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21. アルバス編 ④ 触らぬ神に祟りなし、藪をつついて蛇を出す――とは言うけれども

 徴兵された僕アルバス。何故だか〝聖女〟サクラ様の側近(?)みたいな立ち位置に収まる羽目に何故かなったのだ、が。


「北方方面に王都から援軍を派遣せい。物資の補給路も確保せよ。南部はそのままでよい。援軍要請? は、報告にある数を見てから物を申せ。救援要請を出している南部の貴族が高位貴族だからと優遇してどうする。切羽詰まっている所が優先じゃ。東西の貴族達からも助勢と物資の確保をさせよ。まだ余裕があるはずじゃ。デップル伯の二の舞を決して踏むでないぞ」


 矢継ぎ早に指令を下すサクラ様の姿を見て、


(すごい……)


 思わず感嘆してしまう。


(報告を全て頭に叩き込んでいるんだ。東西南北の魔物被害を完璧に把握した上で、戦況を読み取って瞬時に何処にどれだけの兵を補給物資が必要か計算している……その一つ一つが早いのに的確だ!)


 生唾を飲み込む。正直、思っていた。上の人は何も知らないのだと。所詮徴兵された僕等国民のことなんて使い捨ての駒としか見ていないのだと。

 しかい――少なくとも、彼女は違った。曲がりなりにも自身で軍を率いて最前線へとやって来て魔物を退け、その上一介の徴兵された兵士でしかない僕の素性を調べ、その上で重用し、更には全ての報告を目にして決して無理な指令を出さない。


「サクラ様! 急ぎ援軍の指令をお出し下さい! 援軍さえ用意すれば魔物の群を下せるはずです!」

「ふむう……」


 淡々と指令を出していたサクラに横から別の騎士(恐らくは中堅どころの貴族)がサクラ様に指令出す様じれている。しかし彼女はじっと地図と報告書を見ながら微動だにしない。と、


「アルバス。そなたならばこの戦況、どう見る?」

「へ⁉ 僕……ですか……? ええっとぉ……」


 いきなり話を振られて困惑するも言われるがまま地図と報告書とを見比べる。


(う、うーん……これ、は……)

「どうじゃ?」


 促され、その瞳が試しているようなので……素直に自分の考えを述べてみる。


「僭越ながら……自分ならばこの報告と要塞、そして地理から見て……援軍の必要があるとは思いません」

「っ何故⁉ 今目の前に魔物の軍勢が押し寄せているのですぞ! 時をかければ更に集まってくる可能性もある! 今のうちに叩いておかなくては後々の禍根に繋がるやも……!」

「その判断の根拠は?」


 食って掛かる騎士を一瞥もせず片手で制止しサクラ様が先を促す。


「はい。まず敵魔物の群れがそれほど統率が取れておらず、確認された魔物の知性は高くないモノがほとんど。それと飛行出来る種類の魔物がいないことが分かっています」

「うむ」


 首肯し先を促すサクラ様に頷き返し続ける。


「敵魔物郡に統率出来る程の知性がない以上は集団戦闘は不可能であり飛行出来る魔物も居ない以上堅守に務めていれば少なくともこちら側の被害は格段の少なくなります。魔物達はやがては飢えから共食いを始める可能性が高く、そうなってからこちらが攻勢に出ることで損害を軽微に抑えられるかと」

「っし、しかしそれでは砦付近の村や街の人々の不安を払拭出来るとは言えないのでは⁉ 敵を撃滅せねば物資の運送にも支障が……‼」

「地理的に、砦を介して輸送しなくても迂回すれば多少は日数は増えますが十分輸送経路は確保出来るかと。物資の輸送経路を優先するよりは、兵士達の人命を優先し堅守に務めるが最善ではないかと……そう自分は考えまし……た」


 言葉が尻すぼむ。騎士らしき人が言葉が進むにつれ無言で此方を凝視してくるのが怖い。ついでにサクラ様がどう思っているのか表情で読み取れないのも怖い!


「む、う……」


 唸る騎士。何なの? 異議申し立てあるならはっきり言って。いややっぱ言わずに隣のサクラ様と話し合って。僕を巻き込まないで?

 だらだらと冷や汗が流れる。妙な空気の流れる微妙な間。しかし、


「くく……良く戦況を熟知しておるわ」


 サクラ様の何処か満足そうな声。あ、合ってたの? というか試されたの? 一兵士の意見を聞きたい訳じゃなかったの?

 どういうつもりなのか分からず曖昧に笑みを浮かべて微笑を返す。こ、このコミュの返し方も合っているのか分からないんだけどもね⁉


「此度はアルバスの言った通り堅守に務めるよう砦側に通達。軽はずみに攻勢に出ないよう言い含めよ」

「はっ! 了解しました!」


 騎士はサクラから指令を伝えられると今度は何も言わずに迅速に部屋から出て行く。


「アルバス」

「はいっ!」


 名前を呼ばれて背を伸ばす。な、なんでしょうか⁉ さっきの発言おかしかった⁉


「そなたの先の説明、なかなかに見事であった。誉めて遣わす」

「え゛」


 びしっと固まる。素直に受け止めて良いのか? そもそも誉められるような行為なのだろうか?


「くく……素直に受け止めよ。先の騎士や砦の連中、恐らくは私か〝勇者〟の出陣を期待しておったのだろう」

「っサクラ様か……〝勇者〟様を……ですか?」


 困惑するアルバスに頷くサクラ。


「左様。まあ珍しいことではない。何処もかしこも英雄を求めている。そして英雄に助けられるのも、な」

「英雄……ですか」


 アルバスの確認の言葉に再び頷くサクラ。


「然り。皆英雄を求め、助けてくれるのを期待しておる。自分では、自分達ではどうにも出来ないことでも、英雄である〝勇者〟や〝聖女〟であればどうにか出来ると思い込んでいる。全く……他人頼りよな」


 皮肉な笑みを浮かべるサクラ。その発言に含みがあるのを感じ、恐る恐る確認する。


「その、サクラ様は何かあったのですか? 例えば……〝勇者〟レイクリウス様辺り、と……」

「………………そなたは勘も鋭いの」


 ニヤリとどこか達観したように微笑むサクラ。


「まあ、一言で言えば……彼と私は、袂を分かったからのう」

「は、はあ……へ?」


 言葉の意味を理解し声に出して驚く僕。しかしサクラ様は頬杖を着いたまま一瞥もせずに、


「ま、英雄なんて割に合わん務めよな」


 と返すのみ。

 この時の僕は、サクラ様の言っている意味も、その言葉の重みも、それが全て真実であることも、何もかも……理解していなかったのだ。

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