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第2話 いざ、冒険の旅へ。パッスーモ神のご加護を。

異世界からやってきた騎士を拾った、元ヲタク看護師とのお話です。




「服をなんとかする、だと?」






頭を抱えていたリュカは「正気か?」という表情で、ミオを見る。






「だって、もし、その泉とやらを探すんだったら、その服装で街を歩いてみ?職務質問されるに決まってるじゃん」






冷静にお茶を飲みながらミオは答える。






リュカは何回か瞬きをして、一言。






「・・・・しょくむしつもん、とは」






「・・・そうだよね、そこわかんないよね。平たくいうと『あんた何やってる人?怪しくない?』ってお巡りさんから訊かれるやつ。怪しかったら逮捕されちゃうんだから!ちょっと嘘だけど」






「おまわりさん・・・・誰だ」






少し冷めた紅茶に初めて口をつけ、ふと顔をあげる。






「・・・紅茶と言ったな。・・・うまいな」






リュカはマグカップを見る。見た目は普通の、澄んだ琥珀色。見た目だけなら、彼が家で飲んでいたものと変わりはない。




だが、香りがいい。




きっと高価なものなのだろうか、そう思いながら琥珀色の液体を眺める。




「うん、それ、アールグレイ。いい匂いでしょ?」






ミオは得意げに笑うと、立ち上がる。




カップをテーブルの上に置いて、リュカをまじまじと眺める。




「なんだ」




訝しげに眉を寄せて少し構える。






「残念なことに、顔はいいんだよ、顔は。」






リュカは眉を寄せて、静かにミオの次の手を待つ。剣は構えてはいないが、ツッコミを入れる構えはしているようだ。






「背が高い。肩幅がある。胸板が厚い。二の腕がかっこいい。髪が長くてキレイ。・・・・・ビジュアル系オタクだ。よし、それでいこう。」






大きく頷くと、ミオは奥の部屋の押し入れの中からギターケースを引っ張り出す。




ギターは入っていない。ケースだけ。昔、バンド系のコスプレをしていた時の小道具だった。






「とりあえず、これを背負えば、バンドやってる系の人に見えるよね。あとは服装・・・っていう話よ」




「ばんど、とは」




「バンドっていうのは、音楽の神様から才能を賜ったビジュアル系の人が、グループになって人々に歌を聴かせて心の傷を癒す、聖職者のことだよ。3割くらい嘘だけど」




嘘だけど。




これを聞くと、どこまでが本当で、どこまでを本気で説明しているのかがわからない。リュカは頭を抱えた。






「帰りたい・・・・」






ガックリと肩を落とし、大きくため息をつく。




その背中はさっき、剣を抜きかけた時よりも一回り小さく見えた。




「・・・・ごめん、悪ふざけが過ぎた。ここにいていいから。見つかるまで、ここに居て」




リュカの落ち込みようを目の当たりにして、少し声のトーンを落とす。






「あたしは、こんなだし。リュカも気を遣わないで・・・まぁ、なんでも言ってよ。」






ミオの声のトーンが変わったところで、リュカは顔を上げ、ミオを見上げた。その表情は少しだけ穏やかに見えた。






「わかった。なら、世話になる。言ってくれ。俺はどうしたらいい。」






「うん。それなら、まず服。買いに行こう。」




ミオは、座っているリュカの目線と合わせてかがみ込んで力強く、リュカの肩を叩く。






「・・・・お前、小さいくせに力が強いな。いい戦士になる。」




初めて小さく笑う。






「やめて!?これ以上戦いたくないの、白衣の鎧を着てるけど、平和主義者なの、本当は!」




口角が上がったリュカを見て、ミオは声を弾ませた。






「よし、そうと決まったら、善は急げ!行こう!」






ミオはリュカに手を差し伸べた。




リュカがその手を取って立ち上がると、ミオの背は彼の胸元ほどしかないことに気づく。






「・・・・本当に小さいな。子供ではないのか」




ミオの頭に手を乗せてみる。こうしてみると、親子のような身長差だ。






「失礼な!!れっきとしたレディだよ!!」






「改めて、よろしく頼む。今は、お前が頼りだ」






頭に乗せた手をワシワシと撫でる。柔らかい毛が動かすたびに手をくすぐる。




「やめろっ!犬じゃない、なでなですんな!!」




手を払うように身体を屈めてリュカの手を掴む。






「よし。本題に戻るぞ。まず、その衣装。脱げ。」






ビシッとリュカのマントを指差す。




「衣装だと・・・?これは立派な旅人の服だ。ちゃんと精霊の加護がこめられている。・・・・全部脱ぐのか」






文句を言いながらも、服の裾に手をやる。






「いやいや!!やっぱ待って!!まずはマントだけ、脱ごう」






そうか、と小さく呟くと、羽織っているマントを外し、丁寧に畳んで床に置く。






「これでいいか」






マントを外すと、麻生地でできた厚手のチュニックにも見えなくはない。色はさておき。






「うーん。まぁ・・・・いいか。店までちょっと我慢かな。あ、その腰の剣は、本物?」






