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22. アルバス編 ⑤ 最後の戦い――のはずだったのに

 幾つもの戦いを経て、転戦を繰り返し、時に人同士の足の引っ張り合いを挟みながら、遂に魔物を統率する『邪竜』の住まう生息地まで軍が差し迫っていった。

 どれほどの人が亡くなったか。どれほどの被害を被ったか。どれほどの血と涙が流されたのか。

 それも、もうすぐ決着がつく。


「………………」


 じっと用意された部屋で掌にある押し花の栞を見つめる僕、アルバス。

 何の変哲もない白い花の栞。けれども、自分にとっては大切な思い出。


(もうすぐ、終わるよ……)


 この押し花の前、生花を渡してくれた少女にそっと心の中で語り掛ける。

 その名も知らない少女は、もうこの世にはいない。ある日魔物の襲撃の報を受けてある小さな村へと急行。急ぎ魔物を排除しどうにか村を守れたと安堵した所に少女が現れ、この白い花をくれたのだ。


『たすけてくれてありがとう!』


 舌たらずながらも感謝を述べてくれた少女。こちらも笑顔で花を受け取った。

 まさか――その数日後に別の魔物の群れの襲撃でその村が壊滅するとは思いもよらなかった。

 転戦の為馬で移動していた僕等はその報告を受けて急ぎ反転。村に駆け付けるも一足遅く……村人のほとんどが魔物の群れによって殺されていた。

 その中には――その花をくれた少女も含まれていた。


『そん、な……!』


 腕を、腹を、魔物の牙や爪で引き裂かれた少女の遺体。顔が奇跡的に無傷で残っていた為運よく判別出来た。

 これでも、まだ遺体があるだけマシな部類。


「………………もうすぐ、終わるよ」


 渡された花を押し花にして栞を作り、ずっと身に着けている。ちらりと壁を見れば立てかけられた自分の獲物であるハルバード。何時の間にか、武器を直ぐに手に取れるよ位置に置いておかないと、落ち着かなくなった。

 緊張ばかりで心が休まる日は全くない。休みをもらった時さえ、急な出撃命令が来るのかもしれないと備え、警戒する日々。

 だけど、それももうすぐ終わる。


「アルバス、良いか?」

「サクラ様!」


 ドア越しに呼ばれ急ぎ出る。


「すまんな。部隊の配置が決まったので早く知らせようと思ってな」

「そんな、申し訳ありません。自分がサクラ様の下へ行くはずのところを……」

「よい。体を休めよ。これが……」


 持って来た巻物をアルバスに渡すサクラ。言葉が一瞬詰まるも、あえて力強く……詰まった言葉を言い切る。


「これが――最後じゃ」


 サクラ様の言葉に、僕もまた無言で頷いた。




   ◇   ◇   ◇




 矢と攻撃魔術が無数空を舞う。刃がぶつかる剣戟が鈍く響く。


「退くな、行くぞぉおおおおおおおお!


 〝勇者〟レイクリウス様の声に従い兵士と騎士達が一斉に戦場を駆けあがる。


「ガァアアアアアアアアアア‼」


 『邪竜』の咆哮と共に口から放たれる火が兵士達を飲み込む。火だるまになる者、盾で防ぐ者、足並みが揃わず怯む兵団。しかし、


「回り込むんだ! 翼を狙って敵を撃ち落として!」


 遊撃隊を任され、馬に乗って疾駆する僕。僕の指示で後ろに付いて来ている配下の兵士達が矢を番え黒色の『邪竜』を狙う。


「援護する! 密集陣形を維持したまま前へ! 進むのじゃ!」


 〝聖女〟サクラ様の号令で進む戦力の要である中軍が行軍する。巨大な盾を前方に並べ、その隙間から長槍を覗かせる密集陣形。その隊列を崩さず『邪竜』へと迫る。

 そして、


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア⁉」


 最初は、何が起きたか分からなかった。しかし、『邪竜』が倒れ、黒い霞となって消えていき……その巨体が消え失せたことで、ようやく理解する僕達。


「勝った……」「勝ったんだ!」「やったぞぉおおおおおおおおおおおおお⁉」「うぉおおおおおおおおおおおおおお⁉」「万歳プロスペリタース!」「万歳勇者レイクリウス様、聖女サクラ様‼」「我等プロスペリタース国に栄光あれえええええええええええ!」


 無数の勝鬨が叫ばれる。どっと疲れが噴出してその場に崩れる僕。


(嗚呼……漸く……漸く……!)

「終わったよ……皆……ユミル……」


 白い花の押し花の栞、そしてもう一つユミルとの婚約の証である指環を両手でそれぞれ握り締め……僕は涙を零して此処にはいない二人に報告した。




   ◇   ◇   ◇




 魔物を統率する『邪竜』の討伐。これに成功した今魔物達の勢いはなくし、後は掃討するのみとなった。

 とはいえ戦いの傷跡は深い。これには長い年月がかかるだろう。

 しかし僕等は大丈夫だと楽観視していた。『邪竜』を討伐出来た直後で気分が高揚していたというのもある。しかしそれ以上に二人の英雄の存在が大きかった。

 即ち、〝勇者〟レイクリウス様と〝聖女〟サクラ様の双璧とも言える英雄の存在。

 この二人がいる限り、きっとこの国は大丈夫。何なら二人が結婚し、この国を末永く繫栄していくものと勝手に考えていた。

 各言う僕も何故だか〝聖騎士〟なんて言われるようになっていて、実際サクラ様の口添えで騎士の位を賜っていた。

 だけどもこれ以上出世を希望することはない。功績の対価としてお金を貰えればそれでよかった。後はきっと二人が何とかしてくれる。

 そう、そんな風に僕は――僕達は、勝手に信じていた。




「俺が求める恩賞は〝自由〟です」




 〝勇者〟レイクリウス様の謁見の間でのその発言を聞くまでは。

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