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『離婚したので、すべて置いて辺境にきました──夫の浮気も介護も、さよならで!』  作者: 夢窓(ゆめまど)


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辺境にて、新しい生活

ナンシー、夜明けの辺境へ到着


夜明け前の空はまだ藍色だった。

馬車が大きく揺れ、遠くにうっすらと山並みが見える。


「……あら。思ったより寒いのね」


馬車から降りたナンシーの吐く息が白い。

王都の喧噪とは違い、辺境は静寂に包まれていた。


空気が澄んでいる。

胸いっぱいに吸い込むと、肺の奥まで冷気が満ちる。


「これが……自由の味?」


こつりと石畳を踏みしめる足下に、

新しい人生の実感がふわりと湧いてきた。


そこへ、黒外套の男が歩いてくる。


「あなたが……ナンシー殿か?」


低いが、優しい声だった。


辺境伯ではない。彼の補佐役──執事長のクレイン。


「こちらへどうぞ。

軽食をご用意しております。

屋敷は質素ですが、安全ですので」


ナンシーは小さく頭を下げた。


(質素でいいわ……贅沢より“平和”がほしいもの)


馬車の中で震えていた心が、静かに落ち着いていく。


クレインが続けて言う。


「辺境伯は昨夜まで魔獣退治に出ておりまして。

本日、昼には戻られるでしょう」


(魔獣……? 本格的に、違う世界に来たのね……)


胸がざわめいたが、それは恐怖ではなく、

〝冒険の予感〟だった。


ナンシーは、王都では味わえなかった感情に、

自分でも驚いていた。



ヘイリー側の破滅 “第二段階”


同じころ──王都のアルレイン邸。


朝日が差し込むはずの食堂は、

暗く、重苦しい空気に満ちていた。


◆ 姑、ついに施設送り


介護福祉士

「お義母様は危険行動が続いております。

徘徊、転倒、異食。

自宅での介護は不可能です」


ヘイリー

「な、なんとか……なるだろ……!」


介護福祉士

「奥様がいない以上、誰も“生活介助”をできません。

本日中に施設へ移送します」


「ナンシー……ナンシーどこ……!!」


ヘイリー

「やめてくれ……母上まで……!」


叫びは虚しく、連れられていく背中が揺れる。



◆ 家政破綻


台所は荒れ果て、

洗濯物の山、書類の山、異臭。


恋人が逃げてしまい、

新しい家政婦も “姑の叫び声が怖くて” 全員辞めた。


弁護士が静かに言う。


「ナンシー様が行っていた“家政業務”も鑑定対象となります。

未払賃金は──

あなたが想像される額より遥かに膨らむでしょう。」


ヘイリー

「なんで……なんで……!」




◆ 屋敷売却


使用人長

「旦那様……

すでに借金が膨らみ、維持が不可能です。

屋敷を売却し、介護施設費用と離婚慰謝料に回すしか……」


ヘイリー

「俺が……なんでこんな……」


※ 恋人にはすでに逃げられ、

夫の“いい暮らし”は消えていく。




◆ 宰相コース消滅(失脚)


王宮の文官仲間たちがひそひそ噂をする。


「アルレイン殿、奥方に逃げられたらしい」

「姑も施設入りだと?」

「家政破綻? 書類の遅延が増えてるぞ」

「これでは宰相どころか……左遷では?」


ヘイリーは机に突っ伏す。


「ナンシー……

帰ってきてくれ……

何もかも……お前がいないと……」


でももう、その声は届かない。



ナンシーへの慰謝料(完全勝利)


弁護士

「奥様はすでに離婚届へ署名済みです。

残るは“慰謝料と未払労務費”です」


ヘイリー

「いくらだ……」


弁護士

「算定中ですが──

あなたの年収の三年分

は最低ラインかと」


ヘイリー

「…………!」


弁護士

「奥様が戻ることは、もうありません。

すべて書面で進めますので」


夫は椅子に沈み込み、動けなくなる。




◆辺境伯とナンシー、ついに初対面


朝の光が差し込む客間で、

ナンシーが温かいスープを飲んでいると




重い足音。


扉が、がたり、と開いた。


現れたのは、

灰色の外套を肩にかけたままの大柄の男だった。


鎧には血の跡──魔獣退治の帰りだとすぐわかる。


だが、その瞳は鋭さではなく、

“深い疲れ”を湛えていた。


クレインが慌てて紹介する。


「辺境伯リュゼン様。

こちらが……本日から家政のまとめ役をお願いするナンシー殿です」


ナンシーは立ち上がり、丁寧に礼をとる。


「ナンシー、と申します。

この地でお役に立てれば……幸いです」


辺境伯はじっと彼女を見た。

その視線は粗野さよりも、

“人を見る目”が備わっている。


やがて、ひと言。


「……あなたが来てくれて助かった」


低い声だが、どこか安堵が混じっていた。


「この屋敷は荒れ放題でな。

家政がうまく回らず……兵も手が離せん。

怪我人も増えている」


(あら……思ったより、大変そうね)


ナンシーが困惑すると、

辺境伯は続けた。


「任せられる者が欲しかったんだ。

王都で“有能な夫人がいる”と噂を聞いてな……

まさか本人がすぐ来てくれるとは思わなかったが」


ナンシーは目を瞬かせる。


(……私、噂になるほど働いてたの?

あの家では、感謝のひとつもなかったのに)


辺境伯は少しだけ口元をほころばせた。


「疲れているだろう。

ゆっくり休め。

細かい話は、夜にしよう。

……ようこそ、辺境へ」


その言葉は、

今まで誰にも向けられなかった“歓迎”だった。


ナンシーの胸が温かくなる。


(ああ……ここでなら、生きられるかもしれない)


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