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〇〇日後に番になる泉先生(α)と神楽くん(Ω)  作者: 最上ふう。


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14/20

あと64日/空席

 共通テストを明日に控えた受験生たちは、ホームルームが終わると皆さっさと帰宅してしまった。

 先週には既に、専門学校の簡単な筆記試験と形だけの面接を終えていた神楽は、何となく、誰もいなくなった教室に居残っている。


「……」


 自分の席ではない机に座って、西日が射しこむ窓から学校のグラウンドを眺めた。


「──神楽?」


 振り返れば、開け放しの出入り口から、頭を屈めた泉が覗き込んでいる。


「なに黄昏てんだ」

「なんとなく」

「もう部活もねぇんだし、暗くなる前に帰れ」

「……うん」


 神楽は座っている机を見下ろした。


「──ここさ、篠原の席なんだよね」

「ああ……篠原か」

「あれから学校来てねぇけど、退学になんのかな」

「……どうだろうな。今はリモート授業受けさせてる体(てい)になってんじゃねぇか?」

「どうせもうすぐ自由登校になるもんな」


 床の軋む音と、神楽を惹きつけてやまない香り。

 視線を向けなくても、泉が近づいているのがわかる。


「先生は、こうなるってわかってた?」


 少しの沈黙の後、泉は「あー、まぁ、少しはな」と答えた。


「──俺さ、ずっと、不安で」


 神楽は視線を伏せたまま、訥々と話し始める。


「個人的な電話番号とか、メールとか、LINEとか、SNSとか、そういうの一切知らねぇし、どこ住んでんのかとかも知らなくて……」

「……」

「会えんのは学校だけで、でも部活ももうねぇし、授業とかぐらいしか接点もねぇし」


 沈黙する泉に、一方的に話し続ける。


「でもさ、それ、証拠を残せないからなんだろ、って、最近思うようになって」


 今も、泉は1メートルほど手前で足を止めていた。

 以前よりも、少し開いた距離で。


「『あの時』のことだって、下手すれば俺も、篠原みたいになってたかもしれない、から……」


 もっと親密になってしまっていたら。

 泉が理性で食い止めてくれなかったら。

 取り返しのつかない事態に陥っていたのは、たぶん神楽だ。


「俺、先生に守られてたんだなぁって、気付いたっつーか……」


「……そこまで立派なモンじゃねぇけどな」


 泉は、はぁ、と、息を吐き出した。


「大人になったねぇ、神楽くん」

「そこ茶化すとこじゃねぇだろ」

「わりと本気でそう思ってんだが」


 神楽は片足を引き寄せて両手で支え、そこに顔を伏せた。


「……──篠原、幸せになれっかなぁ……」


 相手のαの生徒と。

 どうかこれが望まない番の契りでなければいい。


「優しいな、神楽は」


 ポンポンと頭を撫でられて鼓動が早まる。

 すぐに離れていく温もりを追い掛けたいけれど、ぐっと堪えて。

 唇を噛みしめた。


(それは先生の方だよ)




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