第1話 直人・慎吾編、分断の果て
悪魔の島の森の奥。
湿った空気。
腐敗の匂い。
慎吾が、足を止めた。
「……ここ」
視界の先。
地面が獣の足跡によって荒れている。
踏み荒らされた草。
抉れた土。
折れた木。
そして。
おびただしい血。
乾ききった黒い染みが、いくつも点在している。
彩花がしゃがみ込む。
「……これ、複数人分」
指で土をなぞる。
「引きずられた跡もある……逃げ切れてない」
美和が小さく震える。
「……やだ……」
さらに奥へ進む。
そこには壊れた装備。
破れたバッグ。
割れた機材。
散乱した記録ノート。
彩花が拾う。
ページは途中で終わっている。
「……記録が途切れてる」
慎吾が低く言う。
「襲われたんだ」
沈黙。
誰も否定しない。
そして、もう一つ。
倒れている“それ”。
人の形をしているがもう、元の姿はない。
美和が顔を背ける。
「……見たくない……」
慎吾は目を逸らさない。
見なければならないと分かっているから。
「……他にもいる」
周囲。
いくつも。
同じように倒れている。
だが。
彩花が、違和感に気づく。
「……待って」
周囲を見渡す。
数を数える。
「……足りない」
直人が振り向く。
「何がだ」
彩花
「人数よ」
「これ……全員じゃない」
慎吾も気づく。
「……誰か、いない」
美和がぽつりと呟く。
「……あの人……」
直人が眉をひそめる。
「誰だ」
美和
「……大声で私たちに命令してた人……」
空気が変わる。
慎吾が思い出す。
あの男。
冷たい目。
元軍人の統率。
「……マルコさん……」
彩花が断言する。
「ここにいない」
「痕跡も少ない」
直人の目が細くなる。
「……生きてるな」
沈黙。
それは“希望”ではない。
むしろ新たな脅威だった。
風が吹く。
草が揺れる。
だが。
この場所だけが、死んでいる。
直人が前に出る。
迷いなく。
「もういい」
振り返らない。
「理解しただろ」
その声は、冷たい。
「もう“仲間”なんて幻想だ」
美和が顔を上げる。
「そんなこと……」
直人が遮る。
「見ただろ」
「これが現実だ」
沈黙。
彩花も、何も言えない。
論理が、それを否定できないから。
慎吾だけが言う。
「……それでも」
直人を見る。
まっすぐに。
「俺たちは違う」
直人の目がわずかに揺れる。
だが、すぐに消える。
「違わない」
「同じになる」
「ならなきゃ死ぬ」
慎吾は首を振る。
「……それでもだ」
「人間でいる」
空気が張り詰める。
二人の間に。
見えない線が引かれる。
その時。
美和が、震える声で言う。
「……来る……」
全員が反応する。
直人
「どっちだ」
美和は迷わない。
指をさす。
「……あっち……」
風が変わる。
森が、ざわつく。
彩花が立ち上がる。
「……ここ、まずい」
慎吾
「移動だ」
直人はすでに動いている。
「遅れるな」
その場を離れる直前。
慎吾は、一度だけ振り返る。
無人の地。
血の跡。
壊れた痕跡。
そしていない存在。
(マルコ……)
生きているのか。
それとももっと別の何かになったのか。




