二十日目 open the door
城の二階にて、意外にも魔王の部屋らしきところはすぐ見つかった。
他の部屋とは明らかに違う、巨大な扉が構えていた。そして、もう既に私の魔法で黒焦げになり、そこに倒れているが、扉の前には二匹の門番がいたのだ。
他の部屋とは明らかに違う、十中八九ここだろう、たぶん誰でもそう思う。
「ここ?」
「うん、たぶん。見えはしないけど、中から魔力が漏れ出てる」
やっとここへたどり着いた。王様に突然魔王を退治してくれと頼まれてから、ここまで来るのにかなり時間がかかった。しかし、それもこれで終わりだ、この中に、諸悪の根源たる魔王がいるのだ。
さっさと倒して、チャルと結婚する!
「チャル、準備はいい?」
「うん。リリスちゃんは?」
「私もいいよ、じゃあ行こう」
私たちはふたりで、その扉を押し開けた。
***
扉を開いて部屋に入る。何故か扉がひとりでに閉まった。部屋の中は薄暗い、何故か窓は無く、部屋の隅に置いてある蝋燭の微かに揺らめく炎だけで部屋を照らしているみたいだ。目がなれていない私には、部屋の造型が細部までは見えない。しかし、それでもここがお城の、王座がある、いわゆる謁見の間という場所であることはわかった。そして、部屋の中心、王座の上に何やら影のようなものがふわふわ浮いているのがうっすらと見えた。
チャルと手を繋ぎ、その影に対面する形で私たちは立っている。部屋は静まり返っており、いつもよりも打つ速度の速い自分の心臓の音が聞こえるような気がする。また、繋いだ手は、私とチャルのどちらのものかはわからないが、汗でぬるっとしていた。
「驚いた……」
影の方から声が聞こえる。
「まさか、君たちみたいなかわいらしいウィッチふたりが、こんなところまでやってくるとはねぇ……」
時間が経つにつれて、段々と瞳孔が開き、この薄暗い部屋のなかでも辺りが見えるようになってくる。
それによって、影の正体も見えてきた。人形だ、王座の上に、長いローブに身を包んだ人形の生き物が浮遊しているのだ。裾も袖も必要以上に長くて、手も足も見ることができないが、少なくとも袖は人間と同じく二本あった。また、その必要異常に長いローブのせいで、やつの肌は口元しか見ることができなかった。目元を見ることができないのは、フードを深く、鼻辺りまでかぶっていたためである。町中にいたら不審者と思われるだろう、そんな見た目だ。これが魔王なのだろうか。
「君が、魔王ですか……?」
魔王というものだから、巨大なドラゴンとかの形をしているのだと勝手に想像していたが、人形だったため面食らう。そのためか、つい敬語を使ってしまった。
「私はダークショス。魔王と言う名前ではないがねぇ……まあ、魔物の王という意味で、そう呼ばれることも少なくないねぇ……」
ダークショス。さっき聞いた名前と同じだ。それに、この人をムカつかせる独特なしゃべりかたも、さっき聞いたあの声のものと同じだった。
やはり、あれが魔王なのか。
「それで、君たちは何をしにここまで来たのです? 君たちのおかげで、私のお城の兵士たちが半数以上天に召されたみたいですが……?」
「私たちが直接被害を被ったわけではないですが……君はずいぶんと人に迷惑をかけているみたいなので、殺しにきました」
「くひっ……」
私の言葉を聞いて、魔王の口角が、少し上がった気がした。
「それと」
チャルが付け加えるように言う。
「それと、私とリリスちゃんの仕合わせな結婚式のためにも、君にはここで死んで貰うね」
「これはこれは……結婚式の意味がわからないが、見かけによらず凶悪だねぇ……ふたりとも……」
「……」
「まさか、初めて私のところに来る人間が、こんな小さい女の子たちとは思いませんでしたねぇ……」
やつが自分の舌で、上唇をぺろりと舐めるのが見えた。
「なんてね……。またしても小さな女の子のウィッチとは、なんという因果かな……?」
「え……?」
"また"とは? 私はそれがひっかかったが、魔王は続けた。
「それにしても、やはり似ているねぇ……あの忌々しい"賢者"に……魔法の質がねぇ……。まあ、ふたりともまだ半人前のようだけど……」
ここで賢者様の名前が出てくるのか。
「賢者様を知っているんですか……?」
「知ってるというレベルではないねぇ……数十年前、一戦交えたことがあるのさ。まあ、当時の私じゃ手も足も出ずに一瞬で封印されてしまったがね」
「……」
そういえば、前に洞窟であったゼリーみたいな生き物が、『魔王は数十年前、どっかの誰かに封印された』と言っていた。このどっかの誰かは賢者様のことだったのか。
「しかし、そんな戦いにおいて異常な強さだったヤツも所詮は人間。寿命には勝てなかったらしい……。いや、ヤツのことだから、寿命に勝つ方法があったとしても、それを選ばなかったのかも知れないがね」
淡々と、魔王が話を続ける。
「というわけで、ヤツが寿命で消えたと同時に私の封印は解かれた。それから数十年、私は虎視眈々とこの世界を征服することを狙っていたわけさ。そして、最近ようやく行動を開始したわけだが、とんだ邪魔が入るものだねぇ……月に叢雲、華に嵐……」
「へぇ……」
「しかし、君たちは少し、いや、かなり嫌な感じがするなぁ……あの賢者と同じ匂いがする。ヤツの子どもではないみたいだが……。たぶん君らはあと数年もしたら、私じゃとても手が負えないくらいの力を身につけるだろうね……あの女の力はそれほど強大だった……。だが、いまは違う、いまの君たちはただの子どもだ。申し訳ないが……私の野望のために、若い芽は摘ませていただくよ……君らがあの賢者くらいにまで成長してしまうと、私としてはとても嬉しくないんでねぇ……!」
殺気!
いままでひたすら淡々と話していただけだった魔王から、強烈な殺気の嵐が吹き荒れる。そのオーラで、ヤツの異常に長いローブが風に煽られているようにバサバサと揺れ始めた。
やはり、話し合いでなんとかなるような相手ではない、こういう捻くれた輩は力でねじ伏せるしかないのか。しかし、元からそのつもりでここまで来ているから問題はない。
ついに……魔王、ダークショスとあいまみえた!
「チャル、準備はいい?」
「準備万端。リリスちゃんは?」
「私もいいよ、じゃあがんばろう」
「君らは美しすぎる愛しか知らない……教えてあげよう……君らに絶望を……」
To be continued.




