50. ループ編 ⑪ デップル元伯爵の末路 ※ざまあ展開注意
私用により、予定より早い投稿時間になってしまいました。申し訳ありません。
※所謂「ざまぁ」のお話になります。苦手な方はご注意ください。
(どうして、どうして……こんなことに……)
ガクガクと震える身体で護送車に乗せられた罪人が一人。
名はデップル。伯爵の地位にある――あったもの。
支援物資の横領、魔物襲撃時に領地から一目散に逃走、徴兵した兵士への不当な扱い、禁止されている奴隷商人との闇取引、そして――聖女サクラの謀殺未遂と玉座簒奪。数多の汚職と罪を立件され伯爵の地位を取り上げられ、今は取り調べの為王都から離れた別の施設へと移送される途中だった。
「くそう……くそう……くそう……!」
怨嗟のうめき声。しかしそれはガタガタと乗り心地の良くない罪人の護送用の馬車の中に虚しく響くのみ。
決して伯爵の地位にあった者が乗るべきではない粗末――という言葉ですら生ぬるいオンボロ馬車。
(私は、私はこの国を導くはず……そのはずだったのに……!)
ギリッと奥歯を噛みしめる。突如現れたヴェルスとかいう男。魔物を従えるその男は、自分に言った。
『貴方こそ、王になるべき器です』
そう笑い、邪竜であの忌々しい王位十戒を持ち出して来た王女であるサクラを亡き者にし、先の邪竜討伐を失敗とした上で自分こそが王になるべきと吹聴し、玉座に座る……その予定だったのに!
『まだ分からないか? デップル伯。貴方は今回の首謀者に利用されたんだよ』
『支援物資の横領に、魔物襲撃の際自分だけ領地から逃走、更には徴兵した兵士への不当な扱いに禁止されている奴隷商人との闇取引……一体どれだけ罪を重ねるおつもりですか?』
レイクリウスとアルバスの台詞を思い出し歯ぎしりするデップル。
(終われない)
ドロリとデップルの心に膨れ上がる黒い感情。
(このままでは、終われない!)
嫉妬、反感、恨み、憎悪。幾重もの負の感情がデップルの中に渦巻く。
(私は、私は玉座に座って――!)
地位も財産も奪われ身柄も拘束されたデップル。最早彼に返り咲く道は無い。だがそのことに気付かない。否、気付こうとない。
見たいものしか見ず、聞きたいことしか聞こうとしない。現実を無視し未来を夢想するしかない元貴族。
くつくつと煮えたぎる悪意。自らを省みることなく、その責任をレイクリウスとアルバスの二人に擦り付ける
(絶対に、このままでは済まさない……! 済ませてなるものか……‼)
全てを失ったデップルに出来る、唯一の希望。否、それは希望ですらない、ただの妄執にして戯言。全てを失ったデップルには到底達成出来ないであろう妄想の産物。それはデップルも本心では理解していた。理解していて――それを認めない。
認められない。認めたくない。認められるはずもない。此処で終わりなのだと。最早自分に未来はないのだと理解することを脳が拒む。
今までの栄光が過去の産物にして虚構になるのを本能が否定する。
そんな、現実逃避の最中、
ガコン。
「っ何……」
何事と呟こうとした刹那、
「て、敵襲、ぐっ⁉」
馬車の移送の為に付いていた兵士の苦しむ声。次いで鬨との声と剣戟が木霊し、にわかに騒がしくなり……暫くした後静まり返る。
そして、馬車の扉が開かれる。
「御無事ですか、デップル伯」
「お、おお……! そなたは……!」
デップルの眼が見開かれる。馬車の扉を開けたのは、デップルと懇意にしている貴族の男性だった。覆面で顔を隠しているが、声と僅かに布から見える顔から誰か分かり一気にデップルの警戒が解ける。
「お、おお! た、助けに来てくれたか⁉」
デップルの眼が狂喜に染まり男性を歓迎する。ニコリと笑みを浮かべて頷く男性。
「無論です。デップル伯を放って置けるはずないでしょう?」
「お、おお……‼」
デップルが歓喜に打ち震える。
(まさか、まさか私にもまだこのように言ってくれる者が居るとは⁉)
男性の手を取り馬車から降りる。見れば矢や剣でやられて幾人もの移送の為の兵士が倒れ伏し、生臭い血の臭いが立ち込めていた。うっと一瞬顔を歪めるものの、この状況で贅沢は言えない。
「急ぎ、我々の用意した馬車へ。匿う場所を用意しています」
「あ、ああ。すまない」
デップルは自分のせいで倒れる兵士を気にも留めず男性に従い後を追う。見れば男性のように布を顔で隠した覆面姿の者が幾人も揃っていた。無論、この男性貴族が個人的に雇っている私兵である。
「此方です」
そう言って用意された馬車を指差す。
「伯爵に相応しい馬車ではありませんが、今は身を隠すのが先決。ご容赦を」
「あ、ああ。分かっている」
ボロい囚人服を着たままデップルはその馬車に乗り込もうとし、そこに男性貴族が声をかける。
