51. ループ編 ⑫ 断罪の時 ※ざまあ注意
※所謂「ざまぁ」のお話になります。苦手な方はご注意ください。
「はぁ……はぁ……!」
荒い息で貴族の男性は屋敷の自室で椅子にもたれ掛かっていた。
悪徳貴族代表のデップル。罪が暴かれそこから芋づる式に犯罪が暴かれ自分まで被害を被るのを防ぐ為に口封じをしに行ったまでは良かったが――とんだ目に遭った。魔物がいきなり現れた上に死にぞこないのデップルが最後の抵抗で道ずれにしようと足掻いてきた。
おかげで男性は身体に深い負傷を受け――その痛みに必死に耐えなければいけなくなった。
「デップルめ……」
怨嗟の声を上げる。
だが――奴の抵抗も此処までだ。
体中に包帯が巻かれた男性は、その痛みに耐えながらクツクツ嗤う。
どうにか、此処まで来た。墓穴を掘った挙句洗いざらい今までの悪事を吐かれたら此方にまでとばっちりが来てしまうデップルは始末した。後はほとぼりが冷めるまで待てばいい。調査・捜査する輩を買収すればより安心だろう。
――しかし。
(くそ……この私が……こんな目に……!)
包帯が巻かれ薬も塗られた傷が痛み、歯ぎしりする。貴族として今まで怪我等しない極上の生活を送って来た。それだけに、デップルのあの馬鹿みたいな最後の抵抗でしなくてもいい傷を受けてしまったのが余計に癪に障る。
(目ざわりな奴等め……!)
脳裏にデップル――それと三人の〝英雄〟の姿が過る。
(あいつらが余計なことをしなければ……!)
憤り、劇情に駆られ……しかし深呼吸して怒りを鎮める。そう、デップルは始末した。後はほとぼりが冷めるまで耐えればいい。
そう、そうすれば――全て元通りなのだ。
貴族の男性がうんと一つ頷く。と、
「だ、旦那様ぁ⁉」
突如悲鳴と聞き間違うような声を上げて使用人が扉を破る勢いで開けて来る。
「っ何事だ⁉」
不愉快気に声を荒げる貴族の男性。しかし――齎された言葉は、予想だにしないものだった。
「お、お、お……王宮から、兵士が⁉」
「っ⁉」
◇ ◇ ◇
「――以上の証拠・証人から貴殿の資産を凍結、身柄を王宮に拘束させて頂きます」
「な……!?」
王宮からやって来た女の使者の宣告に、貴族の男性は愕然とする。しかし、すぐに我を取り戻して反論する。
「わ、私は何もしていないぞ⁉ そんな、そんな証拠や証人等捏造だ⁉」
デップルは消した。故に証言は取れないはず――そう思っていた。が、
「……デップル伯爵の屋敷から押収した物の中に、貴殿の犯罪が書かれた書類がありました。
また、他の犯罪の証拠となる書類に書かれた人物を捕らえ、その証言により芋づる式に貴方まで辿り着きました。
言い訳は王宮でお願いします」
粛々と告げる女の使者の発言により、膝から崩れ落ちる貴族の男性。
「そん、な……」
「屋敷を始め、貴方の資産は全て差し押さえさせて頂きます」
女の使者の無慈悲な通告。それに拳を握り締め――
「……つ等が、悪いんだ」
「はい?」
「――あいつ等が、悪いんだ⁉」
――あらん限りの叫びを上げる。
「っデップルめ! 自分の器も分からず、玉座なんぞ欲しやがって⁉ 今まで通り馬鹿貴族として贅沢貴族生活して勝手に自滅していればよかったものを⁉」
ガン、と自分の屋敷のカーペットの敷かれた床を力の限り叩きつける。
「あいつが、あいつが馬鹿な野望を持ったせいでこっちにまでとばっちりを受けたじゃないか⁉
おまけになんだ⁉ 勝手に国を捨てた〝勇者〟のレイクリウスまで戻って来て⁉ なんで、なんで……⁉
分かっていたら、戻って来ると知っていれば……そうすれば……!」
「――戻って来るのが分かっていたら、〝聖騎士〟アルバスの婚約者に刺客を送って殺そうとなんかしなかったのに?」
女の使者の言葉にぎょっと顔を上げる貴族の男性。
「な……!」
