58. 番外編 夢の終わり 終わりの夢 ②
初めて日の衝撃を、忘れはしない。
大勢から見れば十把一絡げの少女。しかし僕にとって、彼女は運命の人に思えた。
どうして、とか理由はない。あるのはただ激情のみ。初めて会った時に彼女と結ばれたいと強く、強く思ってしまった。
一目惚れとはこういうことかと、彼女を見た瞬間理解した。
見初めた彼女と接点を持ち、親と義両親を納得させてどうにか婚約に持ち込めた。
まさか彼女が突如原因不明の昏睡状態になるとは思わなかったが……どうにか目覚め快方に向かった。
そして、恋人同士の逢瀬が出来るまでに快復してくれた。
「珈琲……私、初めて飲みました。お茶と結構違うんですね……」
博覧会を見て回った後に入った喫茶店。外国の文化が雪崩のように解禁され一気に文明開化の波が押し寄せた結果出来た異文化の店を桜様はいたく気に入ってくれたようでほっと胸をなでおろす。
「お気に召して下さったようで何よりです」
笑顔でお茶を楽しむ。恋人と過ごす時間。何てことない日常が、どうしてか自分でも分からない程……尊く感じる。
「あの、このお店の名前……〝べるす〟? でしたっけ? どういう意味なんでしょう? 外つ国の言葉ですよね? 私も一応習っているのですが知らない単語で……」
「桜様が知らないのも無理ありません。英国の言葉ではなく、その元となった古い言葉……羅甸語と呼ばれる言語ですからね」
「らてん語……ですか?」
「はい。専門的な書物で使われる言語なのでなじみはありませんが……此処の店主は博識で洒落た言葉で名付けたかったんじゃないでしょうか?」
ちらりと喫茶店の店主に目をやれば素知らぬ顔でカップを拭く店主の姿。しかし少しばかり赤みが差した表情から聞こえている上に図星を指されたんだろうなと察する。
「〝べるす〟はV・e・r・u・sと書きます」
持っていた手帳を開き背に付いている鉛筆で綴りを書いてみせる。
「意味は真実や真を指す言葉ですね」
「あ、それって……」
「はい」
パッと顔に笑顔が咲き誇る。それを見て此方もニッコリと笑い返し、伝える。
「僕の名前――【真】と同じ意味ですね」
………………
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プロスペリタース国の王宮の一角にある庭園。神樹とされる桜の樹。その根元近くに刺さった一本の古び朽ちて所々欠けた黒い剣。
その前に、一人の巫女が音もなく現れる。嘗て〝聖女〟サクラに〝聖騎士〟アルバス、〝勇者〟レイクリウスにユミルの所に現れた少女。
少女はジッと神樹を、そして朽ちた剣を見つめる。
「………………」
一陣の風が吹き、枝に付いていた桜の花弁が舞う。まるで剣に寄り添うかのように剣に降る花弁を眺め、巫女はクスッと笑みを浮かべた。
「そうね。二度目の人生だからと前の生に囚われる必要はないわ。
違う人を好きになっても、逆に同じ人を好きになっても、良いの。
自分が、相手が、幸せなら……きっとそれだけで、良いの」
そっと瞳を閉じる巫女。
「きっと――愛があれば、想いが伝われば大丈夫」
何時の間にか、巫女の姿は消え失せ――桜の花弁が何時までも剣に寄り添うように降っていた。
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