17. レイクリウス編 完 旅立ち――そして
「これで、いいかい?」
「はい。大丈夫です」
鞄を両手で持ったユミルはレイクリウスに返事する。
「最初は招待ついでに王都で住み込みの仕事を探そうと思っていただけなのに……なんだか不思議な気持ちです」
「はは、そうだね」
朝日が差し込む中レイクリウスの屋敷前でクスリと笑い合うユミルとレイクリウス。
「取り合えず、今日は魔術でユミルの村に移動して、ご両親に報告……で良いのかな?」
「はい。本当は手紙で伝えるつもりだったのですが……転移魔術が使えるのなら」
頷くユミル。そしてふと疑問が浮かぶ。
「そういえばどうしてレイクリウスさんは私を王都まで馬車で連れて行って下さったんですか? 転移魔術が使えるなら、それで村と王都を行き来した方が早いのに」
「んー、俺にもよく分からないんだが……サクラがそうしろって手紙に書いて来てな。まあ一度行ったことがないと転移魔術は使えないから、どのみち俺は馬車でユミルの村まで行かなきゃだし。たぶん俺やユミル、お互いの心の準備が出来る様にあえて馬車にしたんじゃないか?」
「な、成程……」
レイクリウスの言葉に説得力があるので納得するユミル。
(確かに、いきなり婚約破棄された状態で王都に魔術で直行だと心の準備が出来ていないかも)
「さて、それじゃユミルの村にいこう。確認だが、暫くは王都の俺の屋敷で暮らすってことでいいのかな?」
「はい」
レイクリウスの言葉に頷くユミル。
「レイクリウスさんが良ければ、ですが……それで王都で仕事を見つけて給金貰えたらな、と」
「ふふ、まだ仕事を探すのは止めてはいないんだね」
「あ、はい。その……やっぱりレイクリウスさんに全部依存するのはいけないと……部屋まで貸してもらってその上ご飯まで頂いて何も返さないのは……」
「ふふ……ありがとう」
ユミルに笑い返すレイクリウス。ずっと〝勇者〟として依存されて来た彼にとって、決して自分を当てにしょうとしないユミルの意思はとても好ましいものだった。
「じゃ、今日はユミルのご両親にお付き合いしているのと暫くは王都で暮らすという報告だけになるのかな?」
「はい。宜しくお願いします」
頭を下げるユミル。レイクリウスは微笑み……ついでに気になっていたことを尋ねる。
「ユミルは、今後王都で暮らしたいかい? それとも、自分の生まれ故郷で暮らしたい?」
「え? それは……うーん……」
悩むユミル。確かに王都は華やかだし自分の村ではアルバスとの婚約破棄で腫れ物状態。王都で仕事を探して住み込みで働こうとは思っていた。しかし、
「どう、でしょう。レイクリウスさんが良ければ、王都でも自分の村でもどっちでも私はいいんです。ただ……」
王都の街並みに視線を移し、ふっと哀愁漂う微笑を浮かべるユミル。
「私にはこの王都は……ちょっと華やか過ぎて……眩し過ぎ、でしょうか」
「そうか」
それに満足げに微笑むレイクリウス。
「俺も、王都にはいい思い出が無いから……その気持ち、分かるよ」
華やかな街、賑やかで活気のある王都。だけども、それ故に狂ってしまった自身の両親を思い出して黄昏るレイクリウス。
「出来れば、ユミルの村も案内して欲しいな。その、村でユミルが暮らしても良いと思えるのなら」
「っ!」
ドキッと心臓が高鳴る。本当に、この方は私のことを好いてくれているのだと理解し自然と笑みが零れる。
「っはい!」
その高鳴りのまま、ユミルは満面の笑みを返したのだった。
そうして準備が出来た二人は転移魔術を使ってユミルとアルバスの生まれ故郷へと旅立っていった。
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その光景を国所有の高い建物から眺める人影が二つ。
そのうちの一人、白いローブ姿で身を隠した女性はそっともう一人に問いかける。
「良かったのか、アルバス。そなたはこれで?」
どこか愁いを帯びた女性の声。しかしもう一人、黒いローブ姿の青年アルバスは無言で眉一つ動かさず視線もそらさず頷く。
「はい。これで良い……いえ、これが良いんです」
きっぱりと答えるアルバスの姿に、白いローブ姿の女性――〝聖女〟サクラは一つ溜息を吐いたのだった。
次回より、アルバス編……スタートです( ̄▽ ̄)
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