42. ループ編 ④ 前と違う展開
闇の中、影はじっと待っていた。
動くべきか、待つべきか。
それを考えていると、ある日邪竜が討伐された。
ああまたか。影にとってはその程度。時間を無限に持つ影にとって、それはさしたる問題ではない。
しかし――〝勇者〟が居なくなり、そして離れる動きの無かった〝聖騎士〟も居なくなった。
そして――当然のように混乱が渦を巻いた。
何時の時代もそう。馬鹿のような連中。性根が腐り切った害虫共。
残る厄介な相手は〝聖女〟のみ。だが――よりにもよって〝聖女〟が鼻持ちならない奴だった。
「動く時か」
影は動き始める。幾千の魔物を束ね、幾万もの罪人を屠るべく。
◇ ◇ ◇
〝勇者〟レイクリウスと〝聖騎士〟アルバス。二人が忽然と姿を消したという事実は、王宮のみならず王都を駆け巡った。
「一体二人は何処へ」「こうなっては騎士団の運営にも支障が!」「そもそも徴兵された平民等重用する等したのが愚かだったのだ!」「それよりも勇者が居なくなった方が問題では?」「陛下に褒美として自由を求める輩など、信用出来ぬ!」
喧々諤々。王宮の会議室は右往左往の大混乱となった。
それをサクラは何も反応せず黙って自室に居座っていた。
(これで良い)
自分のせいでアルバスを巻き込んでしまった。それが一度目の世界での未練。だからこそ、今回はそれを失くそうとした。
(レイクリウスならば二人を守り切れるじゃろう)
後は自分が全てやればいい。そう思い、書類整理をしていると。
「せ、聖女様ぁ!」
「っ何事じゃ⁉」
扉をぶち破る勢いで兵士が部屋に駆け込んで来る。まさか二人が見つかり捕まったのか、と予想し顔が強張るサクラ。
しかし――現実は予想の遥か上を行く。
「じゃ、じゃ、じゃ、邪竜が⁉」
「っ何⁉」
サクラは驚愕から立ち上がった。
◇ ◇ ◇
邪竜の復活の報。それは王都を一気に駆け巡った。
しかし国もただ黙っている訳でもない。報告のあった領地へ騎士団と兵士を派遣。率いるは当然プロスペリタース国が〝聖女〟サクラ。更に他の領地へ援軍の要請をし、王都からの本体は一足早くに目撃情報のあった領地へと目指し急ぎ進軍を開始した。
「サクラ様、もうすぐ砦に到着します。この後は?」
「まずは邪竜の目撃情報を集め邪竜が本当に現れたのか、現れたとしてその進路はどうなるか予想せよ。それに合わせ防衛拠点を定め、軍を集結。これを撃滅する」
歩いて進軍するサクラがあえて感情を押し殺して淡々と説明する。
(しかし――おかしい。おかし過ぎる。普通邪竜は一度倒せば少なくとも数十年は、下手すれば数百年は姿を見せないはず。邪竜とは名ばかりのただの迷いドラゴンか?)
おかしいのはそれだけではない。
(それに――前回はこんな、邪竜の復活などなかったはず。誰かが裏で糸を引いておるのか?)
眉をしかめる。邪竜そのものではなく魔術で幻でも見せたのかと勘繰る。
(或いは……我々四人を過去の世界へと戻した何者かが邪竜を復活させたのか? しかしそれだと何故我等を過去に戻す必要が……)
「サク……」
お付きの従者の騎士が声をかけようとした、瞬間だった。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
突然の咆哮。ぎょっと顔色を変える進軍する兵士達。
「まさか⁉」
サクラの驚きの声はかき消され、
「ガァアアアアアアアアアアアアアアア‼」
突如――空から黒い一匹の竜が羽ばたいて来る。
その姿を――サクラは一度目にしている。
「邪竜」
名を呟くと同時に、黒き邪竜は体勢が整っていない進軍中の軍に襲い掛かって来た。
………………
………………………………
………………………………………………
「う、ぐ……」
地面に倒れ気を失っていたのだろう。ノロノロとサクラは起き上がる。と、
「っ!」
目の前には黒いドラゴンが鎮座する。間違いなく一度戦い倒した相手、邪竜だった。
(じゃが――小さい。一度復活したが不完全な状態で復活したのか?)
以前と違い、小さい。二回りほどの小ささ。三階建ての建物と同じくらいの大きさしかない。
起き上がり邪竜を睨みつけるサクラ。そこに、
「無様ですね」
(え……⁉)
突然の人間の声。それも邪竜の近くから。
「この程度の存在が〝聖女〟の名を継ぎ、あまつさえあの方と同じ名を付けられるとは……まあその程度だから部下からも見捨てられ一人取り残されたのでしょうがね」
「なに、を……」
ひょろりとドラゴンの足元から、一人の黒装束のフードで顔が見えない男が現れる。
「喋るな罪人が。所詮貴様など汚れた血の末裔でしかない。それがあの方と同じ肩書と名を継承したからと言って図に乗るな」
「何を言って……そもそもお前は一体……」
サクラの言葉にゲラゲラと嗤うフードの男。
「分からないか。まあ罪人の子孫ではその程度でも仕方ない。なんせ配下に置き去りにされる程度の王女で聖女だ」
「っ!」
二回目でようやく言葉を理解し、周りを見回す。倒れる兵士達。だがその数はあまりにも少ない。その理由。
「邪竜が現れたら皆我先にと逃げて行ったよ。本当人望ないね、君」
「……そう、か」
いきなりの強襲で誰もが混乱したのだろう。しかしそれを咎めようとは思わない。それよりも気になることがある。
「お前が邪竜を復活させたのか?」
「イエス。もっとも、時間の問題だったがね。
邪竜とは人の負の感情、妬み恨み怒りに悲しみが集まって魔物と化した存在。一度倒せばその後姿を見せないのも、毎度毎度一匹鹿現れないのも、それが理由」
「何……?」
(どういうことじゃ……)
一歩後ずさる。
「何故、邪竜の仕組みを知っている……我が国の学者ですら、まだ仮説の段階なのに……」
「長年研究し、その仕組みを理解しているから。俺はね、お前の予想よりもずっとずっと長く生きて来たんだ。邪竜の仕組みを解き明かすくらい訳もないくらい……ね」
「何を……」
分からない。前の世界ではこんな奴は現れなかった。なのに二回目の世界では現れ、挙句邪竜の仕組みすらも解き明かしている。
「さて、そろそろ馬鹿との会話も飽きた」
ぬるりと、虚空からフードの男は漆黒の剣を取り出した。
これからは20時40分頃更新になると思います(確定ではありませんが)。
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