第1話:玄関の先に居たのは、知的厨二病原始人でした。
異世界から来た騎士と、現代の元ヲタク看護師のドタバタストーリーです✨
玄関を開けたら、そいつは、いた。
「やっべ!遅刻!!」
ミオは勢いよく玄関のドアを開けた瞬間、
ゴツッ!!
「なんか、すごい音した」
恐る恐るドアの向こう側を確認すると、銀髪の背の高い男が額を撫でながら立っていた。
「え?」
「あ?」
一瞬時間が止まる。
「あ、今忙しいんで」
ミオは静かに玄関を閉める。
カチリ。
「え?え?なに?今の?」
玄関の覗き窓からこっそり外を覗くと、やっぱりいる。
銀色の髪の、男。
しかもロン毛。
耳が尖っている。
腰に、何やら剣らしきものを下げ。
遮光カーテンのような厚手の生地でできたシンプルな服。
マント。
そっと玄関を開けてもう一度隙間から肉眼で確認してみる。
⋯⋯⋯間違いない。
「コスプレだ」
男はキョトンとしてドアの隙間から覗いているミオを見る。
「その前に言うべきことがあるのではないか?」
「え?あ、えっと、もう、コミケには行かないって決めたんで」
「待て。俺はその扉で、額をぶつけられたぞ」
「え?」
「親から習わなかったのか?ぶつけたらまずは『ごめんなさい』だろう?」
赤くなった額を撫でながら、ミオを見る。
口調はきついが睨んではいない。
ミオはドアを開けて、もう一度目の前の男を見上げた。
「あ、そ、そうだよね。ごめん。えと、ちょっと」
玄関から身を乗り出してアパートの渡り廊下を見渡す。
「ちょっとこっち!」
ミオは男の手を引いて玄関の中に入れる。
「おい」
男は玄関の中で、立ち尽くす。
「男を部屋に入れる前に、きちんと素性を聞いてからにしろと、親に習わなかったか?」
その男は乱れた長い髪を整えながら、ミオを見下ろす。
「えと⋯⋯⋯あなた、なにもの?」
ミオも、ひきつる顔で恐る恐る男を見上げる。
男はやれやれという感じで小さく息をつく。
「それは、家に入れる前に訊くもんだろう。俺はリュカだ。精霊の森の護り人と、王国騎士団の副団長を務める」
ミオは息を呑んだ。
思考が追いつかない。
精霊?
副団長?
いやいやいや、そんな設定はファンタジーにしかありえない。
迎えにきた騎士様?
いやいやいや、それこそファンタジーだ!
ならば・・・なりきりオタク。
ミオの片眉が上がる。
オタク。絶対これだ。
「えっと、ちょっとだけ、待ってもらってもいいです?」
ミオは、男を手で制してから、カバンからスマホを取り出すと、職場の病棟に電話を入れる。
「あ、もしもし、坂本です。師長近くにいますか?・・・あ、師長?すみません、熱出ました。お休みさせてください」
それだけ早口で言うと電話を切った。
「おまたせ。とりあえず時間は出来た」
「お前、それはズル休みか?」
リュカと名乗った男は目を細めてミオを見下ろす。
「だって、しょうがないでしょ?野生のエルフ拾ったら仕事は休むものなんだよ、嘘だけど。」
カバンにスマホをしまうと、靴を脱いでリビングに戻る。
「えっと、リュカさんでしたっけ。そのブーツを脱いでこちらへどうぞ」
ミオはとりあえずお湯を沸かそうとケトルにお水を入れる。
「何をする気だ。」
リュカは静かに腰を落として剣の柄に手をやる。
「お茶、飲む?」
「茶、だと?」
訝しげな表情のまま、剣から手を離さない。
「その前に言うことがあるだろう。お前は何者だ」
律儀にブーツを脱いで玄関に揃えると、リュカはまた柄に手をやりジリジリ腰を落としたまま、ミオに近づく。
「あ。あたし?あたしはミオ。坂本ミオ。看護師。独身。恋人募集中。よろしく。」
「ミオ?」
低くしていた姿勢を少し伸ばすも、まだ剣の柄から手を離さない。表情も、まだ硬い。
「紅茶、お砂糖欲しい人?」
「おさとう」
ミオの言葉を反すうするように繰り返す。
「いや、お前。その前に危機感を持て。なぜ俺を家に入れた?年頃の女が男を家に入れたら、事故の元だぞ」
怒っているわけではない。
ただ、あまりにも普通にしているところが、怪しすぎる。リュカは警戒していた。
肝が据わりすぎている。
度胸があるのか?
ものすごい魔法を使うやつなのか?
