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27. アルバス編 完 罪と罰――全てはアルバスの目論見通り――

 シャンパンを顔面にかけられた僕はそのまま控室へと戻り、手早く着替える。


(幸い透明なシャンパンだから洗えば綺麗になるかな?)


 あんなことがあった後でもそんな風に考えてしまう自分は、三つ子の魂百までの言葉通り一般市民感覚が一生抜けることはないのだろう。

 そんな風に自嘲していると背後から呼ぶ声。


「アルバス、無事……か?」

「サクラ様……」


 振り返り、会場に居る筈のサクラ様の姿を見て驚く。


「会場にいらっしゃらなくて大丈夫なのですか?」

「少しの間くらい平気じゃろ。それよりも、そなたは大丈夫か?」


 ジッと僕を見つめるサクラ様。だけど、


「大丈夫です」


 そう、笑顔で伝える。


「きっと……僕よりもレイクリウス様の方が……ユミルを幸せに出来るだろうから」

「……そうかのう」


 本当か? と胡乱気な雰囲気を漂わせるサクラ様を尻目に僕は急ぎ黒装束に着替える。


「すみません。後のこと、よろしくお願い致します」

「……分かった。此度のことはそなた自身に関わること。全てそなたの采配通りにしよう。ただ……」


 そっとサクラ様は僕を気遣うような視線で一言。


「後悔だけは、せん方がええぞ」


 後悔、ね……。


「大丈夫です」


 僕はそれに笑顔で返し、部屋を後にした。そして――




   ◇   ◇   ◇




 『邪竜』討伐の祝賀会の会場。その会場である建物内に設置された庭園の噴水近くのベンチに腰掛ける二人。即ち、ユミルとレイクリウ様。

 それを確認し、近くの木々に黒装束姿で隠れる僕。


(取り合えず、他に人は居なさそう……だな)


 ほっと一息吐く。ユミル暗殺の一件で緊張したが、どうやらもうユミルに興味は無いらしい。ユミル暗殺に踏み込んだ一派はサクラ様に捕まり、それ以降同じような考えを持つ輩は出現していないと見てよさそうだ。


(でも、ユミルはレイクリウス様と懇意にしているとなると、今度はレイクリウス様を呼び戻すためにユミルをどうにかしようと思う一派が出てきそう)


 イタチごっこ、という言葉が脳裏を過る。


(大丈夫、レイクリウス様と一緒になれば、ユミルはレイクリウス様の庇護下に置かれる。おいそれと手出ししても返り討ちに遭うはず)


 それが、僕の考えた計算。

 だけども。




「ユミル……俺と、付き合って欲しい」




(ああ、嫌だな……)


 レイクリウス様の言葉一つ一つに、胸が締め付けられる。




「だけど、君は他の人と違うんだね」




(どうして、僕は身を隠してこんな言葉を聞いているんだろう……)


 自問し、すぐにユミルの身を守る為と答えが出、それに自嘲する。本当、馬鹿だ。




「だから……俺は、君と一緒に居たいと思った」




(そうだよね。ユミルは良い女だもん。僕なんかよりも、レイクリウス様の方が……〝勇者〟様の方が、彼女には似合っている)


 分かり切ったことだ。戦争で疲弊し心をすり減らした平民でしかない自分よりも、貴族出身で勇者であるレイクリウス様の方がユミルの将来の相手としては好条件だと。




「信じられないなら、何度でも言う。俺と、付き合って欲しい」




(それなのに、それなのに……)


 ドクドクと心臓が高鳴る。嫌な予感。その先を聞きたくないという拒否反応。醜い自分の心が暴かれそうになる。


(どうして、僕は――)


 彼女が断ることに、ほんの少しでも期待してしまうのだろう?

 永遠のように感じられた、刹那の瞬間。




「っはい……! 宜しく、お願いします……!」





 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………





 そっと、その場を気付かれないように後にする。

 ポタポタと瞳から熱い液体が零れる。

 分かっていたことだ。そして狙っていたことだ。自分ではユミルを守り切れない。だけど、レイクリウス様ならば、守り切れる。

 彼女と一緒になる。それは自分の夢、自分の望み、その為に今まで頑張って来た。

 だけど。


「それは……ユミルにとって、最善じゃない」


 命の危険を被ってまで、自分と一緒に居て欲しいか? 戦争のせいで武器がないと落ち着かないようになった変貌した自分の人生に彼女を付き合わせたいか? 本当にそれが、彼女の幸せだと断言出来るか?

 否。出来る筈がない。だから、だからこそ、


(僕は、身を引くべきなんだ)


 劇で見た男女の恋愛小説。男の気持ちが分かる。愛していても、未だ未練があっても、それでも別れないといけないこともある。

 だから、せめて……せめて、代わりの幸せを用意してあげた。


(レイクリウス様がユミルのことを好いて下さるかは賭けでしかなかったけど)


 それでも勝算はあった。ユミルは人の本質を見抜き、それで人を好きになる女性だ。レイクリウス様の〝勇者〟ではなく自分を見て欲しいという願いを、ユミルなら見抜けると思っていた。

 そうなれば――レイクリウス様は、ユミルのことを好いて下さる。

 後は、ユミルの選択次第。それは僕が決めれることでも、予想すべきことでもない。ユミルの幸せは彼女が決められる。僕はその選択肢を増やしたに過ぎない。

 そして――ユミルは幸せになるべく、レイクリウス様を選んだ。僕の願い通りに。


(これで、良い)


 レイクリウス様と一緒になれば、聖剣を持つ〝勇者〟の庇護下におかれる。暗殺や拉致の危険はまだあるが……自分と一緒になるよりはずっとずっと安全だ。

 これで全ては、丸く収まった。

 そう――つまりは、


(僕が、彼女を諦めさえすればいいだけのこと)


 そっと歩いて来た道を振り返り、姿は見えないユミルに向かって最後の言葉を伝える。


「ユミル……どうか、幸せにな……」


 大粒の涙を零しながら、僕は興味もなければ好きでもない祝賀会へと戻って行った。

 ただの一度も振り返ることなく、決別する為に。




   ◇   ◇   ◇




 どうかこれを読んだ方。果たせない約束を交わしてしまった僕に相応しい罰を。

 それかせめて記憶してください。アルバス=ソレイグという男が愛した女性にせめて出来た償いを。




 ――――――〝聖騎士〟アルバス=ソレイグの日記より抜粋。

 アルバス編、完。そして次回よりサクラ編、開幕(>_<)

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