「ああ、デップル伯。一つ質問を」
「? 何か?」
焦る気持ちを隠そうとせず、デップルは少々不快気に顔を歪ませて振り返る。
「尋問官に何をどこまで話されましたか? これまで犯した犯罪について、誰が関与しているか言いましたか?」
「え、あ……いや、言っていない。本格的な取り調べは移送された後で始まる予定だった故……」
「そうですか」
ニッコリ。デップルの言葉を遮る男性貴族。これが最も男性にとって訊きたいことだった。なんせ、デップルのおこぼれを貰う為に自身も少なからずこのダメ貴族に付き従って犯罪を犯して来たからだ。それが露見されることだけは避けたかった。
故に、
「じゃ、もう用は無いですね」
ドスッ。
「ぁ……?」
何の、前兆も……なかった。少なくとも、デップルにとっては。
自分の腹を見れば鈍い鉄色の短刀の柄。それを握る男性の手。広がる紅の液体――そして、熱を帯びた痛み。
「――――――っ⁉」
声にならない叫びが喉から迸る。ドロリと流れる血。
脳が理解を拒む。しかし――デップルもようやく察する。
「ぁ……ぜ……」
信じられないという表情で男を見つめるデップル。それに、
「泥船と分かっている船に、乗り続ける馬鹿はいない」
クツクツと、男に皮肉気な笑みが浮かぶ。
「デップル伯。いや……デップル元伯爵。貴方が口を滑らせていないかだけが気になっていた」
「ぁ……ぐ……」
「いやあ……捕まった時は肝が冷えましたよ。貴方の没落と処刑に、此方まで巻き込まれたらたまったものではないので」
わざとらしい程に丁寧に、慇懃無礼な態度で恭しく話す男性。デップルは目を見開き男性を見つめ続ける。
「がっは!」
前のめりに倒れ血だまりを作る。ごぼごぼと血の泡を吐き、ひゅーひゅーとか細い呼吸を繰り返す。そして、男はそんなデップルを見つめ、一言。
「全て、一人で背負って死んでください。それだけが、今の貴方に出来るせめてもの貴族としての務めです」
「あ……ああ……」
せめてもの抵抗なのか、顔を男性に向けて苦悶の表情で見つめる。男性は一瞬ひるんだものの、すぐに気を取り直して顔を背ける。
「――撤退するぞ」
「はっ!」
覆面で顔を隠した男性の私兵――手下が短く応える。
しかし――そうは問屋が卸さなかった。
「うわああああああああああああああ⁉」
『っ⁉』
突如見張りの為に離れた位置に居た手下の叫び声が木霊する。
「っ何……!」
何事、という言葉を吐く前に手下から報告が上がる。
「ま、魔物です! 魔物の襲撃が……があ⁉」
「っちぃ! 蹴散らせ!」
貴族の男性の言葉に従い手下たちが剣を構える。同時に無数の獣や下半身が蛇の女怪といった魔物が現れ手当たり次第に襲い掛かってくる。
「っこちらへ!」
手下の一人が男性を安全な所へエスコートすべく声掛けする。
「分か――」
分かった。そう言おうとした男性。だが、
ガシッ。
「っ⁉」
突如貴族の男性の足が捕まれる。
「何……!」
足を見て……怯む。
「ぃ……か……せん……‼」
見れば、瀕死のデップルが……その持てる力全てを使い、自分の足を掴んでいた。
ぎょっと顔色を変え、デップルを力の限り足で踏む!
「っ放せ! この死にぞこない!」
「……な、さ……ん……!」
しかしデップルは力の限り掴み、決して放そうとしない。憤怒と憎悪、苦悶に悲哀とが織り交ざった表情で男性を見つめ、一言。
「お前も……道連れ……だ……‼」
「――――――っ⁉」
死にぞこないの、権力を失った小汚い爺。ただそれだけでしかなかったはずのデップルの、せめてもの命がけの抵抗。
恐ろしい、執念。
貴族の男性はそのデップルの瞳に宿るあまりにも低俗な、しかしそれだけに他に追随を許さない復讐心を前に恐怖し――あらん限りの力でそれから抗う。
ゲシゲシ! ゲシゲシ!
「っ放せ! 放せ! 放せぇえええええええええええええええええええええええ⁉」
恐怖からデップルへの足蹴りを幾度も繰り返す。しかしデップルもまた敗けじと男性の足を掴んだまま放さない。
「っこの、死にぞこないめ……!」
ただの肥満気味の爺さんの手とは思えない程の強い握力。道ずれにしようとする醜い最後の抵抗を必死に振り払う男性。
そこに、
「っ魔物が――」
「っ⁉」
手下の台詞に振り返り、気付く。襲い掛かって来ていた魔物の群れがそこまで来ていたことに。
「あ、あああああああああああああ⁉」
貴族の男性の悲鳴と、
「――か、かかかかかかか……!」
今まさに死に瀕して最後の抵抗のよって道ずれに成功したデップルの嗤い声が交じり合った。
そして――絶叫。
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