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32. サクラ編 ⑤ 結婚式、その裏で――

 カランカランと小さな村の教会のベルが鳴り響く。


「ユミル、おめでとう」

「ありがとう、母さん」


 ウエディングドレス姿のユミルにその母親が優しく微笑む。


「まさか……ユミルがレイクリウス様と結ばれるなんてねえ」

「うん。本当……分からないものだね」


 笑い合うユミルと母。そこに、


「君は、俺を見てくれた」

「レイ……」


 声をかけて来たのは……レイクリウス。愛称のレイで呼ばれた白いタキシード姿の彼はふっと微笑み、ユミルの隣に立つ。


「ありがとう。〝勇者〟としてではなく、一人の男のレイクリウスとして俺を見てくれて」


 そっと近づき、顔を近付ける。


「だからこそ……俺は、君のことを愛したんだ」


 そして――口付けを交わす。きゃー、と黄色い悲鳴を上げる村の女性陣。

 そっと唇を離すレイクリウスとユミル。ふっと微笑むレイクリウスは自信満々に話す。


「ありがとう。勇者ではないただの俺を選んでくれて。もう勇者としての自分は捨てたが……それでも、ただのレイクリウスとして、君を一生をかけて幸せにしてみせる」

「レイ……はい、ありがとうございます‼」


 顔を赤らめ微笑むユミル。そして、


「いっくよー……えい!」


 ユミルはその手にもつ花のブーケを宙へと投げたのだった。




 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………




 その姿を、そっと生い茂る木々の間から見つめる者達。


「村長、これを……」

「う、む……」


 ボロボロのローブで身を隠したアルバスと、その村の村長。傍には〝聖女〟サクラも同じくボロいローブ姿で複雑そうに村長とアルバス、そして遠くで行われているレイクリウスとユミルの結婚式を見ていた。


「こっちはユミルとレイクリウス様の結婚式のご祝儀。こっちは村宛の寄付金。どうか使って下さい」

「アルバス……正直確かにありがたい。が……その……どうしてお前……ユミルは良いのか?」

「……良いんです」


 そっと遠目にユミルの花嫁姿を見る。

 本当に幸せそうなユミル。隣に居るレイクリウスも〝勇者〟として転戦していた時期とは比べ物にならない程穏やかで落ち着いている。

 それを見て……微笑むアルバス。


「僕では……ユミルをここまで幸せには出来なかったから」


 そう何処か悲しげに微笑むアルバス。


「………………」


 それを見て複雑そうに顔を歪め……しかし何をどうすることも出来ず溜息をサクラは吐いたのだった。


「行きましょうサクラ様。それじゃ、村長。また」


 そう言って踵を返すアルバスに後ろを付いて行くサクラ。

 そのまま村外れの共同墓地に行き……そっとある墓の前で用意していた花束を置き手を合わせる。


「お母上の……か?」

「はい。もうおいそれと来れないだろうから」

「……そうじゃの」


 サクラもまたかがみこんで手を合わせる。


「母さん……来るのが遅れてごめん。僕、生き残れたよ。ユミルとの……結婚は……白紙に戻ったけど」

「………………」

(申し訳ありません、アルバスのお母上。私とこの国が不甲斐ないばかりに、アルバスに犠牲を強いてしまいました)


 そっと心の中でアルバスの母に謝罪するサクラ。


(せめて、せめて〝聖騎士〟と称された彼の婚約がまだ決まっていなければ……そうすれば、ユミル嬢の暗殺未遂等馬鹿貴族共は思わなかっただろうものを……)


 そう思わずにはいられない。

 彼の才能を見込んだのは自分だ。戦場で出会い、使えると思い……傍に置いた。結果見事に彼は〝聖騎士〟と称されるだけの腕と頭脳を持ち合わせるだけに成長した。

 しかし……まさかその結果幼馴染のユミルに刺客を放ち、暗殺しようと思う輩は出るとは……計算外だった。


(その原因となった自由を求めた〝勇者〟とユミル嬢が結婚するとはな……)


 皮肉というかなんというか、と心中で溜息を吐く。どういう巡り合わせなのか。いやユミルとレイクリウスをくっ付けたのは自分とアルバスの策略でもあったのだが。


(知らぬは当の本人達のみ……か)

「サクラ様、ありがとうございました」

「ん。もう良いのか?」

「はい。要はすべて終えましたので」


 アルバスは振り返り、お祭り騒ぎが続くユミル達の結婚式場の方を向き、一言。


「ユミル……元気で」


 そっと……微笑んだ。








 この数日後、〝聖女〟サクラと〝聖騎士〟アルバスとの結婚式が行われた。

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