3話 無限回廊を越えて。ついに、ユニクロへ
異世界からやってきた騎士を拾った、元ヲタク看護師とのお話です。
「よし、じゃあ進もうか。光に護符をかざせ」
ミオは先頭に立って改札口を抜ける。
リュカもならって同じように、改札を抜けた。
「すごい、本当にゲートが開いたぞ。パッスーモ神とはすごい神なんだな」
「こっちだ。人が多い。見失うなよ。」
チラリとついてくるのを確認したミオは早歩きで三番乗り場の階段を降りる。
リュカは周りを警戒しながらも、ミオを追いかけた。
「お前は小さい。人に埋もれてすぐ見えなくなる、なんとかしろ」
ミオの服の襟をつかんでその足を止めた。
「おいっ!苦しい!!急に掴むな!!」
真っ赤な顔でリュカを睨みつける。
「小さいお前が悪い」
「わかった、これでいいだろ!!」
ミオはリュカの手を取って、大股の早歩きで歩き出す。
「ああ、これならはぐれない。それにしても人が多い」
人波に揉まれながら、電車の乗車位置に足を止める。
しばらくすると電車が目の前に止まった。
満員ではないが、人は多い。座る席はないようだ。
「奥へ行くぞ。」
ミオは座席の前まで進み、吊り革を掴もうとするが届かなかった。
「・・・・本当に小さいな」
「チビって言うな!!チビハラで訴えるぞ!」
背伸びをしてやっと吊り革につかまる。
リュカもそれを見て同じように吊り革につかまった。
そうこうしているうちに電車のドアが閉まり、後から乗り込んできた人に押され、隣の乗客との距離がさらに近くなる。
ーー発車しまーすーー
アナウンスが流れ、ゆっくりと電車は加速していく。
リュカは目をパチクリさせて、周りを静かに見渡して小声でミオに話しかける。
「う、動いたな」
加速するにつれて、ミオはバランスを崩しそうになりながら吊り革につかまっているため、必死だ。
そんな中、正面の座席に座っている少し化粧の濃い女性が、リュカに話しかけた。
「ちょっとごめんなさい?あなた、ファッションセンスはともかくとして、綺麗な顔してるわね、モデルさん?どこかに所属してたりする?」
「・・・・俺のことか?もでる、とは」
その話を聞いていたミオは、ニヤリと笑ってその様子を見ている。
「ねえ、お兄さん、歳はいくつ?どこに住んでるの?」
「歳だと?200を超えたあたりで数えるのをやめた。マンカッサ都市の森に住んでいる。それがどうした。」
ミオは吹き出しそうなのを堪えながら、震える手で吊り革を必死に掴む。目尻には涙が少し滲んでいる。
「マン・・・・?何?ま、まあいいわ。」
女性はカバンの中から名刺を取り出すと、リュカに手渡した。
「よかったら連絡ちょうだい、待ってるから」
そう言うと、その女性はスマホを取り出し、何やら文章を打っている様子だった。
リュカはもらった名刺をくるくると裏表返しながら眺める。
「ミオ、もらった。これはなんだ。」
「よかったね。モテモテだね。これは没収」
ミオはすかさずリュカの手から名刺を取り上げると、さっと自分のカバンのポケットにしまう。
電車が駅につき減速すると、ミオは姿勢を崩して大きくふらついたその瞬間。
リュカがミオの肩を包むようにして抱き止め、引き寄せる。
「お前は腕っぷしは強いのに、体幹が弱いな。しっかり鍛えろ」
「お、おう。ありがと」
ミオは開いたドアから人波にさらわれないように、リュカの服にしがみつく。
「最初からリュカにつかまっておけばよかったんだな」
「そうだ。最初からそこをつかんでいればよかったんだ」
程なくして、またドアが閉まり、アナウンスが流れる。
ゆっくりと電車が加速していく。
「で、どこまで行くんだ?」
「うん、次で降りるよ」
「そうか」
リュカの手が、まだ肩を抱いている状態になっているのに、気づいたミオが顔を赤くして、見上げる。
「リュカさん、近いです。これ、もう大丈夫です」
肩に乗っている手を指さして口を尖らせ目をそらした。
「ああ、すまない」
リュカは手を離すと窓の外を眺める。
「俺は今、すごい速さで走っているのだな。これは、なぜかワクワクする・・・」
まるで、初めて電車に乗った少年のようなまんまるな目で、流れる景色を見ながら表情を緩ませる。
「そっか。電車、新鮮なんだね、よかったね」
子供を初めて電車に乗せたママのような口ぶりで微笑む。
ゆっくりと電車が減速していく。駅が近い。
「これ、止まったら降りるからね?」
リュカを見上げる。
「わかった」
プシューッと音を立ててドアが開く。
「さあ、降りるよ」
ミオはリュカの手を引いて外に出る。
「・・・・ここはどこだ。」
「ほら、もう少し前に出ないと、後ろの人がタックルしてくるよ!嘘だけど」
タックルと聞いて、リュカは戦闘体制を取った。腰を落とし背後を取られないようにジリジリと捻り歩きながら、左右を見渡す。何事かと訝しげな表情の乗客が後ろを通り過ぎて行った。
「いやいや、ちゃんと嘘だけどって言ったよ?行くよ、駅ビルの4階がユニクロだから。」
サクサクと、出口の階段を下って行く、それを追いかけるように早足でリュカは後に続く。
「さっきの。持ってる?パスモーだったっけ?」
「おい。神の名を間違えるな、パッスーモだ。持ってる。」
リュカは交通系ICカードをミオに見せ、「無くさなかったぞ」と、胸を張る。
「偉いぞ。じゃあ、またあのゲートを通る。」
リュカがふと、隣の自動改札機を通ろうとしている、サラリーマン風の男性に目を止めた。その男性は料金不足で、エラーを起こしている。
「・・・・なんと。パッスーモ神は本当に、選ばれし者しか通さぬと言うのか!」
「あー。ゲンキンな神様だからね。行くよ、うちらは大丈夫」
自動改札口を抜け、正面にあるエスカレーターに向かって歩いて行く途中、リュカがミオの肩をつかんで止める。
「待て。あの階段は呪われている!!動いているではないか!!」
「はひ?」
間が抜けた返事をするミオに対し、リュカは真剣そのものだった。
「あれは無限回廊ではないのか?!乗ったら最後、逆戻りなどできない、恐怖の階段!!」
「ぶぶっ」
耐えられずにミオが吹き出す。
「逆戻りはできないな、確かに」
肩を揺らして笑い出すミオに、リュカはまだ大真面目だ。
「何を笑っている!あれは怖い呪いなんだ、一生階段から降りられないんだぞ!!」
「逆らうから降りられないだけだよ、それ。ほら行くよ!本気でユニクロに辿り着けない」
笑いながらリュカの手を取り、無理やりエスカレーターに乗せる。
「これはエースカレッタという精霊が動かしている。禍々しいものではない。ただ、機嫌を損ねると、挟まれて巻き込まれる。真ん中に乗ってくれと、精霊は言っている。」
ミオは真面目な顔で、エスカレーターの縁についている、黄色のラインを指差す。
「ほう。ここから出るな、と言う魔法陣か」
「そんな感じ」
ゆっくりとエスカレーターは上階へ上がっていく。広いエントランスはフードコートがあるのか、いい匂いも漂っていた。
「そうか、無限回廊は逆らわないと、別のフロアに辿り着けるのだな、学んだぞ」
エントランスにはいくつもの柱があり、お店への誘導案内がかかっている。
「やった、やっとユニクロだ・・・・」
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