14. レイクリウス編 ① 勇者の過去――羨望と絶望
御伽噺に出て来る〝勇者〟に憧れる。誰だって一度は経験があるだろう。
その御多分に洩れず、この俺レイクリウス=グランド―ルもまた、幼い頃は勇者を夢見る活発な少年だった。
産まれは男爵家の次男と貴族ではあるものの……家を継ぐ長男ではなく次男、おまけに格が五段階の爵位で最下位の男爵であることから、レイクリスは貴族としての自覚がかなり低かった。両親や兄もまたそんな彼を人として躾けはしても……貴族として一人前に躾けようとはしなかった。
幼き頃は自分の領地で普通に領民の子供と遊びに耽り、同時に勉学や剣術を学びゆくゆくは剣で生活出来るように、可能ならば騎士団に入れるようになればいいと淡い期待をしながら成長していった。
しかし――俺が〝勇者〟の証である聖剣を召喚し、〝勇者〟と国が認めてから……俺の世界は変わった。
『は、初めまして、レイクリウス様。王女、サクラと申します……』
『はい、初めまして、サクラ様! 俺はレイクリウス=グランドールって言います!』
聖剣を召喚し〝勇者〟と認められてから初めて王都に家族で呼ばれ、そのまま第一王女サクラと顔を合わせることになった俺、レイクリウス少年。俺側の関係者は俺が何かサクラ姫に不躾なことを言うかしないかと戦々恐々し、サクラ側もまた姫が勇者となった少年と喧嘩したりしないかと不安になりながら二人の成り行きを見守る。
『俺〝勇者〟っていうのがどういうものかよく分かっていません!』
『っと、それは……』
幼い俺の突然の発言に戸惑うサクラ。
『でも、出来ることをしていこうと思います! だから、サクラ様、どうしていけばいいか、教えて行って欲しいです!』
『っ私、が……ですか……?』
『はい!』
幼い少年と少女の会話。傍から見ていて微笑ましい光景だろう。
『〝勇者〟として、俺がこの国でどうしていけばいいか、どうすればこの国を良くしていけるのか、教えて欲しいです! 俺、本当に〝勇者〟初心者なんで‼』
『ふふ……そう、ですね。一緒に頑張ってこの国を良くしていきましょう』
そう言って微笑を浮かべるサクラ。
『はい‼』
そう、百点満点笑顔の浮かべる俺。
この時の俺は、この国で〝勇者〟になるとはどういうことか、その結果何を得て何を失うか、まるで何も分かってはいなかった。
◇ ◇ ◇
『ただいま、戻りました……』
王都に用意されたグランドール家所有の屋敷に数カ月ぶりに戻った俺。元気がないのは転戦に次ぐ転戦を繰り返していたから……だけではない。
『あはははは~♪あら、お帰りなさい。今日戻る日だったのね』
そう言って浮かれている顔を向けたのは、俺レイクリウスの母親……なのだが。
『母さん……また宝石買ったのか? 前はほとんど買わなかったのに……』
『いいでしょー
カラカラと笑う母。ぐっと押し黙る俺。
『……父さん、は?』
『カジノにでもいるんじゃない? ずっとそうじゃない。今更訊かないでよ』
『……うん』
母の言う通り、父はだいぶ前から賭け事に嵌まり賭博所に入り浸っている。
湯水のごとく金を消費する二人は、自分の領地に戻ることなくこの王都に用意した屋敷で華やかな……というにはいささか以上に金銭が絡みすぎた生活を送っている。もうずっと前からそう。領主代行を自分の領地に送り、自分達は王都での自堕落な生活に耽り続けている。
『おっと、もうこんな時間。舞台が始まっちゃうわー』
そう言って数カ月ぶりに死線を潜り抜けて来た息子を顧みることなく馬車へと乗り込む母親。
『――――――っ』
手を伸ばして何か言おうとし……結局何も掴めず言えず、その場に立ったまま母親を見送る俺。
『レイ……』
そんな俺の肩を後ろからぽんと叩く人。
『兄、さん……』
振り返る俺。最早愛称の〝レイ〟という名前を使う人は、この兄だけになった。嘗ては自分の領地の使用人や領民の子供も〝レイ〟と親し気に言ってくれたが……今では畏れ多いと跪かれるか、或いは「お恵みを」と施しを求められるか、或いは「なんであいつが」と嫉妬の瞳で睨まれるかしかしない。
『あの、俺……』
『うん、分かっている』
そう言い放つ兄の顔は、何処か疲れ切っていた。
『領地や両親のことは俺に任せろ。お前は自分のことだけ考えてくれ。せめて……』
せめてそれくらいは、という最後に付けたされた兄の言葉がズシリと俺の心を穿った。
(もう、兄さんでも止められないんだ……)
変わっていく、否。狂っていく世界。歪んでいく両親に周り。おかしいのは、俺か、世界か?
◇ ◇ ◇
変貌した両親と会わないように、変わっていく両親に会わない為に、ひたすら転戦を続けた。終わることなき、飽きること無き魔物との戦い。場所を変え、ひたすらに戦う日々。
『ありがとうございます、勇者様!』
助けたことによる感謝の言葉。
最初は嬉しかった。自分が戦ったことで、救えた人がいたと。おとぎ話のように、自分でも人を救えるのだと。聖剣を召喚できたからではなく、〝勇者〟と認められたのだと。
だけども、
『助けて下さい勇者様』
幾度も幾度も、
『助けて下さい勇者様』『助けて下さい勇者様』
来る日も来る日も、
『助けて下さい勇者様』『助けて下さい勇者様』『助けて下さい勇者様』
その繰り返しだった。
そして、
『どうして、どうしてあの子は死ななくてはいけなかったのです!』
唐突に、限界は来た。
『〝勇者〟なのに、どうしてあの子を助けてはくれなかったのです⁉ 〝勇者〟様⁉』
ある一人の女性の一言で、俺の心はぽっきりと折れた。
(ああ、そうか。俺は……)
『俺は……この国の人全てを守る、理想の都合の良い〝勇者〟としてしか見られていないんだな』
その事実に、絶望した。
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