十二日目 おつかいふたたび
あのゼリーみたいな生き物の家? に泊まらせてもらったのが昨日。今日は雨も止み、傘に阻まれずちゃんとチャルと手をつなげるようになって、私たちは次の目的地へと向かって歩いていた。まあ、相合い傘というのもあれはあれでいいと思ったけど。
しかし、雨がやんで晴れるかと思いきや、空は雲に覆われていた。でも、私は別に曇りは嫌いじゃない、いや、むしろ一番好きかもしれない。
だって、太陽に当たると暑いし日にも焼けるし、あんまりいいことないよね。一般的にはいい天気っていうと晴れの日を思い浮かべることが多いような気がするけど、なんでだろう?
しかし相も変わらず、ここらへんは魔物が多いみたいだ、でもいまのところ特に問題はないかな。自分たちの町の周りの魔物と比べると気持ち手強いのが多いような気がしないでもないが、強いというほどではない。魔物を倒しても特にいいことはないので、できるだけ避けて行こうとしているけれど、やはり魔物というだけあって、襲ってくる奴が多い。そういうのはしかたなく私が退治をしている。相変わらず魔物の退治は私の担当だった。
チャルはいつも通りに、地図を読みながら私の手を引いてくれる。
「チャル、もうすぐ?」
「うん、もうすぐ」
地図(を読んだチャル)によると、魔王がいるらしい城に行くためにはこの先にあるらしい橋を渡り海を越えて、今いる大陸から隣の島に移らなければならないらしい。その橋が次の目的地だ。
「もうすぐ海岸につくはず……」
チャルが地図を見ながら呟いた。私たちが目的地の橋に近づくにつれて、少しずつ潮の香りが鼻につくようになり、更に歩くと目の前には青い海が見えてきた。
「おおー」
目の前に広がる広大な海を見て、私たちは思わず声を上げた。そして、海の向こう側には私たちがいきたい島も見えていた。
なんというか、海なんて見るのは久しぶりだ。
「凄いねー」
「うん」
ふたりならんで、しばらく海を眺めていた。
ちなみに、ここはいわゆる砂浜ではなく、岩場になっており、目の前は絶壁だった。私たちは、ちょっとした崖の上から、海を見下ろす形になっている。そのためか、かなりの強風が吹き荒れており、それになびかれた髪の毛が顔にかかる。
「そういえば、橋は?」
私はチャルに訪ねた。
「あれ、そういえばないね。ここら辺のはずなんだけどー」
チャルは地図を確認する。
そもそも、島のほぼ半面がここからほぼ見えるけれど、橋など見つからない。橋がかかっていれば、必ずわかるはずだけど、どういうことだろうか。
私はキョロキョロと辺りを見回した、すると遠くからでよく見えないが、何か怪しげなものを見つけたのだ。
「あ、あれは?」
私たちがその何かに近づくと、それがなんなのかはすぐに分かった。
橋が落ちている。
そこにあったのは、大陸と島を結ぶはずの橋ではなくボロボロに崩れた橋の残骸だった。
「あれま、橋が落ちてる……」
チャルが呟いた。
「なんで?」
「わかんない……」
地図をくれた村長さんは橋がここにあると言っていたから、たぶん最近落ちたんだろうと思う。ボロボロになった橋の残骸も、腐敗しているような感じではなく、そこそこ最近壊れたという感じだった。
落ちた理由は台風でもあったかな、それとも魔王が関係しているのだろうか? それはわからなかったが、とりあえず、いまは向こう側に渡ることを考えよう。
「チャルどうしよう、ワープできる?」
「うーん、それでもいいけど……別に何か方法はないのかな、橋がないままだとみんな困ると思うし」
