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36. 終幕 ③ 老聖女の幕は下り、かくて時計は巻き戻される

 サクラには自分でもよく分からないことが一つだけある。


(どうして、アルバスの日記の抜粋した写しをユミルに渡したのじゃろうか)


 王宮の自室で自問する。

 渡すように言われた訳でもない。渡さなければいけない訳でもない。そもそも日記を勝手に見せること自体眉を顰める行為だろう。

 けれども、


(では、渡さない方が良かったのかと思えば、それに違和感を覚えてしまう自分も居る……)


 そっとアルバスの姿を思い出す。緑を基調とした服を着た、一介の兵士だった彼。少し腕に覚えがあるだけで、本来なら貴族産まれでもない彼が王女の伴侶になるなど本来ならば御伽噺の中の話でしかない。

 傍から見れば、権力に目が眩んだ彼が幼馴染を捨てて王女の伴侶となった。そんな風に考える人も多いだろう。

 だけども。


(そうではない、と……知って置いて欲しかったのか……)


 自分だけが知る彼。誰よりも何よりも優しくしてくれた彼。そんな彼が、誤解されたままなのが……許せなかったのだろうか。


(ユミル嬢に別に恨みがある訳ではないからのう……)


 恨みもない。優越感もない。ただ彼が誤解されたままなのが悲しいだけ。

 

(アルバスは、そんなこと望んではいないじゃろうがな……)


 ふと窓から空を眺める。


(私の役目も終わりかの……)


 袂を分かった愛した男とその男が愛した女性。そして――自分に人生を捧げてくれた愛する男の顔が浮かんでは消える。

 また、会えるだろうか? 会って、くれるだろうか? いや――一人だけ、絶対に会ってくれる人はいる。


「私もそちらへと向かいます。我が汝背(なせ)の君」


 呟き、そっと目を閉じた。




   ◇   ◇   ◇




 〝聖女〟にして女王、そして〝国母〟と謳われたサクラ=プロスペリタースの逝去が発表されたのは、暫く後のことだった。

 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………




 後悔はあるかとの問いに、最期に思うことは一つ。たった一つだけ……ある。

 自分の人生に、優しい彼を付き合わせてしまったこと。自分の思い付きに等しい行為で、彼の生き筋を変えてしまったこと。

 もしも――嗚呼、そう〝もしも〟があるのなら……




(絶対に彼を救ってあげるのに)























 





 〝もしも〟の世界を夢見ますか?




   ◇   ◇   ◇




「……ぁ?」


 ゆっくりと目を開ける。次いでよいしょっと身体を起こす。


「あ、れ……?」


 違和感を覚える。体に、部屋に、服に。そして鏡の前に立ち、


「「「「え゛」」」」


 驚愕の声上げ――ついで絶叫した。


「「「「えええええええええええええええええええええええええええええ⁉」」」」

(わ、わ、わ、わ……)

「「「「「若返ってるぅううううううううううううううううう⁉」」」」





 ユミル、レイクリウス、アルバス、サクラ。四人の絶叫が場所は違えどものの見事に四重奏を奏でた。

どんでん返し、スタート( ◔ ౪◔)

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