45. 断章 ただの村娘の戦い
一方その頃の、ユミルはというと……
戦とは、ただ剣等武器を使うだけではない。
これもそう。剣も槍も弓矢も使わないが、しかし立派な戦いなのだ。
「よいしょ……と」
馬車から一人の女性が降りる。その女性は――ユミル。
ドレスではない普段着を着こなし、街から街への移動に使われる大衆向けの馬車に一礼する。村から都まで一人用の馬車で移動したことがなかった為揺れる馬車での移動は思った以上に居心地は良くなかった。が……アルバスとレイクリウス、それにサクラのことを思うと苦ではない。
(王宮は……と)
ずっしりと重い荷物の入ったリュックを背に王宮へと向かう。荷物がかなりの量の為傍から見ると二足歩行する亀のように見えるユミル。えっちらおっちら歩いて行き、どうにか王宮の幾つかある出入り口の一つに辿り着く。
「は……ふ……!」
(流石に重いなあ……! どれだけ余罪があるのやら……)
心の中で悪態を吐きながら出入り口に並ぶ。ほどなく順番が回り門番が此方を見て不審げに目を細める。
「えー……はい。では次の方……どのようなご用向きで王宮に? 通行証とかはあるの?」
言外に何だこいつは、という雰囲気を漂わせる門番。今のユミルは夜会のドレス姿ではなく普通の村娘の出で立ちな為一体何用で来たのかと訝しまれる。
しかしユミルは動じることなく用意していた封筒を渡す。
「此方です」
「ん……手紙? 貴族の使いかい?」
ふむと門番は白い封筒を開封し、即座にぎょっと顔色を変える。
「こ、これは……! しょ、少々お待ち下さい!」
急に態度を180度変えてその場を後にする門番。ほどなく王宮内の人間であろう身なりのイイ執事姿の男性を連れて来る。
「彼女です! 彼女がこれを……!」
門番が説明すると執事らしき男性は顔を強張らせ、近付き耳打ちしてくる。
「少々場所を変えてお尋ねしたいことが。此方へどうぞ」
そう言うと有無を言わさぬ表情で言い切る。
「分かりました」
それに臆することなく応じるユミル。執事が先を行きその後ろをユミルが追いかける。
「「………………」」
暫しの無言の後、先導する執事がこらえきれなくなったのかぽつりと尋ねる。
「その、レイクリウス様と〝聖騎士〟アルバス様とはどのようなご関係で? お二人からの紹介状を見せて頂きましたが……お二人共姿を消して王宮内は混乱しておりまして」
冷や汗をかきながら質問する執事に、
「お二人から頼みごとをされました。今は二人とは別行動中ですが……今何処で何をしているかは手紙に書いてある通り限られた人にしか言わないように言い含められていますので」
ユミルは予習通りの回答を返す。
「か、かしこまりました」
どもる執事。そうこうする内に王宮内の回廊の中へと入っていく。
(ここが、王宮……すごい。流石というべきか……)
思わず物見遊山な感覚でキョロキョロと周りを見回してしまう。恐らく、ただの村娘なら一生縁のない場所。邪竜討伐の祝賀会も王宮ではなく国が管理する建物で行われていた為王宮に立ち入るのはこれが初めてだった。
ふと向かい側からどこぞの貴族の娘であろうドレス姿の女性が従者を連れて歩いて来る。先導する執事が立ち止まり頭を下げるので自分も見様見真似で立ち止まり首を垂れる。
「……?」
ドレスを着た貴族の娘は此方を見て一瞬不思議そうな表情をして、しかし特に何か言うこともなくそのまますれ違う。
その後姿を目で追う。
(奇麗な人……)
ドレスも髪も身に着けている装飾品も、そして何よりも立って歩くその姿一つ一つに気品がある。
(やっぱり王宮に庶民が普段着で上がるってのはそうそうないことなのかな……)
自虐し、苦笑する。確かに王宮に出入りする人間と言えば王侯貴族や騎士や兵士意外だと業者や給仕達が主で一回の村娘が王宮に上がるなど本来はありえない。
