あと298日/練習後のひととき
今日の部活も終了の時刻となり、「っした!」と部員の声が響いた。
泉が最後まで体育館に残っていたせいか、部員たちは少し嬉しそうだ。
「泉せんせーって現役アタッカーだったんでしょ?」
「お前ら、どっからそういう情報得てくるんだよ……」
「マジで? 打ってみてよ」
「あ、見たい見たい!」
「勘弁してくれ。どんだけブランクあると思ってんだ」
「やれよー」
「偉そうに指導すんならさ、実力見せてくれないと!」
三年生の部員を中心に、泉を囲って無茶ぶりを突きつける。
「あ、じゃあ俺がトス上げる」
悪ノリをしたセッターが手を上げて、ボールを持ってコートに走っていった。
「あ?」
「オープンでいいよね」
「ほら、先生、行けよ!」
コートの中で待たれてしまっては、下級生もネットの片づけをすることができない。
むしろ、下級生も女子マネもワクワクした顔をしている。
「……ったく、しょーがねぇなぁ。期待すんなよ」
泉はしぶしぶコートに入った。
「はーい、トスーっ!」
白球が上がる。
二歩の助走と、深い踏み切り。
真っ直ぐ飛び上がった体は上空でしなり。
ネットの遥か上の最高到達点で長い手がボールを捉えた。
ダン、ダァンッ!
打ち抜かれたボールは、相手コートのアタックライン辺りにほぼ直角に突き刺さり、高くバウンドした。
「……」
部員たちの呆気にとられた沈黙。
数秒後。
その場がわーっと沸いた。
「すっげぇ……!」
「え、ちょっと予想以上にスゴすぎ!」
「インハイ選手って嘘じゃなかった!」
「全日本U断ったってホント!?」
「だからお前ら、どっからそういうガセ情報を……」
解放された泉が戻ろうとすると、セッターがその手を引いた。
「次! 次Aもやって!」
「もういいだろ」
「ほら、パス。俺上げるから!」
ボールを放られれば、反射的に受けてしまうものらしい。
「わかったよ……。やるからには中途半端なの上げんなよ」
泉は爪先でトントンと床を蹴って、センターのアタックラインに下がっていく。
神楽は無意識に駆け出して。
反対側コートの中央に入った。
「……」
ネット越しに泉と目が合う。
ふ、と不敵な笑みを向けられて、心臓が高鳴った。
絶対に受けてやるつもりで、睨みつける。
「行くぞ」
泉がセッターにパスをする。
同じタイミングでネット際まで走り込み、短いトスが上がった時には空中に舞い上がっていた。
(来る!)
泉が打ったボールは。
わざと神楽の足元に。
鋭い音と共に、突き刺さった。
「くっそ!」
取れなかった。
一歩も動けなかった。
ニヤリと笑われて腹が立つ。
「先生、次も!」
「まだやんのかよ」
「神楽! 面白そうなことしてんじゃん!」
「俺は後ろ入るな!」
「じゃ、レフト行く!」
反対コートで呆然と突っ立ったままの神楽の周りに、他の部員がわらわらとやってくる。
みんな、泉のスパイクを受けてみたいのだ。
次はDだ。
泉はパスと同時にレフトからライトへと走り込んでいく。
その時、一瞬だけ、泉がチラリと神楽のいるコートへ視線を投げた。
「!」
考えるより先に、神楽は視線の逆側に踏み込んでいた。
ダン、バシンッ!
手首が痺れるほどの衝撃と。
高く上がった白いボール。
「っ上がったぁ!」
「トス上げろ!」
「……打てっ!!」
神楽は、周りの部員たちによって攻撃に転じた、白い球を呆然と見送った。
守る者のいないコートにボールが落ちる。
「……」
そして、ネット越しに合う瞳。
「神楽! よくやった!」
「すげぇ! なんで反応できたの!?」
仲間たちにもみくちゃにされて、あっという間に泉が見えなくなる。
すると、背の高い男が近付いて来た。
「やるじゃん、リベロ」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられて。
「……ったりめーだ」
神楽ははにかんだ笑みを向けた。
(あんたに一番認められたかった)




