54. 断章 遺された者達 完
ユーテル → ユミルとレイクリウスの子供
エアフィム → アルバスとサクラの養子
閉館時間を過ぎた上で更に長時間教会に居た為すっかり辺りは暗くなっていた。
夜の帳は下り、空に輝く満点の星々。街灯が灯され、行き交う人々も来た時の親子連れから一人や恋人同士へと様変わりしている。
「……少し歩きましょうか」
エアフィムがそう言ってリードし、その後をユーテルが続く。
あてもなく街を歩く二人。吹きすさぶ風が寒いながらも少々心地良くもある。
「「………………」」
無言で歩く二人。何を話すべきか、どう切り出すべきか、思案し合う。
「何……だったんでしょうね……さっきの」
最初に話しかけたのは、エアフィム。先の教会での謎の光を話題にする。
「奇麗……でしたね」
「見た感じ、魔力の残滓のようだったのでそれだけで何か健康に影響とかはないはずですが……」
他愛ない話で間を繋ぐ二人。
「エアフィム様、今日はありがとうございました。首都に招いてもらえて、おまけに教会に閉館後に入らせて貰えて。おかげでゆっくりと回ることが出来ました」
「いえ、そんな……こちらこそ。レイクリウス様とユミル様のことを知れてよかったです」
二人して顔を見合わせ、ふっと笑い合う。
「……此処に来る前、色々と頭がぐるぐるしていたんです。アルバス様の嘆き、母との婚約破棄、父の勇者という肩書への葛藤。
私は、見て知っているだけで……当事者じゃないので理解し切っている訳じゃないんですが……それでも、堂々巡りでも考え込んでしまって」
アルバスが何故ユミルと婚約破棄したのか、いやしなければいけなかったのか。ユミルの後悔、レイクリウスの葛藤、アルバスの未練、サクラの願い。
単純、には出来ていない四人とこの国を巻き込んだ関係性。心のまま、願いのままに歩いて行けなかった四人の苦悩の人生。
だけど。
「でも、今日此処に来て色々と知って……良かったと思います」
ユミルとレイクリウスの子、ユーテルは胸を張って言う。
「英雄だな、と」
「英雄……ですか?」
ユーテルの何処か嬉しそうな声にエアフィムが小首を傾げる。
「自分の幸せよりも誰かの為に戦う。誰かの為にその身を犠牲にしてくれる。自分ではない名も知らない誰かの為に、それでも在ろうとしてくれる。
英雄と呼ばれる人の生き様を知ることが出来て、良かったです」
〝聖騎士〟アルバス、〝聖女〟サクラ、そして〝勇者〟レイクリウス。三人の生き様とその人生の選択を思い、ふっと笑う。
〝勇者〟であることを辞めた父。父の代わりに〝聖騎士〟と祀り上げられた母の元婚約者アルバス。その初めから終わりまで〝聖女〟として生涯を終えたサクラ。そして――複雑に絡み合ったこの国の情勢に翻弄された母ユミル。
「何が正しい、何が間違っている。一概に決めることは出来ない。その歩いた人生を知って後出しでならいくらでも言うことは出来る。でも……そんなの何の意味はない。
悩んで、迷って、それで選んだいった結果が歴史の積み重ねなんだな、と。今日此処に来て……そう感じました」
「……父も、似たようなことを生前仰っていました」
ユーテルの言葉にエアフィムも追随する。
「『他人の人生についていくらでも言うことは出来る。何故なら後出しでましてや当事者でもないから、何のしがらみもなく言えるからだ。
でも、人生とはそう簡単なものではない。正しい、間違っていると数字や結果だけで全てを判断出来ない。
悩み抜き、迷った末の選択肢だからこそ当事者は納得出来るし、悩み抜いた末の答えだからこそ間違いではないと胸を張って歩いて行ける。
後出しの、それも当事者でもない他人の言葉は参考にしかならない』って」
「悩み抜いた……そうですね」
そっと目を閉じるユーテル。愛しているのに、別れることを選んだ〝聖騎士〟アルバス。父レイクリウスに恨みごとの一つも言って良いのに、何一つ話さず事実や本音に蓋をして、誰にも話すことなく全て隠し貫き通すことを選んだ英雄。
他人から見て、あの人の人生はどう見えるのだろうか?
哀れに見えるだろうか? それとも不義理だと責められるだろうか?
ただ、ユーテルが思うことはただ一つ。
「もしも――もしも〝次〟があるのなら、全ての真実と心を明かしてどうするか、決めて欲しいな、って。今日此処に来てそう思いました」
晴れやかなユーテルの言葉。母ユミルと元〝勇者〟レイクリウスの娘という複雑な身の上のユーテルだが、胸のつっかえが取れたように……スッキリとしていた。
「……そう思って頂けるなら、今日招待した甲斐があるというものです」
それにアルバスとサクラの養子であるエアフィムも微笑み返す。
「せっかくですし、どうです? 今日この後ご一緒に食事でも?」
「食事、ですか? いいですね」
クスッと笑いかけるユーテル。そこでふと思いつき……成り行きに任せて問いかける。
「あの、なら食事しながら……官吏になる試験について教えて貰えませんか?」
「官吏の試験……ですか?」
「はい。私の母が元々役人になりたがって……でも平民で女なので諦めたと生前言ってて。でもサクラ様とアルバス様が改革を推し進めて、今では平民の女性でも官吏になることが出来るって教わって」
アルバスとサクラ。二人の改革により女性の仕事の斡旋も多くなり、社会進出が増えて行った。官吏すなわち役人登用の試験も、従来ならば貴族又は平民の中でも成績優秀者な男性しかなれなかったが、改革のおかげで女性の平民も今までと違い平等に受けられるようになった。
「お母上の、無念を?」
「んー……別にそういう訳じゃないです」
エアフィムの問いにしかしユーテルは笑って否定する。
「これは、私の意思ですから」
「……そうですか」
何の気負いもなく軽く言葉にするユーテル。それが真実だと理解し、微笑むエアフィム。
「では、食事しながら色々とお教えしましょう。嫌いなものはありますか? お勧めのレストランがあって……」
二人は笑い合いながら歩いて行く。
そっと手と手が繋がる。触れ合い、そして握りしめ合い……連れだって街の中を進む。
そうして――自分達の両親や過去に囚われることなく、未来に向かい、一歩一歩着実に歩いて行った。
次回、完結予定。 明日は10時ごろ投稿を予定しています。
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