しかし、
(それでも、どんな奇異な視線で見られても……私は構わない)
目的を遂げられるなら、どんな風に思われても見られても構わなかった。
歩くのを再開するとほどなくして部屋に通される。
「此方で少々お待ち下さいませ」
頭を下げて下がる執事。すぐに別のメイドが現れ「今暫しお待ち下さい。此方をどうぞ」と紅茶の入ったポットとティーカップを置いて去っていく。
扉が閉められ一人残されるユミル。そっと扉の方を向くとバタバタと慌ただしく人が往来する音が聞こえる。
厚い扉の向こうから漏れる喧騒。ユミルは出されたお茶に手を付けることなくそっと荷物の中から風呂敷に包んだ荷物をテーブルの上に置く。
ドサリと音を立てるそれ。紙の束ではあるがあまりの重量に思った以上に音が出てしまう。
用意が整ったユミルはじっと椅子に座りながら待ち人が来るのをひらすらに待つ。
そして――お茶から立ち上る湯気も消え失せた頃、唐突に彼等は来た。
コンコンコン。
「失礼する」
ドアをノックする音。それに気付き急ぎ立ち上がる。と同時に扉が開かれ、二人の豪華な服を来た男性が入ってくる。
「貴殿が――レイクリウスとアルバスの使いの者か?」
入って来た二人に最高位のお辞儀を行い、挨拶を交わす。
「はい、こうしてお目にかかれて光栄です。陛下、宰相様」
初めて出会うこの国を代表する権力者にも、ユミルは動じることはない。
「ユミル嬢。紹介状は受け取った。それで一体二人は何処に?」
「そもそも、貴女は一体? 〝勇者〟レイクリウスと〝聖騎士〟アルバス殿とどのような関係で?」
執事が扉を閉めて外に待機する。国王と宰相は椅子に座ると長方形のテーブルの対面に座りユミルを問いただす。
「私はアルバスの婚約者です。レイクリウス様とは、邪竜討伐の祝賀会に招待されてその際の御者がレイクリウス様でその縁で知り合いました」
「御、者……? 〝勇者〟であるレイクリウスがか? ああ、いや、サクラがそんな手配をしていたよう、な……?」
「邪竜討伐の祝賀会……確か、サクラ様が主催していた……」
混乱する国王と宰相。しかしユミルは落ち着き払いそっと二人に用意しておいた風呂敷をテーブル越しに渡す。
「レイクリウス様とアルバスより、此方をお二人に直接渡す様に仰せつかっております」
グッと力を込めて重い荷物を押し出す。
「これは……?」
風呂敷に包まれたそれを訝しむ二人。宰相が風呂敷の包みを広げ中を確認する。
「書類、ですか。一体何の……?」
一番上にある書類を何気なく手に取って中を確認し、
「っこれは⁉」
ぎょっと顔色を変える。
「へ、陛下! これを!」
中を確認した宰相が震える手と口で国王に書類を見せれば、
「っまさか……!」
国王もまたくわっと目を見開く。
「そなた、一体何故これを……」
驚く二人がユミルを見つめる。この国を代表する最高権力者二人。普通ならば一介の村娘でしかないものならば動じて声が震えても仕方ない。
「アルバスと、レイクリウス様から頼まれました。二人は今戦場に向かっています」
しかしユミルは動じない。何故なら、決めたから。
(私も、今度は戦う。もう守ってばかりのただの村娘じゃ居られない)
「お二人へもう一通手紙を預かっております」
荷物の中からもう一通封筒を取り出す。
(私の……私達の代わりにアルバスとサクラ様は必死に一生を捧げて戦ってくれた。なら、今度は私も戦おう)
「どうぞ、ご確認下さい」
二人に向け両手で差し出す。
(これが――私の戦いだ)
決意を秘めたユミルの瞳は真っ直ぐに二人を見つめた。
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