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34. 終幕 ① 双星が墜ちる時 

 そっとレイクリウスは瞳を開ける。


(ああ……寝ていたのか)


 何時の間にか椅子に座ったまま寝ていたらしい。起き上がることもせずじっとレイクリウスは自分の手を見つめる。

 何時の間にか皺くちゃになり老いさらばえた手。それだけの年月が流れたことを表していた。


(聖剣を久しく握っていないな)


 壁に立てかけた聖剣を見つめる。別に呼べば来るので置いておく必要もないのだが……外見は綺麗ではあるのでアンティークとして飾っている。


(幸せな日々、だったな)


 今までの日々を思い出し、心からそう思えたことにクスリと笑う。

 〝勇者〟であることを止めた自分。それを受け入れてくれたユミルとの日々は、本当に幸せだった。転戦に次ぐ転戦。血と炎の戦の日々からの解放は、レイクリウスの荒んだ心を癒してくれた。

 彼女との間に子供も設け、欲しいものは全て手に入った。否、取り返してみせた。


(幸せであることに〝勇者〟は必要ない)


 そう、心から思える。


(ありがとう、ユミル)


 自分と一緒に生きることを選んでくれた女性に感謝する。

 ……本当は、本当は少し、少しだけ、心残りがある。後悔、ではないのだけども。


(でも、それは……今更言っても仕方ないことだから)


 笑い――そして再びレイクリウスは瞳を閉じた。そして――






 その瞳が開くことは二度となかった。




   ◇   ◇   ◇




「レイクリウス様が、亡くなられました……か」

「そのようだの」


 ベッドに横たわるアルバスを見舞うサクラ。この時はすでに父も亡くなり、女王として即位。絶大な支持の下アルバスと共に改革を推し進め――漸く、次世代となるであろう王子への実質的な仕事の引継ぎも終わらることが出来た頃だった。

 〝聖女〟サクラと〝聖騎士〟アルバス。平坦ではないプロスペリタース国を東奔西走し、戦に病に飢饉に災害とあらゆる困難を乗り越えて来た二人。身体を重ねても二人の間に子供は出来ず、親がいなくなった王族の血の濃い子を養子として迎え入れた。

 そんな二人にも――別れの時は来た。


「寂しく、なりますね」

「もうずっと王都にはおらんかった相手じゃ。気にすることもあるまい」

「はは……心にもない、ことを……」


 弱々しく笑うアルバスをサクラは気遣う。


「無理はするな。そなたはもうずっと働きっぱなしじゃろ。ここいらで休んでも誰も文句は言うまい」

「それは……サクラ様も、でしょう?」


 最後まで、彼は私を気遣うのだな。そう思ってしまい……サクラはアルバスの手を握る。


「そなたのおかげでここまで来れた。礼を言う。我が最愛の夫よ」

「はは……ありがとう、ございます。でも……サクラ様が……本当に、好きなのは……」

「……好きがずっと同じだと、誰が決めた訳でもない」


 そういうとサクラはそっとアルバスの顔を覗き込み――そのまま口づけを交わす。


「ぁ……」

「そなたを、心から愛しておる。――ありがとう」


 ニッコリと……微笑むサクラ。それにアルバスは驚き……そして笑みを浮かべる。


「ありがとう、ございます。サクラ様。平民で、徴兵されただけの僕を、取り立てて下った上……愛して、下さり……」

「それはこちらの言う台詞じゃ。そなたこそ、よく私に仕え付いて来てくれた」


 互いに感謝を述べ合うサクラとアルバス。互いに分かっていた。終わりが来る、と。


「ずっと、独りじゃと思っていた。誰かを助ける為に、私は独りだと。独りで誰か救い続けなくては、と」


 だけど。


「そなたのおかげで、私は幸せな人生を送れた」

「はは……そんな風に言ってもらえて、光栄……です」


 笑い合う二人。


「……後悔しておらんか?」


 ポツリとサクラが言葉を漏らす。何処か緊張を孕んだ声。しかし、


「いいえ。後悔はしていません」


 きっぱりと、アルバスは否定する。


「サクラ様に……付いて来たことを……後悔してはおりません。もしも、あるとすれば……それは……」

「それ、は……?」

「それは……後悔ではなく……〝未練〟……でしょうね。サクラ様とは……別件……の……」


 淡く笑いかけるアルバス。


「心残りというか……もしも、あの時……こうしておけば……というだけのこと。僕は……サクラ様に……付いて来れて……本当に……幸せ……です」


 そう言い切る。

 後悔はない。だけど、それでもあるとすれば……それは後悔ではなく未練。それもサクラに付いて来たことではなく、別のことだとアルバスは断言する。


(きっとサクラ様に付いて来なければ、後悔したまま……生きていくことになっただろう……から……)


 そんな人生は、こりごりだ。


「サクラ様。申し訳ありません。先に、逝きます」

「うむ。私ももうすぐ逝く。独りにはさせん。向こうでレイクリウスとでも一緒に待っておれ」

「はは……一緒に……待ってくれるでしょうか……彼は、きっと……僕のこと……嫌いでしょう……から……ね……」


 そう言って……ゆっくりと……アルバスは瞳を閉じた。

 〝聖騎士〟アルバスーー逝去。

 その遺体は葬儀が終わった後、秘密裏にサクラの手配によって故郷の村へと運ばれ、埋葬されたという。

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