第4話 ユニクロ神殿で、文明をまとう。
略して「銀ユニ」
最終章!
第4話 ユニクロ神殿で、文明をまとう。
「こ、ここが、ゆにくろ、とやらなのか?」
リュカは、目を丸くして手を膝に置き、ユニクロの看板を見上げる。
「おう。行くぞ。」
店内に入ろうとした、その時。
「待て!ミオ!!トラップがある!!」
リュカは制止の声とともにミオの肩を引いた。
「おいおい!何だよ、目の前にユニクロがあるのに!」
ミオは「やれやれ」という感じで肩に置かれたリュカの手を取った。
「何もない。入り口だ、ただの。」
「違う!!あれを見ろ!同じものが等間隔に置いてある。これは罠だ。」
リュカは、防犯のゲートを指さし真剣なまなざしでミオを見る。
「あー、あれ?あれは・・・。あれは、ユニクロ神殿から無断でものを持ち出すと、動くトラップだ。入るには問題ない。行くぞ!」
ミオは小さく「めんどくさ」とつぶやいて、大股で店内に入っていく。
制止を聞いてもらえなかったリュカは、ゲートとゲートの間にそっと手を差し入れ、何も起きないことを確認してから、腰を低くしてジリジリと通る。
「リュカ、こっちだ。」
紳士服売り場の方でミオが手招きをする。
声がする方向をくるくると見回してからミオのところへ行く。
「とりあえず、あたしが選んでもいい?」
「おい、ここはすでに服ができあがっているのか。採寸はどうしてる。」
ミオは小さくため息をついてめんどくさそうに頭を掻く。
「この服の中から、着れるもの、着たいものを選ぶんだ。」
ミオの話を聞いて周りを改めて見回す。
「こ、この中から、俺の服を探す、だと?!何年かかるんだ・・・・」
驚愕しているリュカをよそに、ミオは無地のTシャツをいくつか持ってくる。
「このサイズなら着れそうだ。白、無難な白だな。あと・・・・は。」
ジャケットを色違いで2着取り、リュカに合わせる。
「黒だな。カーキもいいが、厨二病っぽくなる。避けたい。」
ジャケットをリュカにあてがい、顎を撫でながら考察する。
「お、おい。俺を置いていくな」
「なら、スラックスも黒だな。決まり。行くぞ、リュカ」
「どこへ」
リュカの手を引き、試着コーナーへ行く。
「あたしが付き合えるのはここまでだ。これをあの部屋で着てこい。ここで待ってる」
ミオはそう言うと、さっき選んだ服をリュカに押し付け、持たせる。
「あ、ああ」
両手で服を持たされ、誘導する女性店員についていく。すかさず後ろからミオが店員に声をかけた。
「あ!すみません。その人、原始人なんで、もしかしたら服の着方、わからないかも!!」
女性店員は「はあ?」と盛大に疑問の声をあげて振り返り、眉を寄せながらリュカの顔を見上げる。
「なんだ」
リュカはまじまじと顔を見られ、バツが悪そうに眉をひそめた。
「げ、原始人のお客様は初めてです。・・・・・まじか」
首を傾げながら店員さんが試着室の前で止まる。
「お客様、この中で靴を・・・脱いで、お入りください。カーテンを閉めてから、今着ている服を脱いで、こちらのご試着をお願いします。何かありましたら、お声かけください。・・・・・服は着れるんだよね?」
疑問符をたくさん浮かべた店員が、不思議そうな顔でリュカを試着室に押し込む。
靴――なのだろう。たぶん。
店員は自分に言い聞かせるように、無言で頷いた。
「・・・・・顔はいいんだけどな・・・・・。原始人って、どのレベルなんだろう」
試着室のカーテンの中でゴソゴソと服を脱ぐ音がする。
「おい娘!」
勢いよくカーテンが開く。中には上半身裸のリュカ。
「ひ!!あ、開けない!!」
慌ててカーテンを閉めると、店員が声をかけた。
「ど、どうされましたか、お客様」
「これはどちらが前だ」
Tシャツを掴んだ手が、ぬっとカーテンの隙間から出る。
「え、襟ぐりにタグがついてる方が、後ろになります」
げ、原始人って、そこからなのか・・・・。
愕然とした表情をカーテンで隠した店員は穏やかな声を装って、説明した。
「なるほどな」
この人、パンツ穿いてるのかな・・・直にスラックスはちょっと・・・。
そんな店員の不安をよそに、全部着替えたリュカがカーテンを開けた。
「おい娘。これであっているか?見てくれ」
店員はリュカを見上げて息を呑む。
「お。(やば!原始人かっこいい!!)・・・あってます」
真っ直ぐに立つとスラックスのベルトをしていないため、ウエストがずれる。
「・・・腰が緩い」
(ぱ、ぱんつ見えた!!穿いてた!!よかった!!)
「お客様、ベルト、とりあえずこちらをお使いください。売り場もございますので、後ほどご覧ください。」
店員はベルトの使い方を説明し、リュカに手渡した。
リュカは見よう見まねでベルトをベルトループに通し、前で締める。
「お連れ様にも、見ていただきますか?」
「そうだな。ミオ見てくれ」
名前が聞こえて試着コーナーの手前で待っていたミオは顔をのぞかせる。
「できたか?おお、馬子にも衣装だな。知的原始人に昇格だ!」
ミオはリュカの立ち姿を見て顎を撫でながら感心する。
「で、店員さん、この人、パンツ、穿いてました?」
(そこ?!訊く!!?)
「そ、そこは、ご本人にご確認ください」
店員は軽く会釈をするとそそくさとその場を立ち去る。
追加の服をカゴに入れて、店内を歩く。
「おい。お前、下着はちゃんと穿いているんだよな?」
ミオは紳士もののパンツを突き出し、リュカに見せる。
「お、おい!!ミオ!!お前女だろう!はしたない真似をするな!!」
リュカは赤い顔でミオからパンツをひったくるように取る。
「は?パンツはパンツだ。中身はない」
リュカはミオの口を塞ぎ小さな声で制する。
「婦女子が男の下着を掲げるなど、はしたないと言ったんだ!」
「腐女子は卒業した。今はノーマルだ」
「何の話だ」
眉間にシワを寄せるリュカをよそに、ミオはリュカの手を払って、目の痛くなるような蛍光ピンクのボクサーパンツをカゴに入れる。
「ま、待て。こっちでは、ダメなのか」
リュカは隣にあった黒のボクサーパンツを手に取って、ミオにそっと見せる。
ミオは一つ大きく息をつくと、カゴに入れたパンツを見せて、真面目な表情を作る。
「いいか?この明るい色は魔よけだ。お笑いの神の加護が付与されている」
「・・・そうか。」
リュカは考えるように視線を上に動かす。
「・・・いや待て。お笑いの神の加護は不要だ」
ミオはつまらなそうに小さく舌打ちすると、リュカの手のパンツもカゴに入れた。
チラッと見上げたミオは、すぐに目をそらす。
「赤い顔をするな。ヲタク心が再燃する」
「何が言いたい」
「帰るか」
ミオはリュカを伴い、お会計を済ませると、ユニクロをあとにした。
「あ!!!」
「なんだ。」
「足元がまだ異世界だった・・・・」
「だから、あの眩しい色の下着の話は余計だったのだ!!」
「いや、パンツは大事だ」
二人はまた、スニーカーを買いに店内へ戻るのだった。
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