あと19日/記念写真
花束に抱えられた神楽が、花の間から顔を出す。
「あ、先生いた」
「おう、卒業おめでとう。すげぇことになってんな」
「ありがと! なんか皆、花ばっかりくれんだよね。……はい、これ、先生に」
神楽から渡されたのは、一枚の色紙だ。
「バレー部3年からの寄せ書きな」
「なに、お前らそういう可愛いことすんの」
何の装飾もない色紙には、部員一人一人から個性豊かなメッセージが書かれていた。
「つーかお前、『ありがとうございました』だけじゃねぇか」
「……今更、何書いていいかわかんなかったんだよ」
「愛の告白でも書いとけよ」
「なんで自ら公開処刑されなきゃなんねぇんだよ」
最後の日まで相変わらずな神楽の頭をぺしっと叩けば、はらはらと花弁が舞い落ちた。
「そういう可愛くねぇお前に、プレゼントだ。スマホ寄越せ」
「……え、なにそれ、怖ぇんだけど」
神楽は訝しげにしながらも、素直にスマートフォンをズボンのポケットから取り出して、泉に手渡す。
「ロックは外したな?」と、ホーム画面になっているそれを操作して、電話番号を入力した。
スーツのポケットが振動したのを確認してから、通話になる前に電話を切る。
「履歴ついただろ。ちゃんと登録しとけよ」
「え、それ……!」
「あと、近いうちにお前のご両親に挨拶に行くからな。予定わかったらここに連絡しろよ」
「──は? あ? え、ええ??」
神楽は、泉の連絡先が残ったスマートフォンを大事そうに抱えた。
だが、告げられた内容を消化しきれずに混乱している様子。
「あー、泉先生だー!」
「ちっ、見つかったか……」
そうこうしているうちに、少し遠くで、卒業生の女子生徒がこちらを指差しているのが見えた。
「せんせー! 一緒に写真撮ってー!」
「私も!」
わらわらと集まり始めて、さすがに今日ばかりは逃げられないと悟る。
「……あ、待って。俺が先に撮っていい?」
珍しく、神楽が声を上げた。
女子生徒の一人が「いいよ! 撮ってあげるね!」と神楽のスマホを受け取っている。
「俺の許可は聞かねぇのか……」
「いいから、先生、撮るぞ!」
「……はーい! さーん、にー、いー……あ」
次の瞬間、どこで見ていたのか、「俺たちも入れろー!」という声と共に、男子バレーボール部の集団がどっと押し寄せてきた。
「っ!!!」
花の香りに混じる、甘い匂い。
部員の愛を受けて押し出された神楽を、花ごと両手で受け止めたところで、シャッターの音が響き渡った。
この時に撮られた写真は、プリントアウトされて泉の部屋に飾られることになるのだが。
それはまだ、先の話だ。
(逃げる隙を与えるつもりはねぇからな)