「貴方には、その件に関しての嫌疑もあります。〝勇者〟であるレイがその座から退こうとしたために〝聖騎士〟アルバスを代わりに頼ろうとし、その為に邪魔な婚約者を亡き者にしようとした」
言い終えた女の使者ははぁーっと溜息を吐いて憐みの表情を男に向ける。
「よくもまあ……そこまで他人頼りに生きられるものですね。逆に感心します。これじゃ、サクラ様が大鉈を振るったのも分かります」
「っ小娘が何を言うか⁉」
吠える貴族に女の使者は淡々と返す。
「何時まで、英雄に頼り切りになるんですか? サクラ様もレイも、貴方の親ではありません。
自分の力で、足で、立って歩くんです。貴方だけではなく、この国は。変わり、成長する時が来たんです。
英雄に頼り切ったせいで、今この瞬間を迎えたんです。自業自得と心得て下さい」
「貴様――! 一体何様だ⁉」
「……まだ、気付かないんですか?」
そっと女の使者は男に近寄り、耳元で囁く。
「せめて――殺そうと刺客を送った相手の顔くらいは知っておくべきでしたね」
「っ⁉」
ぎょっと男は顔色を変える。
(まさか、まさか……こいつは⁉)
「お前……まさか……そん、な……」
呆然とする貴族の男に、女は嗤って返す。
「はい――私が貴方が殺そうとした〝聖騎士〟アルバスの婚約者、ユミル=ポートレムです」
ニッコリと女の使者――ユミルは満面の笑みを向ける。
「――――――っ⁉」
声なき悲鳴を上げる貴族の――元貴族の男性。
デップルが謁見の間で処罰を受けた際、彼もその場に居た。その為当然ユミルの姿を見てはいた、が――その場ではデップルをどうするかにばかり気がいってしまい、ユミルの顔まで碌に確認していなかった。否、出来なかった。
「ぁ……が……⁉」
震える身体と声。どうにか、どうにかこの場を切り抜けなくてはいけないと本能が叫ぶ。しかし――突破方法が思いつかなかった。
「既に陛下もサクラ様も、更には〝勇者〟レイも〝聖騎士〟アルバスも周知しており逃げ場はありません。仮に逃げることが出来たとしても国中に指名手配されますし、外国にでも行かないと逃げきれないとご忠告しておきます」
息を飲む。外国にまで行かなくて逃げきれない。しかし、逃げきれたとしても見知らぬ縁もない外国では今までのような貴族の暮らしは出来ない。
「それから――」
そっとユミルは男に近付き耳元で囁く。
「デップル伯の口封じについても既に関わった者を捕らえ尋問しています」
それは、死刑宣告に等しき言葉。
「ひ――⁉」
身体が震える。ガクガクと見て分かる程に振動し、動揺する男。
何とか、なったと思っていた。デップルの悪事がばれても、その死までは分からないと。追跡されていないか気にし、輸送の兵士も全員息の音を止めた。
だが――しかしそれがより重い『罪』となって跳ね返って来た。
「あ、ああ……⁉」
「デップル伯、及びデップル伯輸送の兵士殺害に関しても詳しくお話願えますか?」
ユミルの無慈悲な言葉に、男は自身が己が犯した罪と待っている罰を自覚し、力なく項垂れた。
◇ ◇ ◇
抵抗する力も気力も権力もなくなった男性を兵士達が輸送の馬車に乗せて取り調べの為の施設へと連行するのを見送るユミル。そこに、
「大丈夫だった、ユミル?」
ひょっこりと、一般兵士の格好をしたアルバスが声をかける。一般の兵士の姿をしているのは彼自身変装のつもりらしい。
「ん、平気。別に何かされそうになってもアルバスとレイとサクラ様が居てくれるし」
ユミルの言葉を皮切りに、同じくひょっこりと姿を現すレイクリウスとサクラ。
「しっかしまあ、相変わらずとんでもない貴族連中だな、プロスペリタース国は」
「……耳が痛い限りじゃ」
レイクリウスは全身を覆う甲冑姿で顔も兜で覆い隠し、サクラは地味な下級神官服を着て身分を偽っていた。
「ああいう手合いを私とアルバスで前回……前世? では叩きまわっていたのじゃが……流石にデップルの口封じまでし出すとは思わなんだ」
