あと324日/国語研究室で
完結しているので、最後まで本日全話更新致します。
「泉先生ー。なんでここ間違ったのか教えて。……あれ、国研にいるの先生だけ?」
ガラガラ、と引き扉を開けると、室内は閑散としていた。
「ん? ああ、そうみたいだな」
泉は指摘されてはじめて気づいた様子。
二人きりの空間に、神楽の肩に力が入った。
「どの問題?」
対して、泉は平素通りに見える。
神楽が問題用紙を見せて「ここ」と指し示すと、プリントを覗き込んだ泉と距離が縮まった。
ベルガモットのような爽やかな香りが鼻腔を擽る。
「あー。気持ちを答えなさい系のやつな。神楽、お前、人の気持ちを想像するの苦手そうだもんな」
「うるせーよ」
いつも通り軽口を叩いたかと思えば、もう真面目な顔で解説を始める。
「『傍線部分の佳代の気持ちとして適切なものはどれか。』この傍線部分は『知らせを聞いた佳代は沈黙した。』っていう文だろ。こういうのはまず、絶対に違うのを外せ。例えばこれなら、選択肢①の『佳代は怒っていたから。』だな」
「俺、それだと思ったんだけど」
「小学校から学び直せ」
「落としすぎだろ」
「死んだと思ってた恋人の生存を知ったのに、なんで怒んだよ」
「予想外すぎて?」
「予想外だと怒るのか」
傍らに立つ神楽を、泉がふと見上げた。
不意に視線が合って、心臓が跳ねる。
泉は、真摯な瞳で告げる。
「神楽。──好きだ」
「なっ……」
真っ赤になって言葉が出ない神楽に。
「──ほら、『沈黙した』。今の神楽の気持ちはどれだ?」
泉のしたり顔。
「……っざけんな! 死ねよボケカス!」
「はっ、すげぇ罵詈雑言」
持っていたプリントで泉に殴り掛かるが、もちろん風を受けてペラペラするだけで、何もならない。
泉は笑いながらプリントを払いのけて。
「そうかそうか、お前は怒んのか」
「知るか!」
(俺のドキドキを返せ!)