それとも、ただのアホか。
リュカは黙って目を細めミオを見下ろす。
・・・・絶対アホだ。
「今、軽くディスっただろう」
ミオは声を低くして、リュカを睨むと、茶葉をポットに入れる。
「・・・敵意はないんだな?」
リュカは抜きかけた剣を収めると体の力を抜く。
「で、お砂糖は?」
「もらおう」
「こっちに来てそこのソファに座ってて」
ミオは指で部屋の角にある2人掛けのソファを指さした。
「ミオ、ここはどこだ」
「え?あたしの家」
「・・・・だろうな」
リュカは素直にソファに腰掛ける。
額に手を当て息をつくと顔を伏せる。
「おでこ、痛い?」
「いや。ああ。」
YESともNOとも判断がつかない返事をする。
「湿布、しょっか?」
ミオはリュカの顔色をうかがうように凝視する。
「シップだと?それはどんな魔法だ。加護の精霊はなんだ」
電気ケトルの前でお湯を沸かしているミオは、眉を寄せて顎を撫でる。
「えっと・・・魔法っていうか・・・あ。」
ミオの片眉が上がる。
「うん。それはね、ロキソニンジェという精霊の息吹が付与されている、治療薬です。嘘だけど。」
ミオは大真面目な顔でリュカを見つつ、淡々と湿布の説明をする。
「・・・・そうか」
それを聞いたリュカは小さく頷く。
「で。本当は何なんだ?」
「張り薬です。痛み止め。」
ミオはキッチンの脇にある引き出しから、湿布の袋を取り出して適当な大きさに切る。
「じっとしてて。」
ペタ。
リュカの額に湿布を貼付する。
「・・・額が寒い。お前、何をした。」
リュカは額に貼られた湿布を撫でる。
「痛み止め。少し経つと軽減するから、そのままにしておいて」
ケトルのお湯をティーポットに移す。
「もう一つおまじないあるけど、やる?」
ミオは油性マーカーを手に取ってリュカに向けて微笑む。
「・・・嫌な予感しかしない。それをしまえ。」
見破られて、つまらなそうに口を尖らせながら、マグカップに紅茶を注ぎ、トレイに乗せるとソファの前のテーブルに置く。
「どうぞ。お砂糖はこれね」
スティック砂糖を1本、リュカの前に置く。
「・・・ありがとう」
リュカは小さくつぶやくと、マグカップを見つめて、手に取る。
「で。副団長の設定はともかく、どこに行く途中だったわけ?」
ミオはマグカップを冷ましながらリュカが座るソファの近くの床に座る。
「設定とはどういう意味だ?俺は精霊の泉に行くところだった」
リュカはマグカップを手に取ったまま、ミオを見下ろす。
「出た。厨二言動。精霊の泉って何」
ふんと、鼻を鳴らしながら紅茶を一口飲む。
「この器は上等だな。花の絵が入っている。お前は貴族なのか?王族か?・・・・にしてははすっぱか・・・」
「はすっぱって何?」
ミオは片眉を上げてリュカを見る。
「あぁ、いや、なんでもない」
リュカは少し気まずそうにマグカップに目線を戻す。
「精霊の泉が、妙に騒がしかったんだ。急に、空から光が降りてきて」
リュカのつぶやきに、ミオは顔を覗き込むように見上げる。
「間違いない!キャトルミューティレーションだ!!」
急に膝を打ってミオは大きな声でドヤ顔をする。
「お前は俺の話を聞く気はあるのか?」
リュカは小さく息をついて眉を下げる。
「その前に。お前、いつ魔法を使った?茶が熱い。火を使ったようには見えなかった」
カップを包むように両手で持つ。
「魔法?んなもの・・・・・あー・・・・」
顎を撫でて片眉を上げる。
「エレキテルという魔法を使いました。電気の力です」
「えれきてるとはなんだ。でんきとはなんなのだ。・・・・わからんことばかりだ」
リュカは理解不能というようにマグカップを置き、頭を抱え出した。
副団長を名乗るだけあって、頭は悪くはなさそうだ。
ただし、文明が圧倒的に足りない。
知的厨二病原始人。
ミオは目の前の男を、ひとまずそう分類した。
「うん、これは、江戸時代の人が現代に来た時のリアクションと酷似してる。リュカ、あなた、異世界から来たんだね?」
ミオは全てを理解したかのように手を打った。
「異世界だと?ここはどこなんだ」
疲れたように髪をかきあげて大きく息をついた。
紅茶の入ったマグカップから静かに湯気が立つ。
ミオはリュカの疲労感を察して何も言わなかった。
「なあ。俺は、どうしたらいい」
急に喋らなくなったミオを見て、真面目な顔でリュカは口を開く。
「・・・・。とりあえず。その服をなんとかしよう」
次回に続く、か、どうかは、知的厨二病原始人次第です(笑)
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