第1話 墜落の悪魔の島
ゴオオオオ……
穏やかなエンジン音。
青い空。
どこまでも続く海。
「うわ、めっちゃ綺麗!」
拓海が窓に顔を押しつける。
「な?来て正解だろ!」
直人が笑う。
美和も身を乗り出す。
「ね、慎吾!あれ見て、海が光ってる!」
「ほんとだな」
慎吾は少しだけ笑った。
恵が小さく呟く。
「……みんなで来れてよかった」
美和が肩に手を置く。
「大丈夫だよ、最高の思い出になるって」
その空気を切り裂くように。
別の席から、英語が聞こえる。
「Beautiful view, huh?」
(綺麗な景色だな)
ダニエルが窓を指す。
「Sí, perfecto.」
(ああ、完璧だ)
マルコが短く答える。
「Incroyable…」
(信じられないくらい綺麗)
エリーナが写真を撮る。
「Magnifico!」
(素晴らしい!)
アントニオが笑う。
様々な言語が、混ざり合う。
英語、スペイン語、フランス語、イタリア語。
意味は分からなくても――
楽しそうなのは伝わる。
慎吾が小さく言う。
「なんか、海外って感じだな」
彩花が頷く。
「でも、言葉通じないと大変そう」
その時。
ナディアの端末が、微かにノイズを発した。
「……あれ?」
彩花が窓を見る。
白い霧。
さっきまで晴れていた空が、一瞬で染まる。
「え、なにこれ?」
拓海が笑う。
「演出じゃね?」
だが。
マルコが顔をしかめる。
「…No. This is wrong.」
(違う、これはおかしい)
ナディアが焦る。
「Signal… unstable…」(通信が不安定…)
リディアが周囲を見る。
「Something’s wrong.」(何かがおかしい)
恵が震える。
「……やだ……なんか……怖い……」
その時。
オスカーが立ち上がる。
「Look… look outside…!」(外を見てくれ…!)
それ ―見てはいけないもの
霧の奥。
ほんの一瞬。
見えた。
巨大な塔。
空を貫く、異様な細い影。
「……なに……あれ……」
美和が呟く。
レベッカが目を見開く。
「That’s not natural…」(自然物じゃない…)
次の瞬間。
ピ――――――ッ!!!
警報。
機体が激しく揺れる。
ピ――――――ッ!!
ピ――――――ッ!!
ピ――――――ッ!!
機内に警告音が鳴り響く。
赤いランプが点滅する。
「なに!?なにこれ!?」
「What’s happening!?」
「¡¿Qué está pasando?!」
機体が揺れる。
ガクンッ!!
上から、ガコンッという音。
バサバサバサッ!!
酸素マスクが一斉に落ちてくる。
「うわああああ!!」
「マスクを付けてください!!」
乗務員の叫び。
だが、その声はすぐにかき消される。
機体がさらに傾く。
荷物が落ちる。
人が倒れる。
「Put it on!! Put it on!!」(それを付けろ!!)
「Ayuda!! ¡Ayuda!!」(助けて!!)
「Mon Dieu… mon Dieu…」(神よ……)
誰かが祈り始める。
「God, please…」(神様……お願いだ……)
「Dios mío…」(神様……)
「助けて……助けて……」
恵が泣き崩れる。
「……怖いよ……怖いよ……!!」
美和も震える。
「慎吾……どうしよう……」
慎吾は叫ぶ。
「マスクつけろ!!息しろ!!」
手が震える。
マスクがうまく装着できない。
機体が急降下する。
ドンッ!!
誰かが天井に叩きつけられる。
「Ahhhhhhhhh!!」
「Nooooo!!」
赤い光。
白い霧。
混ざる視界。
ナディアの声が震える。
「Altitude dropping!!」(高度が落ちてる!!)
ダニエルが叫ぶ。
「We’re going down!!」(墜ちるぞ!!)
マルコが怒鳴る。
「Brace!! Brace!!」(衝撃に備えろ!!)
誰かが叫ぶ。
「I don’t want to die!!」(死にたくない!!)
アントニオが十字を切る。
「Dio… salvaci…」(神よ……救いたまえ……)
リディアが呟く。
「This isn’t normal…」(これは普通じゃない……)
その時。
機内の一瞬の隙間から。
見えた。
塔。
さっきより近い。
ありえない距離。
そして。
その足元。
黒い何かが、蠢く。
ドクン。
美和が、息を呑む。
「……呼んでる……」
慎吾が振り向く。
「何言って――」
機体が、ねじれる。
バキィィィッ!!!
金属が裂ける音。
空気が抜ける。
ゴオオオオオオオ!!!!
「きゃあああああ!!」
人が吸い出される。
シートベルトに縛られ、宙に浮く。
慎吾が手を伸ばす。
「美和!!」
美和も伸ばす。
指先が、触れる。
掴む。
その瞬間。
全てが、スローモーションになる。
泣き叫ぶ人。
祈る人。
叫ぶ人。
目を閉じる人。
そして。
塔。
まるで
見ている。
ドクン。
次の瞬間。
ドンッッッッッ!!!
衝撃。
光。
音。
世界が、砕けた。
それは事故じゃない。
“選ばれた墜落”。
そして
この20人は島から逃げられない。
つづく