まあ、たしかに、橋がないとなると、みんな不便だろう。なんとかできるならなんとかしてあげたいような気もする。
「そうは言っても、どうすればいいの?」
「うーん、私がどうにかしてもいいけど……とりあえずあたりで情報収集でもしようよ」
チャルはそう言ったが、この周りには町はおろか小屋のひとつも見当たらない。ここは海沿いであり、くたびれている。
「あたりって、どこよ」
「うーん」
私が言うと、チャルは地図を凝視して近くに何か人がいそうな施設がないか探し始めた。
「あ、ここになにかある」
チャルが地図上を指指した。そこには祠とだけ書いてあった。
「祠……?」
「まあ、何があるかはわからないけど、とりあえず行ってみようよ。もしかしたら人がいるかも」
チャルは地図を綺麗に折りたたみポケットに入れた。
「あっち」
そしてそう言って、私の手を引く。地図を見る限り、ここからほとんど距離はなかった。
***
数十分だろうか、海沿いを歩いていくと、すぐにその祠は見つかった。海岸の脇にひっそりと立っていて、大きさは一軒家くらい、思ったよりも大きいなあと思った。それは石で出来ており、その神聖そうなオーラは前に行った遺跡を彷彿とさせる。といってもさすがにあそこまで神々しくはなく、世界中のあちこちにありそうな祠だったけど。
ところでそもそも、祠ってたぶん、神様を祭っておくためのものだと思うけど、人なんているんだろうか。
私はそう思ったが、チャルはとくに気にせず
「おじゃまします」
と言い、中に入った。もちろん私の手も引かれて、いっしょに中に入る。
中は意外と広々としていたが、見た感じ人はいなかった。部屋の中心には祭壇があり、その上には何やら杖のようなものが刺さっていた。たぶん、ここはあの杖を祭っている場所なんだろう。
「誰かいないのかな?」
「誰かいませんかー」
私が大声で呼びかけたが、部屋の中を私の声が反響するだけで、特に返事が返ってくるわけではなかった。
「いないぽいね」
「あれま」
人がいないとなると、ここにいる意味はない。なのですぐにここを立ち去ればいいのだが、私たちはどうしても、部屋の中心にある杖が気になるので、それを見てみることにした。
私たちは祭壇に上がった。特に立入禁止とか書いてなかったし、上がってもいいよね。怒られたら、降ります。
杖は地面に垂直に刺さっていた。かなり長めの杖で、私の身長の1.5倍くらいはあった。私たちはその杖を意味もなく観察する、触るのはだめだと思ったから、触らずに。
一番気になったのは、その杖の一番上に何かをハメるための"ツメ"のようなものがあるにもかかわらず、そこに何もハマっていなかったことだ。
「うーん、何だろこれ」
「なんだろうね。まあでも、誰もいないみたいだし、もう行こうか?」
そう言って、私たちがそこから離れようとしたとき、後ろから声がかかった。
「ん、どちら様かな?」
私が声のしたほうを向いてみると、祠の入り口から、老人が入ってきていた。
「旅の者かね、そこで何を?」
「あ、ごめんなさい、見てただけです」
別に悪いことをしたわけではないと思うが、私は反射的に謝っていた。
「いや……それは別に構わないが」
ならよかった。しかし、人が来てくれるとはついている。とりあえず、私はその人に話しを聞くことにした。
その人はみた感じかなり歳のいった老人で、ここの管理人をやっているとのこと。神官とか言うべきなのかな?
