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23. アルバス編 ⑥ 王位十戒

 騒然となる謁見の間。しかしレイクリウス様は粛々とその場を去る。


「ぁ……」 

「………………」


 一瞬レイクリウス様と目が合い、更にサクラ様と見つめ合った。が、特に何も言うこともなく謁見の間を足早に去るレイクリウス様。

 ざわめく部屋。これどうするんだろう、と何処か他人事のように感じながらも同時にどうしたらいいのかと冷や汗を流す自分も居て。

 そんな中、


「陛下。私からも宜しいでしょうか?」

「お、おお……サクラか。う、うむ……そちはどのような褒美が欲しい?」


 陛下のお言葉にサクラ様はその場の空気等微塵も気にした様子もなく立ち上がって前へ出、そして再び跪く。


「はい。私の求めるものは王室での法です」

「――何?」

(王室での、法……?)


 ざわめきが大きくなる中、サクラ様はそっと用意していた羊皮紙を取り出す。


「一つ、無駄で難解な法を廃して明瞭かつ実用性のある法律に整備すること。二つ、戦を慎み武勲を求めず平和を尊び規律正しい軍を成すこと。三つ、宗教を政治に持ち込まないこと。四つ、爵位や血統ではなくその者の能力を鑑みて相応しい役職に就けること。五つ、領地を治める貴族が正しく政を行っているか監査する部署を設立し、取り締まること……」


 サクラ様の声が進むにつれざわめきが大きくなる。特に、貴族と神官達は顔を見合わせ、青ざめているものもいる。


「六つ、賄賂を厳しく取り締まること。七つ、税を見直し節制に努めて財政を安定させること。八つ、如何なる身分の者であろうとも法の下平等に裁判を行うこと。九つ、諫言に耳を傾けること。そして最後に王の配偶者の身内だからとむやみに高位の役職に就けさせないこと……」


 そっと羊皮紙から目を離し、陛下と視線を交わすサクラ様。


「以上十か条を『王位十戒(おういじゅっかい)』と呼称し、王位を継ぐ者も従うべき法として定めお認め頂く。それが私の求める褒美です」

「……む、う」


 唸る陛下。当然だ。下手をすれば今までの王侯貴族間の常識を一瞬で覆すような法の制定をサクラ様は求めているのだ。即断など出来る筈もない。


「お、お待ち下さい、サクラ様! そ、そのような法を議会も通さずに……!」

「陛下は『邪竜討伐に貢献した者には国王の力を以て可能な限りの恩賞を与える』と仰られ、また私に働きを認めて褒美を取らせるとお認めになられた。ならば、多少の無理もお認め下さって然るべきでは?」

「し、しかし……‼」


 どこぞの貴族が尚も言い募ろうとしたが、その前に陛下が片手を挙げて制止する。


「即断は出来ぬ。が……確かにサクラの言う通り。大臣達とも話し、可能な限りそちの求める法を整備させよう。先の法の書かれた羊皮紙、取り合えず預からせてもらうぞ」

「然るべく」


 粛々と従者に羊皮紙を渡すサクラ様。謁見の間にはレイクリウス様とサクラ様の発言によるざわめきが渦巻き、収拾がつかなくなりつつある。


「ふむ……レイクリウスとサクラ、二人の求める褒美が意外だったせいか皆混乱しているな。今日のところは一度これで終いとし、後日改めて他の者の恩賞を聞くとしよう」


 陛下の言葉を皮切りに謁見は一度お開きとなった。


(ど、どうなるの……)


 取り合えずまあ自分はお金かなあと褒美について軽く考えていた僕は、口元が引きつりながらその場を後にした。




   ◇   ◇   ◇




 その夜、部屋に突然の訪問者に僕は驚いた。


「サ、クラ……様……」


 驚きから一瞬大声を出すも、すぐにただならぬ気配を感じて声を抑える。ローブ姿で身を隠すサクラ様も頷いて眼だけで「入って良い?」と尋ね、僕はそれに頷き中へと通す。


「どうされたのですか、サクラ様……こんな夜更けに僕なんかの部屋に……」

「アルバス……すまん。が、先に伝えた方が良いと思っての」


 何処か緊張した面持ちのサクラ様。こんな風にサクラ様が緊張するなんて珍しいと何処か他人事の様に感じる。


(もうすぐお別れするから、挨拶とか? ……そんな訳無いか)


 だからこそ――そんな風に全く思っていなかったのだ。


「アルバス」

「はい」

「――――――そなたの婚約者、幼馴染のユミル嬢が暗殺されかけた」

「………………へ?」


 自分や自分の周りの人間が、陰謀に巻き込まれるなんて。 

『王位十戒』の元ネタ……というか参考にしたのは、中国の姚崇の大綱十条というものです。

原文は残っていない上に結構変わっている部分も多いですが。

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