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28. サクラ編 ① 聖女の告解

 祝賀会の翌日、ユミルとレイクリウスの二人が転移魔術で旅立つのを高い建物から見送ったサクラとアルバスは緊張が解かれてふうと溜息を吐いて部屋にある椅子に腰かけた。円卓の小さなテーブルをはさむ形で座る二人。


「ユミルとレイクリウスが、行ったの」

「ええ。恐らく僕達の村に行ったのでしょう」

「……勝手な〝勇者〟じゃ」


 皮肉な笑みを浮かべるサクラ。しかしアルバスは苦笑して首を横に振る。


「レイクリウス様は……十分、勇者としての仕事は果たしましたから。対価に自由を求めても……誰も恨みませんよ」

「誰よりも恨む権利があるそなたに言われては、私からは何も言えんな」


 ふっと笑い合う。


「……お茶、どうぞ」


 用意してあったティーポットから中身をティーカップに入れる。琥珀色の液体が注がれ高貴な匂いが部屋を満たす。


「すまんの」


 カップを受け取り一口飲むサクラ。


「……温かい」


 ティーカップを両手で持つアルバスはそう口にする。緊張しっぱなしだったのがようやくひと段落でほっとしたという所か。


「「………………」」


 互いに何を話すべきか分からず、無言。何か話さなければいけない。しかし話して良いのか分からない。そんな微妙な雰囲気。


「アルバス」


 最初に口火を開いたのは――サクラ。


「そなたには、話しておこうと思う。我が国の醜態を。秘めたる過去を。その呪いを」

「っサクラ、様?」


 困惑するアルバスにサクラはカップを置いて語り始めた。




   ◇   ◇   ◇




 私サクラ=プロスペリタースは、幼い頃から王女として相応しい振る舞いをと躾けられてきた。

 成長し、夢見神ソーニョの声を聴き神官となってからもそれは変わらない。むしろ王女だけでなく国の顔とも言える〝聖女〟としての教育も始まった。

 辛かった。泣きたかった。同い年の子は自由に遊んで親に甘えているのに、私にはそれが許されなかった。国の為、民の為。それが私の産まれた理由であり、その為にありなさいと言われ育って来た。

 複数いる神様。その神の教えを覚え、理解し、その真摯な祈りが神に届いた時、神の声を聴き神官となって神の奇跡の一部を使うことを許される。

 夢見神の声を聴いて神官となった私はその夢見神の神殿がそれをきっかけに政治に介入しようとして、それを陛下であるお父様が厳しく躾けることで阻止しているのだと理解したのは、もっと後になってから。

 とにかく子供の私は毎日が嫌で嫌で仕方なかった。国や民がどうなろうと知ったことではないとすら思った。

 だけど、ある日の出会いが私を変えた。


『は、初めまして、レイクリウス様。王女、サクラと申します……』

『はい、初めまして、サクラ様! 俺はレイクリウス=グランドールって言います!』


 聖剣に選ばれた〝勇者〟の出現。それは国にとって強大な意味を持つ。

 初めて私が勇者である彼、レイクリウス=グランド―ルと出会った時、彼は屈託なく笑う太陽のような人だった。


(どうしよう。何を話せばいいんだろう……)


 困惑する私に、しかし彼は笑いかけてくれた。


『俺〝勇者〟っていうのがどういうものかよく分かっていません!』

『っと、それは……』


 いきなりの言葉に言葉を失った。だけど、


『でも、出来ることをしていこうと思います! だから、サクラ様、どうしていけばいいか、教えて行って欲しいです!』

『っ私、が……ですか……?』

『はい!』


 明るく、分からないと胸を張って言える彼は……すごく新鮮で、好ましいと思えた。何よりも、勇者である彼も私同様何をしていけばいいのか分からないと言ってくれたことに安堵した。分からないのは、私だけじゃないと。そう思えた。


『〝勇者〟として、俺がこの国でどうしていけばいいか、どうすればこの国を良くしていけるのか、教えて欲しいです! 俺、本当に〝勇者〟初心者なんで‼』

『ふふ……そう、ですね。一緒に頑張ってこの国を良くしていきましょう』


 一緒に、という言葉が自然と声に出た。


『はい‼』


 肯定してくれる彼に知らず私は笑みを返した。

 この時、私は一人じゃないと分かった。どんなに辛く苦しくても、私には彼が居る。彼が居てくれるのだと。


(一緒に、居てくれるんだ)


 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、私は独りじゃない。

 だからこそ――


(がんばろう‼)


 そう、思えた。

 この時の私は、人の心は不変だと、ずっと同じであると――信じて疑わなかった。







 次に彼に会い〝勇者〟であることが重荷であると知るまで。

 サクラ編、開幕です( ̄▽ ̄)

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