12、
「今日はなんか疲れた……」
グッタリとミルティは自室のベッドにもぐり込む。
今日は色々有りすぎたと、ミルティにはドレスの皺にまで気を回すまわす余力はもうない。
馬車でのルシウスからの指導は、屋敷への到着とともに強制終了となった。
屋敷についたのにも関わらず馬車の中でミルティを離そうとしないルシウスを引き剥がしてくれたのは、満面の笑顔で出迎えてくれたサリーだったのだ。
あのタイミングでの母の出現はルシウスに抱きつかれていた姿を見られた恥ずかしさより、感謝の方が強い。そして母がルシウスから引き剥がしてくれた隙をついてミルティは全力で自室へと駆け込んだのだ。
そしてそのままベッドへダイブして今に至るのだ。
「けど、まさかルシウスが――」
あんなに可愛く美しい天使だったルシウス。ミルティミルティと言って常にミルティのそばから離れず天使の笑顔を振りまき癒してくれていたのに。
ずっと義理でも大切な弟だと思っていたのに。
ゴロンと天を仰ぐように転がったベッドでそっとルシウスの唇と重なった自分のそれに触れれば、身体中再び熱を持つのが自分でもわかる。
「ルシウスが私の婚約者になりたがっていたなんて――」
知らなかった。
会場でわかったもう一つの衝撃。
それはルシウスはロウリー家の養子縁組を正式に断り、ミルティの婚約者としてロウリー家に婿入りする方向で改めてルシウスの生家から申し入れをしていたという事実。
もちろんそれはルシウスたっての希望であったという事。
しかもそれは随分と前から行われていた申し出だったという事。
随分前からなんてまったく気づきもしなかった。
父と母ですらそんなことは教えてくれていなかったし、ルシウス本人だってそんなこと一言も言ってくれなかった。
教えられなければいつまでも知ることができるはずがなかったのにと思う反面、ミルティは首を横に振った。
(ううん。違う、知ろうとしなかった)
最近の過激なスキンシップにはきちんと気づいていた。
ただの義弟としてはもてあますくらいのスキンシップ。そこにルシウスを異性として見てしまい少し期待しているような思いもなかったと言えば嘘になる。
でも義弟だと、ルシウスはただミルティに甘えているだけなのだと。義理でも姉弟だからそれ以上の意味はないんだと無理にでも思い込もうとしていた。
万が一ミルティがそれ以上の気持ちに気づいてしまえば、いつか来るルシウスのお嫁さんに嫉妬しておかしくなってしまいそうだから――――。
現にルシウスが女装していたとは言えローゼストとじゃれている姿を見た時は、ミルティの胸中には姉として持ってはいけない黒い感情が渦巻いていたのだから。
だから今回無理にでもルシウスから離れようと一念発起して婚約者探しに奮闘したというのに……。
「今更どうしろって言うのよ。こちらとずっと弟として見ようって頑張ってたのに……」
それでも、社交会場でのキスも馬車での事も、ルシウスに抱き締められていた事も何一つ嫌な気持ちに慣れなかったミルテイは自分に呆れてしまった。それどころか身体が急に火照りだし、慌ててうつ伏せになると感情を抑えるようにして枕に顔を深く埋めた。
義理の弟でないときいてミルテイの中で真っ先に出てきた喜びの感情。ルシウスがミルテイを求めてくれてる事への喜び。
こんな感情を持つなんて――
(そもそも義理の弟として見ようと努力している時点で、最初から私はルシウスを義理の弟として見てなかったのね)
今までの無駄な足掻きを思い出しミルテイの身体の火照りは落ち着きだす。ミルテイは枕から頭を離し体勢を整えると苦笑いをこぼす。
(さてと、さっきは恥ずかしさも有って馬車から急に降りて逃げちゃったけど)
先程逃げるように自室にこもってしまったので、ルシウスが怒ってなければいいなあとゆっくりベッドから降りるとミルテイはドレスの皺を軽く直す。
ベッドにダイブしたり、色々有ったのでせっかくのドレスは型崩れを起こしていた。
それでもゆっくり伸ばせば皺も形も多少は整う。その様はまるで自分の感情みたいだとミルテイは益々苦笑いをこぼしてしまった。
(せっかく今日は素敵に色っぽくオシャレしたんだから、ルシウスにもっと誉めてほしかったなぁ……)
もっと早く、こんなにもこじれる前に教えてくれてたら良かったのに。
「ルシウスのバカ。嫌い」
嫌いじゃないけど。
ミルテイがそう呟きつつ部屋を出ようとした時、扉が勢い良く開き思わずミルティは固まってしまった。
「へ?え?あ……る、ルシウス?」
「なにそれ?嫌いってどう言うこと?逃げるの?逃がさないけど」
そして開いた扉の先には――
相変わらす的はずれな事を呟きつつ、背後に絶対零度を纏わりつかせた天使のような悪魔と化したルシウスがいるではないか。
「あ、あの……ルシウス?」
思わずルシウスの零度に怯えミルティは後ずさってしまったのだが、その動作をルシウスが見逃してくれるわけもなく。
「ミルティ。そんなに距離を取ろうとするくらい俺が怖いの?そんなに俺が嫌い?」
「え?あ、ひぃぃぃ!」
あっという間にルシウスに距離を詰め寄られ、ミルティは近くの壁際にまで追い込まれてしまった。
「ルルルル、ルシウス!ち、ちかっ!近い!それに違う!!」
嫌いじゃないです!嫌いじゃないです!
そう言いたいのに言葉にならないのはルシウスが怖いから。
けれど、ミルティのその怯えがルシウスを益々苛立たせていることにミルティは気づかない。
「そう?俺はもっとミルティに近づきたいよ。それに俺はあんなにもさっき俺の気持ちをミルティに伝えたのに。それなのにミルティは俺を拒否するんだね。そんなの――」
絶対許さないよ。
そう呟くとルシウスは怯えるミルティの首筋に――
噛みついた。
亀ですいません。
題名を改題してみました。
どうでしょう?




