第8話(最終話) 帰還
進化の塔の最深部。
鼓動が止まる。
ドクン……
…………
静寂。
さっきまで脈打っていた“それ”が、完全に沈黙する。
光が、ゆっくりと収束していく。
暴れていたエネルギーが、
一点へと吸い込まれるように。
そして何もなくなる。
ただの“空間”だけが残る。
慎吾は動けない。
その場に立ったまま。
何も考えられない。
何も感じられない。
「……美和……」
声だけが、遅れて出る。
返事は、ない。
もう、どこにもいない。
彩花も、ただ立ち尽くしている。
理屈も、言葉も。
何も意味を持たない。
その時。
スゥ……
老婆の姿が、揺らぐ。
輪郭が崩れる。
光に溶けるように。
消えていく。
最後に。
かすかに微笑む。
「……よくやった」
誰に向けた言葉かは分からない。
だが。
それを残して――消えた。
完全に。
役目を終えた者のように。
次の瞬間。
空間が裂ける。
ビキッ――
空気が割れる音。
黒い亀裂。
そこから。
“外”が覗く。
強烈な光。
引力。
「……っ!?」
慎吾の体が引き寄せられる。
彩花も。
抵抗できない。
「待て……!!」
何に向かってかも分からない叫び。
伸ばした手は、何も掴めない。
そのまま。
二人は、引き込まれる。
光の中へ。
◇◇◇ ◇◇◇
白
視界いっぱいの白。
「……っ」
意識が戻る。
天井。
蛍光灯。
機械音。
ピッ……ピッ……
慎吾が目を開ける。
「……ここ……」
動こうとする。
体が重い。
横を見る。
ベッドの上。
隣のベットには彩花がいる。
同じように、目を覚ます。
「……慎吾……?」
声が震えている。
その時。
テレビの音が耳に入る。
ニュース。
「――飛行機事故から奇跡的に生存した日本人二名が――」
言葉が、現実を突きつける。
看護師の声。
廊下の足音。
日常の音。
すべてが“普通”。
慎吾は、ゆっくりと起き上がる。
窓へ歩く。
カーテンを開ける。
青い空と雲、ビルと車。
大勢の人々。
何もかもが普通だ。
あの悪魔の島の出来事が嘘だったかのように。
だが
慎吾の目が細くなる。
「……聞こえる」
小さく。確かに。
あの声。あの“呼びかけ”。
どこからか
まだ続いている。
彩花が、ベッドの上で震える。
「……終わってない……」
その一言が、すべてだった。
慎吾の手の中。
無意識に握られているもの。
紙。
あの悪魔の島で拾った“メモ”。
ゆっくりと、開く。
そこに書かれている文字。
乱れた英語。
震えた筆跡。
"The next tower already exists... waiting."
(次の塔はすでに存在している……待っている)
だが、読める。
はっきりと次の塔は、すでに存在する・・
沈黙。
窓の外。
遠く空の向こう。
一瞬だけ。
進化の塔の光が“脈打った”。
■生存者 2名 慎吾 彩花
犠牲者 美和(封印そのもの)
行方不明者 ハンナ
悪魔の島 ―選ばれし20人、生存率0%
=完=
慎吾、静かに呟く。
「……行くしかねえだろ」




