10、
(……で、何がどうしたんだっけ?)
ミルティは暗くなった窓の外を酸素の足りていないぼんやりとした頭で眺めていた。
そんなミルティはなぜか今柔らかいベッドの上にいた。しかも知らない場所の薄暗い部屋で。
たぶんここは先ほどまでいたパーティ会場に設置されている休憩室のうちの一室だろう。
しかし、問題はなぜミルティがここにいるのかという事で。
この際衣装が多少乱れているのは寝ていたせいだろうという事にして置こうと、ミルティは自分で衣装の乱れやしわを軽く取り除きながら考える。
確か、ローゼットにしがみつき泣いていた。
それはなぜか。
ルシウスが養子を断ったと聞いたから。ロウリー家から愛しい女の子の為に出て行ってしまうと思ったから。
それから……。
気づけばパーティ会場になぜかルシウスがいて。その顔は悪魔のようで、とても怖くて。
そんな中ルシウスはロゼの名を呼びながらもミルティに苛立ちをぶつけているようで。
(なんか解せないわ……)
まあいいい。
とりあえずそれは置いておいて……。ミルティはいまだぼんやりし続けている頭をゆっくり傾げる。
そのあとは、どうしたんだっけと再び先ほどまでの出来事をゆっくり思い出し始める。
苛立ちをぶつけられ、バカとまで言われ少し腹が立ったので言い返そうとしたらルシウスが……。
そこまで思い出し、ミルティの頭は急激に覚醒する。
「そうよ!そうなの!そうだった!!」
思い出してしまうと、今度は急激に体が全体に熱を持ち始める。
「なんで!なんで!?」
なんで!!
先ほどまでの行為を思い出しミルティは頭を抱えてしまう。
「どうして?私たちは義理だけど姉弟なのに!あ、でも。養子縁組断られたら、他人?」
いやいやいや。本当に断ったかどうかわからない。
ルシウスはまだロウリー家にいるわけだし。ミルティと婚約しているわけでもない。
そもそもなによりも、ルシウスにはロゼという愛しい人までいるわけで。
「ううう、ルシウスがわからない」
そんな時ふいに薄暗い部屋に一筋の光が差し込み、いつになく低い声が響いた。
「ああ、ミルティ起きた?」
見ればそこにはいつも通りな天使がいて。ただ、いつもと違うのは目が笑っていない事だけ。
「ル、ルシウス。ここは――」
「ここはパーティー会場の休憩室だよ。ミルティはさっき気絶しちゃったから覚えてなかった?俺が連れてきたんだよ」
どこ?と聞こうと思ってミルティが口を開けば、先にルシウスが答えを告げてきた。そして、そのままそっとミルテイがいるベッドの上に乗るとそっとミルテイの頬に手を伸ばし撫でてきた。
その手は熱を持たず、指先まで冷たくヒンヤリとしている。
「それよりミルティ、もう家に帰るよ。ミルティが他の屑に見られるなんて耐えられない。馬車も手配しておいたし。ああそれからもう、こんな会なんて来なくていいよ。今後ミルティは夜会の参加は禁止だからね」
いいよね?
そう囁きながらルシウスはミルティを抱き締め、首筋に顔を埋めてきた。
「ねえ、ミルティ。俺以外の男に何度見つめられたの?俺以外にその可愛い声を何度聞かせた?」
抱き締められた腕に力を込められ、ミルティは顔を少し歪める。
「ル、ルシウス。痛い。それに苦しいわ」
少し離れて。
そう言えばルシウスはゆっくりとミルティの首筋から顔を持ち上げこちらを見つめてくる。しかしその腕の力は緩むどころか益々強くなってしまった。それに、こちらを見つめてくるルシウスの瞳には光はなくドロリとしている。
「ミルティ……。俺から離れるなんて許さない。俺以外をその目で見てその声で話しかけるのも嫌だ」
更に腕に力を入れられ、いよいよ痛みまで感じるようになったミルティは流石に小さく悲鳴をあげた。しかしルシウスはそんなミルティをただ見つめるだけで、いっこうに緩めようとはしてくれない。寧ろ更に力を込めてきているのではないのかと言うほど締め上げられる。
「やっ……ルシウス、やめて。痛い。離して」
「……だめ、離さない。離す訳がない、ミルティは、俺のだ」
「っ!痛いってば!」
そうミルティは叫ぶと渾身の力を込めてルシウスを突き飛ばした。まさかミルティに反撃されると思ってもいなかったのだろう。突き飛ばされたルシウスはよろけるとベッドから落ち脇に尻餅をつく。
「もう!何なのよ!ルシウスは!さっきから俺のだとか、離れるのは許さないだとか!!勝手なことばかり言って。離れていくのはルシウスの方じゃない!何よ、ルシウスの方がバカじゃない」
ミルティは叫びだしたことで、ポロポロと堰を切ったように涙を溢れさせた。
「何よ!離れないでって言いながら。ローゼスト様に聞いたんだから!ルシウスは家の養子縁組を断ったんでしょ!ルシウスは愛しい子と……」
「ミルティ?」
思わず告げようとしたことに胸が痛んだ。そのせいで言いよどむ。そして顔を下に向けルシウスから視線を反らせば、その隙にルシウスが再びミルティに手を伸ばす。それに気づいたミルティはルシウスの手を避けグッとルシウスを涙ながらに睨む。
「もう、止めてよ……。貴方がロウリー家の養子縁組を断っていたって、家にいる間は姉弟みたいなものでしょう!それにルシウスは、ルシウスは……ロゼって子が好きなんでしょう!その子とくっつくために家から居なくなるんでしょう!!」
「は?」
ミルティの一言にルシウスはピシリと固まる。
「……」
「…………」
「……ル、ルシウス?」
「……」
ミルティの目の前で固まり続けるルシウスに、痺れをきらしミルティが恐る恐る話しかければ、今度はルシウスが油のきれたようなぎこちない動きでミルテイの肩を掴み――
盛大なため息を部屋中に響き渡らせていた。
不定期続きます。
ルシウスも以外に苦労人。
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