私たちが話を聞かせてくれと頼んだら、老人はこの建物の奥にある部屋で話を聞かせてあげると言ってくれた。いやはや、ありがたいかぎりである。
私たちは老人に導かれて、建物の奥にある部屋に来た。奥と言っても、この祠自体が大きくないので、本当にこじんまりとした部屋という感じだ。そこにはちょっとした椅子とテーブルだけが置いてあって、他にはあまり物は置いてなかった。たぶん老人も、ここに住んでいるというわけではないのだろう。
「それで、旅のお方はなんのご用で?」
「あの、私たちあっちの島に渡りたいんですが……橋が落ちてるみたいで」
「ふむ……」
私がそう尋ねると、老人は顎に手を当てて数秒考え込んだ。
「実は、あれは魔王の仕業でな、橋を落とされてしまったんだ」
「ありゃ」
内心、やっぱりか、と私は思った。
「何か、あちらに渡る方法はないんですか?」
「んま、あるにはあるが……」
私が聞くと、老人はまたしても数秒開けてから口を開いた。
「橋を直そうにも、すぐにはできないし、それに橋を直したところでまた魔王の手下に破壊されてしまうだろう」
「あ、実は私たち、その魔王を倒すために旅をしているんです」
そういうと、老人の目つきは少し変わった。
「なんと……ただの女の子にしか見えないが……何か特別な力でもあるのかね」
「魔法が、ちょっとだけ使えます」
「ほうほう、ふむ……それなら。実は、まだ橋がなかった時代には、あそこに杖が置いてあるだろ、あれを使って向こうまで渡っていたんだ」
そういって、老人はさっき私たちも見た杖を指さした。
「あの杖で?」
「ああ、あの杖はアロンの杖というんだが……あの杖には不思議な力があってな、あの杖を使うと海を割って向こうの島まで渡ることができるんだ」
「あ、じゃあいますぐにでも……」
私はおずおずとお願いをしたが、老人は黙ったまま首を横に振った。
「それはできない。実は、もともとあの杖には力の源である水晶がはまっていたんだが……杖を見たならわかると思うが、その水晶がなかっただろう?」
ああ、確かに杖の先には水晶をハメるためにあるのであろう”ツメ”だけがあって、水晶そのものはなかった。
「あれは、魔王の手下によって奪われてしまったんだなあ……」
「はぁ……」
私はよくわからなかったが、うなずいた。
「その水晶がどこにあるのかはわかっているのですか?」
「ああ、この祠の近く、南に100mくらい行ったところに洞窟があるんだが……そこにあることはわかっている」
「あ、なんだ。わかってるなら、私たちが取ってきますよ」
また、何かを取ってくるために私たちの足を使うという、旅とはそんなものだろう、たぶん。
「いやしかし……あの洞窟は魔物の巣になっていて……」
「大丈夫、任せてください」
そう言って、私はチャルの手を取って、立ち上がった。
「じゃあ、行くよ」
「うん、またかー」
またか、と私も思ったけれど、次の目標が決まったことに対する喜びもあった。何もできず立ち往生している時間っていちばん辛い、と私は思う。
私たちはその老人にお礼を言って、祠を出た。外はまだ曇だった。目の前には大海原とでもいうのだろうか、一面に海が広がっていた。遠くに水平線が見え、地球が丸いことがしっかりと感じられる。ちなみに、さっきの場所と違ってここは砂浜だった。
「この砂浜に沿って行けばいいらしいよ」
私たちは砂浜を歩き始める、砂浜は砂に足を取られて少し歩き辛い。曇りが一番好きとは言っても、やっぱり海にくるときくらいは晴れのほうが良かったかな、なんて少し思ったり。
「クジラとかいないかな?」
私が言うと、チャルは「なんでクジラ?」と聞いた。
「だって、クジラって一番大きい生き物らしいよ、海にいるんだって」
「そうなんだ、でも海の中にいるんじゃ、外から眺めてても見えないよね」
それもそうだ、運が良ければ、水面に上がってきたのが見えるかもしれないけど。
私は海を横目で眺めながら歩いていたが、見えるものは波ばかりだった。クジラとまではいかなくても、トビウオくらい飛んでくれれば、面白いのに。
「でも、なんか海っていいね、ふたりで歩いてると恋人ぽい」
恋人ぽいではなく恋人だけれど、確かに海はなんとなくロマンスを感じさせる。それに海は神秘的でもある、宇宙から地球を見たことがあるわけでもないが、地球は半分以上が海らしい。
チャルとそんな他愛もない話をしながら海沿いを歩くと、すぐに目的が見えてきた。
見えてきたのはさっきの老人が言っていた洞窟だ。
あれが次の旅の舞台になる。
To be continued.