ひとりごちるサクラ。前回の世界では、デップルは玉座を狙ってヴェルスと結託(というか利用されたり)はしなかった。それがヴェルスが動きデップルをそそのかしたおかげでデップルの阿保な野望に火が点き、それが結果的に他の悪徳貴族の悪事の発覚にまで及んだ挙句口封じに息の音を止められるとは流石のサクラとアルバスも予想外だった。
しかし――結果的にデップルの屋敷の家宅捜索によって他の貴族連中の悪事も発覚。芋づる式で悪徳貴族の捕縛に成功した。
「だが――逆に好機でもある。デップルの屋敷から証拠の書類やら使用人の証人やら確保出来たんだろう? 一気に叩く機会が回って来たと思おう」
レイクリウスが肩を竦める。全くこの国は前の時と同じで変わっていない。誰かにやってもらうのが常で、自分は私腹を肥やすことばかり考える貴族連中ばかりだ。
「――そう、ですね」
何とも言えない表情でサクラは肯定する。レイクリウスが〝勇者〟であることを辞めた理由がその貴族連中にあるだけに、全く変わっていない貴族達の意識に申し訳なさを感じてしまった模様。
(そりゃ、アルバスと二人で長期的に変えていったからこの時点で変わっていないのは仕方ないとは思うがのぉ……)
そう言われてみれば、こんな貴族連中だからアルバスも見捨てて置けないと自分に付いて来てくれたんだった……と少々現実逃避気味に思い出すサクラ。挙句、もう一度この馬鹿連中の性根を鍛え直さなきゃいけないのかと考えると少しばかり涙が出る。
「すまない、レイクリウス様にユミル嬢。プロスペリタース国のかっこ悪い所ばかり見せているの……」
戻ってすぐだから、自分達が頑張った成果を見せられなくて申し訳なく思ってしまう。それが酷く――悲しい。
けれども、
「いいえ、サクラ様」
ユミルは笑って返す。
「こんな風に他人のことを何も考えられない貴族の人ばかりの中、前の時は私とレイの為に一生懸命頑張ってくれたって――今更ながら理解しました。
……アルバスが、私の為に婚約破棄したのも、納得出来ました」
「ゆ、ユミル……」
オロオロとアルバスが挙動不審に身体を右往左往揺らす。
「だから!」
ニパっとユミルは不敵な笑みを浮かべ、告げる。
「今度は、お二人にだけ任せきりにしはしません。私も――私達にも、お手伝いさせて下さい!」
意味ありげにユミルはレイクリウスに視線を向け、それを受けたレイクリウスもまた肩を竦めて頷く。
「だな」
それに、
「っ~~~~~~」
アルバスはどう返事をしたものか考えあぐね、今度は視線を彷徨わせる。
(やれやれ)
苦笑するサクラ。どうもアルバスはユミルが表立って動いて、結果目立って危険が及ぶのではないかと危惧しているらしい。
――それがアルバスのユミルへの愛の深さだと分かってしまい、サクラもレイクリウス同様肩を竦める。
(嫉妬するのう)
だが――それで、いいのだ。
(一度は結ばれた恋。今度は、応援する側で良い)
もう一度愛されようとは思わない。今度はアルバスの恋を応援してあげたい。そっと自分の心に蓋をする。
一度は突き放し、けれども戦場に駆け付けてくれた。それだけで十分なのだ。
「頼もしい限りじゃ。ユミル嬢には是非とも出世してもらい、女性の社会進出の一端を担ってもらうとしようかの」
「さ、サクラ様……」
「なあに、いざとなればそなたがユミル嬢を護れば良い話よ」
挙動不審なアルバスをサクラは一蹴。
「だな」
「ですね」
それにレイクリウスとユミルも笑顔で同意する。
「さ、戻ろるとするかの」
「はい!」
「うん」
「うぅ……」
そうして、四人は王宮へと戻って行く。一人でも二人でもなく、今度は四人で。遥かな未来の為に。
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