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55. ループ編 完 二度目は別の幸せを

 王宮の中庭は大きく、森と言っても差し支えないほどの広さがある。

 その中庭の一角に、ユミルとレイクリウスは居た。二人の前には名前の無い墓石。その下には当然骨等埋まってはいない。

 居ないものの為の墓石。


「これで、良いか?」

「はい」


 頷き合う二人。それは二人の間に生まれる筈だった子共の墓。前の世界で産まれて来てくれた命。その墓だった。


「「………………」」



 無言で墓を見つめる二人。やがて二人は視線を互いに向ける。


「レイクリウス様」

「うん」

「私……前の世界では、ずっとずっと幸せでした。レイクリウス様に愛されて、アルバスから婚約破棄された私のこと、ずっと気にかけてくれて……」

「うん」

「……でも、私決めました」

 

 風がなびく。二人の間を通り抜ける。あえて愛称のレイと呼ばず依然と同じ様付で呼ぶ。その真意。


「私……今回は、レイクリウス様と一緒にはなれません」

「……うん、分かってる」


 頷くレイクリウス。それはレイクリウスもまた同じ。


「アルバスを見て、それでサクラの真意を知って……前と同じ選択は俺にも出来ないよ」


 笑い合う二人。嫌いになった訳ではない。未だ好き合ってすらいる。だけど。




「貴方に愛されて、私は幸せでした。だけど……二度目の人生は、別の幸せを選びたいと思います」


 


 ユミルの声が木霊する。


「そうだな。折角の二度目の人生だ。別の心残り、未練に後悔したことをやってみても、いいだろう」

「はい!」


 二人は笑い合う。心から、満面の笑みで。




   ◇   ◇   ◇




 王宮の中庭。そこに建てられた東屋。そこにソワソワとあっちこっちへ動き回る落ち着きがないアルバスの姿があった。


「やれやれ。ユミルが心配かね、アルバス?」

「し、心配は心配です。だって、だって……」


 おろおろと狼狽するアルバスを見てカラカラと笑って椅子に腰かけテーブルに書類を置いて仕事するサクラ。


「ここまで愛されている、ユミル嬢に嫉妬するねえ」

「さ、サクラ様……」


 からかわれて顔を真っ赤にするアルバス。そこに、


「只今戻りました」「帰ったぞ」


 ユミルとレイクリウスが帰ってくる。


「お、お、お、お帰り……」

「なんでどもってるの」


 笑うユミル。本人は何も気にした様子もなく椅子に座りサクラの書類仕事を手伝う。


「あ、の……ユミル……その……」

「レイクリウス様とは別れたわ」


 言い切るユミル。


「い、いいいいい、良いの?」

「いいのよ」


 動揺するアルバスに頷き返すユミル。


「で、でも……子供、とか……」

「……アルバスって、敢えて地雷原に突っ込む時あるよね」


 溜息を吐くユミル。


「いいの。レイクリウス様との間に子供が出来なくなるけど、だからってそれで二度目の人生同じ人と結ばれないといけないって訳じゃないでしょう? 別の生き方をしてみても、いいと……そう思ったの」

「ユミル……」

「アルバスはどうなの?」

「え?」

「私と、今度は一緒になってくれるのかしら?」


 うっと怯むアルバス。サクラとレイクリウスの前なのが緊張に拍車をかける。

 だが、


「~~~~~~っユミル!」

「はい」

「ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、僕と……今度こそ、結婚して、下さい!」


 顔を真っ赤にしての、サクラとレイクリウスが見ているまでのまさかの告白。それに「おお」とあの奥手のアルバスが自分達の前で言いきるとは、と感動するサクラとレイクリウス。

 そして、





「ふふ……はい。いいよ」


 



 笑って軽く了承するユミル。


「というか、婚約指輪、もらったままだしね」


 そう言ってアルバスから渡された指輪を付けた指を見せるユミル。


「~~~~~~~~/////////////////////」

 

 人前で告白という恥ずかしい真似をして赤面しキャパオーバーになるアルバス。そんな二人を見て笑うサクラとレイクリウス。

 クスッと笑って書類に目を通し……ふっとあることに気付いて微笑むユミル。


「私、役人になりたいって夢を持ってた。だけど……平民だし、女だしで諦めてた。

 なのに……今夢だった役人になれたのね。ちょっと不思議」

「……そういえば、そうだね」


 クスッと笑い合う二人。そんなユミル達の姿を見て、良かったと思えるサクラとレイクリウス。


「良かったな、ユミル」

「そうじゃの……」


 ふとレイクリウスの方を見て笑うサクラ。

 寂しくない訳じゃない、だけど……それでも、この二人がくっついて、良かったと思える。


「そう言えば」


 ふとレイクリウスが声を上げる。


「なんじゃ?」

「いや……結局俺達を過去に巻き戻したのって……誰だったんだ?」

「……それについては分からん。人かどうかもな。じゃが……一つ仮説はある」


 そっとサクラは自分の首からかけた聖印を触る。


「私が信仰する夢見神ソーニャ神。かつて異世界より聖女を召喚したという。

 ならば……我々を、過去の世界に戻すのも、出来る……かもしれん」

「っそんなことが……⁉」

「仮説にすぎないが、な」


 笑うサクラ。だがそれ以外に出来る存在など思いつかない。


(ま、私は私で別の用事があるしの)

「さて、縁談の目録に目を通すか」

「縁談……縁談⁉ これ全部か⁉」


 ぎょっと顔色を変えるレイクリウス。視線の先には山と積まれた書類の数々。


「そうじゃ。『王位十戒』を持ち出しても、政略結婚したいという輩が後を絶たないのでのう」

「ふぁー……王女ってのは分かっていたが大変だな」

「そうじゃのお。どこぞの勇者が御伽噺宜しく貰ってくれるのを期待しておるのにのう」

「ふーん………………へ?」


 クスッと笑うサクラ、驚くレイクリウス。横ではユミルが笑ってアルバスをからかい、アルバスが顔を真っ赤にする。

 誰かの為に犠牲になるのではなく、助け合おうとした四人。

 四人の物語もまた連なり続ける。

 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 




 〝聖女〟にして〝国母〟と謳われたサクラ=プロスペリタース。

 彼女の死後、夫〝聖騎士〟アルバス及び〝勇者〟レイクリウスの抜粋された日記が公開。これはサクラの遺言であったとされる。

 その日記から〝聖騎士〟に〝勇者〟〝聖女〟にいかに依存していたかを国民は思い知らされる。

 サクラの死後玉座に就いたアルバスとの養子はサクラの政治を受け継ぎ、英雄に依存するプロスペリタース国の在り方を親子三代によって見事変え、意識改革に成功したとされる。

 日記公開後、国民たちは夢見神ソーニョに〝勇者〟レイクリウスの伴侶ユミルも含めた四人の冥福を祈ったとされる。


 どうか彼女等四人に救いあれ。

 どうか彼女等四人に奇跡を与え給え。

 どうか、どうか彼女等四人に二度目の人生あれ。



 

 夢見神ソーニョは国民達の願いを聞き入れ、〝もしも〟の世界を夢見たと実しやかに言い伝えられている。

 お読み頂き、ありがとうございました。本編完結しましたが、番外編も幾つか投稿するつもりです。

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