第十三話 再び勉強会
みんなの都合を合わせた結果、来週の土曜日に集まることになった。
「どこで勉強する?」
木下くんが聞く。
「図書館でいいんじゃない?」
田中くんが言う。
「でもさ」
佐々木さんが口を開く。
「図書館って、ちょっと遠くない?」
「まあ、確かに」
田中くんが頷く。
「わざわざ行くのも面倒だしな」
「でしょ?」
佐々木さんが言う。
少し考えてから。
「だったらさ」
佐々木さんが私を見る。
「白上さんの家で勉強したいな」
「…………え?」
「私の部屋は散らかってるし、田中と木下の家は少し遠いし」
「でも……」
私が戸惑っていると。
「お願いします!」
佐々木さんが手を合わせてお願いしてくる。
お母さんはシフト制で土曜日も仕事のことが多い。
家に誰かを呼ぶことなんて、ほとんどないけど。
「……私の家でいいなら」
そう答える。
「やった!」
佐々木さんが嬉しそうに笑う。
「じゃあ決まりね」
「俺もいいよ」
「俺も」
木下くんと、田中くんも頷く。
「じゃあ、来週の土曜日な」
「……うん」
* * *
そして。
土曜日。
朝から少しだけ緊張していた。
自分の家に、木下くんたちが来る。
「…………」
部屋を少し片付ける。
机の上を整理して。
四人で勉強できるようにする。
しばらくして。
インターホンが鳴った。
「……来た」
玄関を開ける。
「おはよう、白上さん」
「……おはよう」
木下くん。
その後ろに田中くんと佐々木さん。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
「……どうぞ」
三人を家の中に入れて、部屋まで案内する。
「ここが白上さんの部屋か」
田中くんが周りを見る。
「なんか新鮮だな」
「…………」
部屋を見られるのは少し恥ずかしい。
木下くんがある物を見つける。
「これ、俺がクレーンゲームでとったやつだね」
「大事にしてくれてたんだ」
しまった、隠すのを忘れてた。
「……うん、大切にしてる」
私は照れくさそうに言った。
「ほぅほぅ、お二人はいつの間にそんな仲に……」
佐々木さんが話に入ってくる。
私と木下くんは、互いに顔が赤くなりながら。
「べ…別になにもないよ!」
「ねッ!白上さん!」
「…う、うん!」
「そんなことより、勉強始めよう!」
そう木下くんは言う。
「それもそうだね」
佐々木さんは渋々納得する。
そして、四人で机を囲む。
教科書とノートを広げる。
「じゃあ、始めよう」
「おー」
田中くんが返事をする。
勉強が始まる。
それぞれ分からないところを確認しながら進めていく。
「白上さん、ここ分からないや」
木下くんが問題を見せる。
「……ここはね」
私は問題を見ながら説明する。
「まず、ここをこうして……」
「なるほど」
木下くんがノートに書いていく。
「分かった、ありがとう」
「……どういたしまして」
「やっぱ白上さんに教えてもらうと分かりやすいな」
「……そう?」
「うん」
「白上先生、俺もいい?」
田中くんが手を挙げる。
「……うん」
「ここなんだけど」
「これは……」
私が説明すると。
「おお、分かった」
佐々木さんも笑う。
「白上さん、教えるの上手だね」
「……普通だよ」
みんなで勉強して。
たまにくだらない話をして。
少し笑って。
気づけば。
時間がかなり経っていた。
「もうこんな時間?」
佐々木さんが時計を見る。
「結構やったな」
田中くんが伸びをする。
「今日はこのくらいにしようか」
木下くんが言う。
「うん」
教科書とノートを片付ける。
「今日はありがとう、白上さん」
木下くんが言う。
「……ううん」
「助かったよ」
「私も……楽しかった」
そう言うと。
佐々木さんが嬉しそうに笑った。
「よかった」
三人が帰る準備をする。
そして。
夕方。
みんなで玄関へ向かう。
「じゃあ、また学校で」
「うん」
玄関のドアを開ける。
そのとき。
「ただいまー」
聞き慣れた声がした。
「…………」
お母さんだった。
仕事から帰ってきたみたい。
「お母さん」
「あら?」
お母さんが私の後ろを見る。
そこには。
木下くん。
田中くん。
佐々木さん。
三人が立っていた。
「こんにちは」
木下くんが頭を下げる。
「こんにちは」
田中くんと佐々木さんも続く。
お母さんは少し驚いた顔をして。
すぐに笑った。
「まあ、こんにちは」
そして。
私を見る。
「お友達?」
「……うん」
少し恥ずかしい。
でも。
ちゃんと言えた。
「今日、みんなでテスト勉強してたの」
「そうなのね」
お母さんが三人を見る。
「澪がお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
木下くんが答える。
すると。
お母さんが少し笑って。
「みんなのおかげでね」
「…………?」
私が見る。
「澪、前より明るくなったんです」
「前は学校から帰ってきても、あまり学校の話をしなかったんですけど」
「最近は、学校のことを話してくれるようになって」
「…………」
「楽しそうに話すことも増えました」
「…………」
恥ずかしい。
でも。
嫌じゃなかった。
木下くんたちは黙って聞いている。
お母さんが笑う。
「だから、みんなのおかげだなって思ってます」
「…………」
私は何も言えなかった。
だけど。
なんだか。
胸の奥が温かくなった。
「……じゃあ、またね」
佐々木さんが言う。
「うん」
「テスト頑張ろうな」
木下くんも言う。
「……うん」
三人が帰っていく。
玄関のドアが閉まる。
「…………」
私はしばらく、その場に立っていた。
「楽しかった?」
お母さんが聞く。
「……うん」
「そっか」
お母さんが笑う。
「よかったね」
「…………うん」
少し前まで。
学校は。
ただ、行って帰ってくるだけの場所だった。
話す友達もいなくて。
一人でいるのが当たり前だった。
でも。
今は。
一緒に勉強する友達がいる。
学校で話す人がいる。
そして。
学校のことを話したいと思えるようになった。
「…………」
前より。
少しだけ。
変わったのかもしれない。
そんなことを考えながら。
私は自分の部屋へ戻った。




