、みんなでどっか行かない?』


画面を見ながら、少しだけ嬉しくなる。


『いいよ』


送信すると、すぐに返事がきた。


『じゃあ、佐々木と田中にも聞いてみる!』


しばらくすると、また通知が鳴った。


『二人とも大丈夫だって!』


『じゃあ、どこ行く?』


四人で相談して。


夏休みの終わりに、近くで開かれる夏祭りに行くことになった。


そして。


夏祭り当日。


「澪、今日は浴衣着てみたら?」


お母さんに言われて、少し驚いた。


「……浴衣?」


「せっかく夏祭りなんだから、着てみなさいよ」


お母さんに手伝ってもらいながら、浴衣を着る。


髪も少し整えてもらった。


鏡を見る。


いつもと少し違う自分が、そこにいた。


「可愛いよ」


「……そうかな」


「うん。きっと喜んでもらえるよ」


「……誰が?」


「さあ?」


お母さんが笑う。


「…………」


なんとなく、顔が熱くなった。


待ち合わせ場所へ向かう。


そこには、すでに木下くんと田中くんがいた。


「あ、白上さん!」


木下くんがこちらを見る。


そのまま、少しだけ動きを止めた。


「何ぼーっとしてんの?」


田中くんが不思議そうに聞く。


「……いや」


木下くんは、少しだけ目をそらして。


「……似合ってる」


「……え、あ、ありがとう」


とっさに言われたことが、とても嬉しかった。


「白上さん、可愛いじゃん!」


佐々木さんもやってきて、私の浴衣を見る。


「佐々木さんも……似合ってるよ」


「ほんと? ありがと!」


四人で並んで、夏祭りの会場へ向かった。


会場には、たくさんの人がいた。


焼きそば。


たこ焼き。


かき氷。


りんご飴。


金魚掬い。


射的。


たくさんの屋台が並んでいる。


「どれから行く?」


田中くんが楽しそうに聞く。


「まずは何か食べたい!」


佐々木さんが答える。


「じゃあ、かき氷とか?」


木下くんが言う。


「いいね!」


みんなで屋台を見て回る。


私は苺味のかき氷を選んだ。


「白上さん、何味?」


「……いちご」


「俺もそれにしようかな」


「……同じ?」


「うん」


それだけなのに。


なんとなく嬉しくなった。


四人でかき氷を食べながら歩く。


その後も、いろいろな屋台を見て回った。


しばらく歩いていると、人がだんだん増えてきた。


「うわ、すごい人」


田中くんが周りを見る。


「ちょっと先行ってみようよ!」


佐々木さんが田中くんの腕を引っ張る。


「おい、ちょっと待てって!」


二人が人混みの中へ進んでいく。


「俺たちも行こうか」


「……うん」


私と木下くんも、二人を追いかける。


だけど。


人が多くて。


気がついたときには、二人の姿が見えなくなっていた。


「……あれ?」


「佐々木たち、見えなくなったな」


「……どうしよう」


木下くんが携帯を取り出す。


佐々木さんに連絡すると、すぐに返事がきた。


『じゃあ、近くの高台の神社に集まろ!』


『花火がよく見える場所だから、先にいってまってるね!』


「近くの高台の神社に集合だって」


「……うん」


私たちは、人混みを抜けて神社へ向かった。


神社へ続く階段を上っていく。


その途中だった。


ドンッ――!


大きな音が響いた。


空を見上げる。


大きな花火が、夜空に広がっていた。


「……わぁ」


思わず足を止める。


「始まったな」


木下くんも空を見上げている。


綺麗だった。


海の日とは違う。


でも。


今日も、木下くんと一緒にいる。


そのことが嬉しかった。


隣に立つ木下くんとの距離は、ほんの少ししか離れていない。


手を伸ばせば届きそうなのに。


その距離が、今はひどく遠く感じた。


花火の光が木下くんの横顔を照らす。


いつも見ているはずの顔なのに、今日は少し違って見えた。


胸の奥が、どくん、どくん、と大きく鳴る。


一度意識してしまうと、その鼓動はなかなか収まらなかった。


花火の音に紛れてしまいそうなのに。


自分の鼓動だけは、耳のすぐそばで鳴っているように感じる。


「…………」


ふと。


思う。


今なら。


今なら、言えるかもしれない。


でも、本当に言ってしまっていいのだろうか。


もし伝えて、困らせたら。


今までみたいに話せなくなったら。


そう考えると、怖くなった。


それでも。


このまま何も言わなかったら。


きっと、ずっと後悔する。


私は浴衣の袖を、ぎゅっと握りしめた。


指先に力を込めても、震えは止まらなかった。


木下くんの横顔を見る。


近い。


でも、声をかけるには遠い。


「……木下くん」


「ん?」


木下くんがこちらを向く。


目が合った。


それだけで、胸が苦しくなる。


「私、木下くんが……」


喉の奥が震えた。


続きの言葉が、なかなか出てこない。


好き。


その二文字が、胸の中にあるのに。


声にしようとすると、急に重くなった。


木下くんが、黙って私を見ている。


急かすこともなく。


ただ、返事を待っている。


その優しさが、余計に苦しかった。


言わなきゃ。


今、言わなきゃ。


私は小さく息を吸った。


「……好き――」


その瞬間。


ドンッ――!


大きな花火が夜空に上がった。


音が、すべてをさらっていく。


自分の声も。


木下くんの表情も。


胸の中で膨らんでいた勇気も。


何もかも、花火の音にかき消された。


「……今、何か言った?」


木下くんが、少し身をかがめて聞き返す。


聞こえなかったんだ。


分かっていたはずなのに。


その事実が、胸に刺さった。


「……ううん」


私は首を横に振る。


「なんでもない」


本当は。


なんでもなくなんかない。


今、好きって言おうとした。


ずっと伝えたかった。


木下くんともっと一緒にいたいって。


これからも、隣にいたいって。


ちゃんと伝えたかった。


でも。


あと少しだったのに。


あと一言だったのに。


言えなかった。


「そっか」


木下くんは、それ以上聞かなかった。


その声が優しかったから。


余計に、苦しくなった。


「…………」


二人で並んで、花火を見る。


何度も夜空に花火が上がる。


そのたびに、私は隣にいる木下くんを見てしまう。


さっきより近くにいるはずなのに。


さっきより、遠く感じる。


「一緒に見られてよかった」


木下くんが、ぽつりと言った。


「……うん」


声が震えないように、私は小さく笑った。


本当は。


私も同じ気持ちだった。


一緒に見られてよかった。


でも。


できるなら。


この時間が終わらなければいいのに。


花火が終わる。


夜空に残った光が、ゆっくりと消えていく。


私の中に残った言葉だけが、消えずに残っていた。


私たちは階段を上り、神社の境内へ向かった。


「おーい!」


上から声が聞こえる。


見ると、佐々木さんと田中くんがいた。


「遅いよー!」


「ごめん!」


四人で合流する。


その後、少しだけ屋台を見て回って。


最後にみんなで話をしてから、それぞれ帰ることになった。


帰り道。


隣を歩く木下くんを見る。


「…………」


伝えることができなかった。


でも。


いつか。


ちゃんと伝えたい。


今日、言えなかった分まで。


そう思った。


残り少ない夏休み。


もうすぐ学校が始まる。


今日も。


海の日とは違う、特別な一日になった。


私は夜空を思い出しながら、家へ向かった。

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