腰に下がった重厚感ある剣を指差す。






「本物か、だと?これは精霊の祝福を受けた、親友の形見の剣だ」






持ち上げ、刀身を見せる。それはギラリと艶かしく光り、刀身に刻まれた小さな傷からは、数々の戦いをくぐり抜けてきた歴史が垣間見える。






「それ、置いていけ。」






「いやだ。」






リュカは腕を組む。






「なぜ。」






リュカを見てミオも腕を組む。負けられない。






「敵に襲われたらどうする。」






「敵ってなんだよ。」






「ここにはいないのか?魔獣やら魔物や野生動物は」






「野生?鳥くらいだな」








ミオはやや上向き加減でふんっと鼻息を立てる。








「・・・・・わかった、置いていく。」








リュカが先に折れた。剣を吊るしているベルトを外すと、床に置く。ゴトッと重たい音を立てる。








「うん。その格好なら見れなくはないな。じゃあ、冒険の旅に出ようか」






「よろしく頼む」




「これ持ってね。」






リュカはギターケースを肩に掛け、ミオに続いて玄関を出る。






時刻は昼近く。強い日差しがギラギラとアスファルトを焼いている。




「地面が硬くて熱い。岩という感じではないな。何でできている」






「アスファルトのこと?」






「あすふぁると」






理解は早いし、言ってることはちゃんと納得してくれる。でも言動は原始人だ・・・。そう思うとミオは口元が緩む。






歩道の赤信号の前で立ち止まる。




リュカはそれを見て足を止める。






「どうした」






「あれを見て。」






信号を指差す。






「あれが赤の時は絶対に動いたらダメ」






その瞬間、目の前の道路をハイスピードの車が通過する。






「お前!!魔物は出ないと言ったではないか!!あれは何だ!すごい音を立てて通ったではないか!」






目を丸くして早口で捲し立てる。






「リュカ。あれはね。エンジーンという精霊と、ガソリンという精霊が力を合わせて原動力になっている、鋼鉄の乗り物です。9割嘘だけど」






「・・・・・そうか。」






リュカは顎に手を当てて、通り過ぎた車の方向を見る。






「・・・で、本当は何なのだ?」






「車です。乗り物です。」






そんなやり取りをしていると、信号機は青に変わる。






「いい?リュカ。あれが青になったら、動いていいの。これは守ってね。さっきの魔物に殺されても、文句は言えないよ?」






「あいつは魔物なのか!やはり襲ってくるのではないか!!」






ギターのケースを抱え直し、ファスナーを下ろすと中から剣らしきものが見える。置いてくるふりをして、しっかり持ってきていたようだ。






「待て待て!!それは置いてくるって言ってたじゃないか!とにかくしまえ!!赤信号を守れば、襲ってこない。だから剣はいらない。行くよ。」






ミオは若干イラつきを見せながら、大股で横断歩道を渡る。


リュカがそれをみて小走りでついてくる。ちゃんと剣はしまったようだ。






「で、どこに行こうというのだ」






「ユニクロ。服屋さん」






「あれに乗るよ」






駅の近くで、電車が往来している。ミオはそれを指さした。






「でかい。長い・・・・・。何だあれは。装甲が鉄ではないか。龍か?ミミズの化け物か?」






電車をみて立ち尽くすリュカの背中を押して階段を登り、切符売り場まで行く。






「電車です。説明は省きます」






「襲ってこないのだな?」






ギターケースを前に抱え、今にもファスナーに手をかけようとしたところを、ミオが手を添えて、首を横に振る。






「ちょっとここで待ってて」






ミオは券売機に行き、交通系ICカードを購入する。戻ってくると、リュカは深刻そうな顔で立っていた。




「いい?これはパッスーモという神の加護が付与されたカードです。かなりゲンキンな神様です。落とすなよ。」






簡単に説明をするとリュカに手渡す。




リュカは恭しく両手を差し出し、頭を下げて受け取る。まるで王様から褒賞を賜る姿勢のようだ。






「・・・これは何でできているのだ?木ではない、鉄でもない・・・・だが、硬い。パッスーモという神はなんの神だ?」




受け取ったカードをくるくると回して両面を確認する。




「今から説明をする」




ミオは自動改札機を指さしながら深刻そうな表情をリュカに向けた。






「いいか、あそこの門の手前に、光が見えるだろう?あれに、パッスーモ神の護符をかざすんだ。そうすると、ゲートが開く。通ってもいいという、合図になる。ゲートの奥にはさっきの電車がある。それに乗るための、通行手形になるから、なくすなよ。」






いつもの「嘘だけど」が続かない。これは本当の話なのか。リュカは真剣に話すミオの顔を凝視し、固唾を飲む。






「わかった、なくさない」






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