13. ユミル編 完 「君が欲しい」――そう言って抱きしめてくれた手は温かかった
レイクリウスに手を引かれるまま、二人は会場の建物の一階へと降り、そのまま中庭の庭園へと入っていった。夜の庭園には他に誰も人影はなく、二階部分から人の声と音楽とが流れて来る。
「ここなら、いいか」
そう言ってレイクリウスは庭園に設けられた噴水、その傍にあるベンチに二人して腰掛ける。
「ユミル……大丈夫かい?」
「あ、はい。私は別に……」
そう生返事するユミル。為されるがまま同じベンチに座りレイクリウスの顔を向く。そこかばつが悪そうなレイクリウスはぽりぽりと頬をかくと、唐突に頭を下げる。
「すまないユミル」
「え?」
「アルバスの……彼の返事に我慢がならなかった。まだ聞きたいこととか、言いたいことがあったんじゃないか?」
「え、あ、いや……そんな……」
困惑するユミルだが、徐々に落ち着きを取り戻し、ふっと自嘲じみた笑みを浮かべる。
「聞きたいことや言いたいことは……もう、済みましたから」
そう、言い放つ。
「あるとすれば、どうして私を王都に呼んだのか? ぐらいですし……」
なんとなく出てくる疑問。だけども。
「アルバスのことだから、手紙だけじゃ不誠実だからとか……直接会って婚約破棄を伝えたかったとか……直接文句の言いたいこととかあるだろうから呼んだとか、その辺りだと思いますから」
そう元婚約者のことを推理する。
(ああでも、〝聖騎士〟とか言われるようになったし……)
「もしかしたらサクラ様の横に並べるくらい偉くなった自分を見てもらおうとしたとかかもしれないですけど」
ふふっと笑う。が、全然心の中では笑えなかった。そんなことをする人ではなかった、はずだ。しかし、〝聖女〟サクラのエスコート役を任されたアルバスのことを思うと……その可能性も捨てきれないと思ってしまう。
(だけど)
「だけど、いいんです」
そう、言い放つ。
「アルバスが私との婚約を破棄するって言っている以上、私からはどうしようもないですし。今はこれからのことを考えることが大事ですから!」
「……そうか」
力なく相槌を打つレイクリウス。
「「………………」」
しばしの沈黙が二人の間に流れる。
(どうしよう、か……)
尋ねたい、ことがあった。レイクリウスの先の言葉、その真意。だけども、
「あ、の……レイクリウス、さん」
「うん?」
顔をユミルに向けるレイクリウス。
「あ、えっと……その……」
いい淀み……曖昧に聞きたいことをぼかすことにした。
「あ、あの! さっきアルバスにこう……俺が頂くって言ってくれて、すごく嬉しかったです!」
「……本当に?」
「はい!」
無理矢理笑みを作って笑うユミル。
「アルバスに振られた、私のこと……気にかけてくれたんですよね。本当、嬉しかったです。レイクリウスさんがそう言って、アルバスに意趣返ししてくれて……そんな風に、冗談でも何の取柄もない私をフォローしてくれて、私すっごく嬉しかったで」
す、という最後の言葉を、言い切る前に、
「冗談じゃない」
そう、手を握り締められ、否定される。
「ぇ……」
硬直し、目を見開くユミルに、
「ユミル……俺と、付き合って欲しい」
レイクリウスの澄んだ言葉が、庭園に響いた。
「ぁ……」
呆然とするユミルに、レイクリウスは再び口を開く。
「俺は、君が欲しい」
ぎゅっと、レイクリウスの両の手で握りしめられた自分の手が、夢ではなく現実だと証明してみせた。
次回、レイクリウス編開幕です♪
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