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30. サクラ編 ③ 無垢にして残酷な真実

 昔々、プロスペリタース国の王家に一人の勇者が産まれました。聖剣を召喚しその力を自在に振るう勇者を王は自慢し、大切に大切に育てました。

 しかしある日突如として邪竜が現れ、国民を襲い始めたのです。

 勇者は邪竜討伐に行こうとしましたが勇者一人ではあまりに危険。どうしたものかと悩む王にある神を信奉する神官達が上奏しました。

 曰く「私達の神の秘儀を使えば異世界より強力な力を有する戦士を召喚出来ます」と。

 物は試しと王はすぐさま異世界召喚の儀を行わせました。夢見神ソーニョの神官達はその力を振るい、異世界より一人の聖女を召喚することに成功しました。

 名は『サクラ』。桜の樹から名付けられたという少女。しかし当時桜という樹はなく東の国に同じ名前の樹があると後に知りました。

 王や貴族、それに神官達は聖女様に首を垂れ、どうか邪竜と戦うようにとお願いしました。

 



「……それで、聖女様はそれを了承し、勇者と共に戦うも深手を負って倒れられたのです……よね?」

「うん。そうだね。表向きは、ね」

「っ!」




 しかし聖女様は首を横に振りました。「私は戦いをしたこともなければそんな力も無い。それよりも早く家に帰して欲しい。家族に会いたい」と。

 しかし異世界召喚にはかなりの労力を割いていました。すぐに帰す訳にもいかなかったのです。

 「貴女には夢見神ソーニョ様の力の一部が宿っている。その力を振るって邪竜を討伐しなければ家には帰れないのです」と、神官は勿論王も貴族達も嘘を吐きました。

 詳しいは分からない聖女はそれを信じ、仕方なく勇者と邪竜討伐に乗り出しました。

 勇者は聖女の話に興味を持ち、二人は仲睦まじく旅をしました。しかし聖女には元居た世界に婚約者がおり、勇者とは決して結ばれることはありません。

 しかしそれでも勇者は良かったのです。無理矢理連れて来られた聖女をせめて自分が守り、元居た世界に帰してあげようと頑張りました。

 そして――二人は見事邪竜を討伐したのです。

 



「そんな……聖女様は、了承されていなかったのですか? その上、王は……王侯貴族に神官共は、嘘まで吐いて……」

「その通り。当時の王家や貴族、それに神官達は聖女をだましたのだ」

「酷い……」

「だが、話はそれで終わらないのだよ」




 邪竜を討伐した聖女。これで元の家に戻れると喜びましたが、しかしすぐには帰れません。

 神官達は自分達の国での権力を強める為に聖女を元居た世界には戻さず王に自分達の手柄だと主張し、それに反対する貴族は神官風情が政治に口を出すつもりかと神官は勿論、聖女にまで反感を抱いたのです。

 権力争いに巻き込まれた聖女はそのままこの世界に居座らされ続けました。

 勇者はそれを不憫に思い、聖女に毎日会いに行き、一日でも早く帰れるよう貴族と神殿との間を取り持とうとしました。

 しかし――貴族達の不満は限界に達し、ある日聖女の飲み物に毒を仕込んで聖女を弱らせ、兵士を聖女の居る神殿に送りこんで神官諸共聖女を暗殺したのです。




「な、あ……⁉」


 驚く私に、しかし父は話を続ける。それがどれほど残酷であろうとも。

 



 しかしそこに王族の一人にして聖剣に選ばれた勇者が神殿に乗り込んできました。不穏な空気を察し聖女を守る為にやって来たのです。

 何が行われているか知った勇者は怒り狂い、兵士達を手にかけました。その中には戦場で友情を育んだ知り合いや友も居たと言います。

 そして数多の死体を築いた勇者は聖女の姿を見つけました。

 「聖女様!」聖女の身体を抱き起す勇者。しかし聖女は最早虫の息。最後の吐息で虚ろな目で勇者を見、遺言を遺しました。




 「私、お家に帰れないの?」




 そう言って息絶えた聖女の遺体を勇者は抱きしめ、慟哭したと言います。

 その後勇者は行方をくらませ、聖女の遺体は王宮のお墓に埋葬され、その後東の国で発見された聖女と同じ名の桜の樹が見つかるとそれを墓石としてお墓に植えられ、以来満開の花を春に咲かせるようになったと云います。

 始まりの聖女に祝福あれ。愚かなる国と王族、そして貴族と神官に呪いあれ。





「それが………………この国が、嫌王家が隠して来た真実だ」

「ぁ……ぁ……」


 父の言葉に、私は……私は何も言えなかった。

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