59. 番外編 何処かの未来で
ガラガラと馬車が森の中を掛けていく。
「大丈夫、大丈夫だからね……」
馬車の中に居る女性が必死に泣きじゃくる赤ん坊をあやす。同じ馬車に乗る身なりのいい男性は緊張した面持ちで馬車のなかにあった剣を手に取り窓の外を覗く。
ハァッハァッハァッ!
唸り声をあげてかけて来る狼型の魔物。群れで襲い掛かる魔物の群が刻一刻と馬車との距離を詰めて来る。
「く……!」
歯ぎしりする。邪竜も討伐され、魔物も騎士団討伐によって数が激減し油断していた。護衛も連れてはいたが、此処へ来るまでに反転し魔物へと向かって行きその後は不明。今居るのは自分と妻と御者、そして赤ん坊のみだった。
(せめて、子供と彼女だけは……!)
貴族として産まれ、そして現皇帝の妹君である妻とその子供だけは生かさなくてはならない。貴族として、一人の夫として、男性は覚悟を決める。
その時、
「かかれぇ!」
「っ⁉」
横合いから怒号が放たれる。少女の声。同時に上がる、鬨の咆哮。
『オォオオオオオオオオオ!』
突如横合いの舗装されていない森から、木々の合間をすり抜けて馬に乗った兵士達が魔物の群れの横っ腹を突く。槍に串刺しにされる魔物達。同時に馬車がスピードを緩める。
「どうどう……!」
後方から前方へと顔を向ければ、兵士達が手で指示しているのが見えた。それに従い速度を落として兵士達が集まるど真ん中に馬車が停まる。
「御無事ですか?」
背後から声をかけられ振り返る男性。そこには穏やかな笑みを浮かべた青年とよく知る神官服の女性。
「どうやら間に合ったようじゃの。無事そうで何よりじゃ」
カラカラと笑う女性に目が点になり、漸く二人の正体が分かり叫ぶ。
「せ、〝聖騎士〟アルバス様に〝聖女〟サクラ様‼」
◇ ◇ ◇
「終わったみたいだな。護衛も無事みたいだ」
レイクリウスの報告にサクラが「うむ」と頷く。
「魔物の群れは撃破。要人に怪我は無し。護衛も軽傷で生還……申し分ない働き、皆見事じゃ」
サクラの言葉に連れて来た兵士一同が首を垂れる。
「サクラ様。移動及び護衛の準備整ったとのことです。先方に受け入れ準備の伝令も出立しました」
「うむ、結構」
ユミルの報告に首肯するサクラ。そこに、
「ありがとうございます、サクラ王女殿下。まさか殿下に助けに来て頂けるなんて思ってもみませんでした」
魔物に追われていた貴族の男性が感謝を述べる。
「なあに気になさらず。親族を助けるのは当たり前のことなので」
クスッと笑うサクラ。そこにオギャア! オギャア! と赤ん坊の泣き声が響く。
「よしよし。頑張ったね。いい子いい子」
赤ん坊を抱いてあやすアルバス。開けっ放しの馬車の椅子に腰かけ赤ん坊を慈愛の表情で見つめている。傍には赤ん坊の母親にして王族から降嫁した女性が微笑み見つめている。
「「「………………」」」
赤ん坊をあやすアルバスをサクラ、レイクリウス、ユミルが微笑を浮かべそっとしておく。
(良かったの……)
サクラは心中で安堵の息を吐く。記憶が朧気で細かい日付を覚えていなかったが……どうにか無事にこの日をやり過ごせたようだ。
躊躇い……意を決して自分も馬車に向かう。
「あ、サクラ様」
「サクラ……よく来てくれたわね。ありがとう、おかげで助かったわ」
頭を下げる女性にサクラは首を横に振って笑いかける。
「いいえ。ちょうど近くに仕事で来ていたので。魔物に追われているようだったので急ぎ駆けつけましたが……間に合ったようで何よりです」
何時もの癖の老人口調から一転、年相応の言葉遣いになるサクラ。
「サクラ様も、抱いて上げて下さい」
「え……ぁ……」
アルバスの提案。一瞬戸惑い、しかし女性が「貴女も」と頷き……恐る恐るサクラも赤ん坊を抱っこする。
「~~~♪」
言葉にならない喃語を上げる赤ん坊。サクラは腕の中で抱き……微笑みかけ、そっと額に口付けする。
「うん……頑張った、頑張ったの。もう大丈夫じゃ」
二重の意味の『大丈夫』。あやし、抱きしめ……そっと母親に返す。
「もうすぐ出立します。旦那様と一緒にこの馬車に乗っていて下さい。一緒に街まで向かいますので」
「ええ、ありがとう」
「そろそろ、向かうようです。サクラ様、ご準備を」
言葉と共に男性貴族が馬車に乗り込む。扉を閉める前に再度頭を下げる。
「この度は本当に助けに来て頂きありがとうございます。まさか〝聖女〟であるサクラ様に加え、〝勇者〟レイクリウス様に〝聖騎士〟アルバス様まで来て頂けるなんて……」
「お気に、なさらず。無事で何よりです」
サクラは微笑み言葉を返し、馬車の扉を閉める。
「皆の者、出立する!」
サクラの号令の下ゆるゆると騎馬兵が動く。サクラもまた用意された馬車へと乗り込む。
ふとサクラの馬車の護衛に就くアルバスが赤ん坊を乗せた馬車を見ながら一言……たった一言、呟いた。
「お父さんもお母さんも、無事で良かったね――エアフィム」
言葉は風と共に流れていく。アルバスは微笑み、一瞬瞳を閉じると……司令官の表情となり指令を下す。
「サクラ様と護衛対象の馬車を中心に、進軍開始!」
『オォオオオオオオオオオ‼』
森の中に鬨が響く。移動を再開する軍勢。
その中――馬に乗るレイクリウスとサクラと同じ馬車に乗るユミルはそっと顔を見合わせ……互いに微笑み合った。
そして、
(頑張るからね、エアフィム)
心中でそっと嘗ての息子に誓いを立て……アルバスは馬で駆けていく。遥かな未来へ向けて。
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